第7話
魔王の本拠地に近づいてきた所からこんにちは村人Aです。今俺は、魔王の本拠地と俺の故郷である南端の村との間に位置する都市に来ています。ここは昔は防衛都市として使われており、主に北側にはそれなりの高さを誇る外壁が佇んでいます。その外壁には鳩が一匹長閑に泣いています。そしてこの物語が、進んでいるということは、そうです。勇者御一行に会ったのです。ですが、俺はそんな勇者一行を見て違和感を覚えました。どうにも殺伐としてる感じがするのです。なにか嫌な予感がします。まあ、何はともあれ恒例のメンバー紹介です。
勇者
武道家
賢者
僧侶
医者
武士の女性
生真面目そうな青年
軽戦士
前回チラ見した
ピンク髪の女性の騎士と
黒髪の男性の騎士
そして新しく入ったであろう
背の小さい少女と
背の高い男性である。
って、あの男性ってもしかして…。ということで早速男性のもとに凸っていきましょう。ここは有数の交易都市だけあってかなり発達していますね、そしてその商店街の入口付近に彼はいました。
「こんにちはー」
「あっ、君は!」やはりこの男性は前回ダンジョンで一緒に戦った男性。どうやらあの後勇者御一行に入隊したようです。
「あの後、勇者パーティーに入ったんですね」
「ああ、元々勇者一行に入りたいが為にあのダンジョンには自分の力試しとしてはいっからな。俺ももう30だからな、いっぱしの剣士として今のうちに何かをなしとげたくてな」どうやらこの男性は剣士さんらしいです。「そうだったんですね。」
「そういうお前さんはどうしてここに?」
「あ、実は僕、新しい住み場所を探してて」
「あー、なるほどな、だがしっかしお前さんならついでに魔王は無理でも四天王ぐらいは倒してもおかしくない気もするが」
「いや、流石にそれは無いでしょう」
「お、そうか…?」
「それは、あんなトロルでだいぶ死にかけだったんですから」
「じゃあ、そうだな!!お前さんが四天王なんて倒せっこないな!」
「いや、貴方も一応同じでは?」
「あっ…」その後は何故か二人でひとしきり笑いあってから、剣士の元を離れたのでした。
次に向かったのは賢者さんのところ。やはり話の長い賢者さんなら何か教えてくれるのではないかと思ったからです。
賢者さんの所に行くと賢者さんが一人で佇んでおりました。やはりおかしいです。そして予想も大方ついています。なら聞かない方がいい気もするのですが好奇心には勝てないので聞いてみます。
「旅芸人さんはどうしたんですか。」
そういえば、いなかった旅芸人さん、そもそも割と賢者さんと一緒にいることが多かったのでこうして賢者さんが一人で佇んでいるとどうしても変な感じがしてしまうのです。賢者さんは神妙な面持ちで黙っています。いや、よく見ると小さく言葉を発しているようです。
「そ…」そ、やはり「それはね…」とかなり深刻な話が始まってしまうみたいです。大体察していましたがそれが、かえって賢者さんが本当に大変な事象を話すとどうなるのだろう、と場違いかつ不謹慎なことを考える余裕を生んでしまいました。そんな邪念を振り払って賢者さんの言葉に注目します。俺がこんなことを考えてもなお次の言葉が出てこなかった辺り賢者さんも思い出して相当辛い気持ちになっているのでしょう。
「その質問を待っていましたわ!!!」
…心配して損しました。
話を聞き終わる頃には僕は眠気をこらえるのに必死で、外壁の方では鳩が二匹、まるで退屈だと言っているかのように鳴きあっていました。
以下、賢者さんの言ったお話の要約です。
勇者一行は2番目の四天王を討伐しに行きました。
しかし、負けてしまい旅芸人が討たれてしまいました。
…この内容を嬉々として語る賢者さんはいくらずっと話せなかったとはいえ流石になんか、こう、まずいと思います。まあ、話したいことがいろいろあったのでしょう。なんせ、勇者の冒険譚としては汚点となるような話なのでなかなか普通は話せませんから。まあ、ですが、そういう訳なら納得です。旅芸人さんにもう会えないのは残念ですが故郷が滅ぼされた時に比べたら何も感じません。やはり奴はどんなものよりも大切なものを奪っていきました、あなたの心です。みたいな感じでしょうか。そんなことを考えていると賢者さんが話しかけてきました。
「そういえば旅芸人さんと一緒にいらした少年くんは大丈夫なのかしら」
気付くのが遅すぎる気もしますが、一応彼女も人心は持ち合わせていたみたいです。たった4回しか言葉を交わしていない僕とは違い、そこそこの間ずっと一緒にいた、というか前回あった感じだと完全に師匠と弟子、みたいな感じだった彼は流石に落ち込んでいそうです。
ということで、ここからは少年君を探してみることにしましょう。
ということでまずやってきたのは武器屋です。
そこにはピンク髪の女性の騎士と黒髪の男性の騎士がいました。前回会った時は見かけませんでしたが、どうして明らかに王国とかのお抱えっぽい騎士がここにいるのかは気になっていたのであわよくば話しかけて聞けたらいいですね。
「ちょっと!折角私たちは王様に勇者一行に入れという誉ある命を頂いたんだからさ、もうちょっと、なんか、こう真面目に出来ないの?」
「うるさいな…こちとら王女様を護送してくださった礼、いわば勇者一行の報酬として無理矢理ぶち込まれてんだからさ、勇者一行なんて、どんな戦場よりも危険があるようなとこ入りたくなかったていうのに…」
なんか、心の声が聞けるのかっていうぐらい、ご都合主義な会話が繰り広げられていますね。というか、あの高貴そうな気品のある女性は本当に高貴な身分だったのですね。まあ、あの人がいたところはまだ、魔王の住処から離れた比較的安全なところですからね。
…俺の故郷はもっと離れてた気がしなくもないんですがそれは。まあ、結局比較的安全っだけで絶対に安全とは言えないっていう事ですね。
「た、確かにそういう側面がないとも言えないけど!それでも、なんか、こう、出来ないの!?」
もう片方の騎士を向いて怒鳴りつける女騎士。
「お前は力み過ぎなんだよ…。確かに光栄な事だけど、もう少し肩の力抜いて出来ないの?」
武器を手に取ったままぶっきらぼうに言う男騎士。
「あなたは!それをし過ぎなの!」
完全に男の態度にヒートアップした女騎士が言いました。
「はいはい、善処します」
それでも全く視線を武具から外さない男騎士。
「全く…。まあ、これ以上騒いだら店主に迷惑か」
いや、絶対に手遅れです。もう店主さんブチ切れ寸前です。まあ、何はともあれ軽戦士の…名前なんだっけ…君探さないとですね。あわよくば勇者一行の軽戦士君の鬱を直したもの、なーんて後世に語り継がれないでしょうか。
まあ、そんな事を考えながら町の商店が立ち並ぶ通りを歩いていると前から強面の男性がちっちゃい少女を連れて歩いてきています。うん、字にすると大分まずいですね。まあ、実際は僧侶の男性が少女と一緒に町を歩いているだけでしょう。…だけだと思いますが、なにか違和感を感じます。もんにょりする、というか、体中が警鐘を鳴らしてくる、というか。まあ、多分、あんなガタイのいい僧侶が子供を連れていると誘拐にしか見えないから、なのでしょう。
「久しぶりだな」俺が考えているとこちらに気づいたらしい僧侶が話しかけてきてくれました。
「え、ええ久しぶりです」
「こんにちは」俺がふたりに挨拶を返すと少女の方も挨拶を返してくれました。外見は5歳ぐらいのちっちゃい少女ですがその姿はかなり可愛らしく、思わず見とれてしまいそうです。…駄目です、こんなことを考えていると変なレッテルを貼られかねません。
「えっと、そちらの…子供は?」
「ああ、俺たちが引き取ったんだ」
「あのね、あのね、お家、燃えちゃったの!」
興奮気味に話す少女。どうやら、2番目の四天王と戦った町で両親を失って悲しんでいたところを少しの間だけだぞと拾われたらしいです。故郷を失った、という点では俺と同じ境遇なのですがシンパシーというものは感じません。やはり、すぐに助けてくれる存在の有無、でしょうか。て、勇者一行は何も悪くないんですがね。
「あ、後いつも一緒にいたあの武道家さんはどうしたのですか?」
「知らん」あっさりと僧侶さんに返された。そういえば武道家さんが勿論賢者ほどではないが、おしゃべりなので陰に隠れがちですが僧侶さんはかなり寡黙な方でした。…これは気まずい…。
「えっと、あの剣持ったお兄ちゃん見なかった?」今度は少女の方に聞いてみる。
「剣持ったお兄ちゃん、5人いる!」そういえば軽戦士くんも、勇者も、少年も、王国の兵士も、剣士も、皆剣を持っていました。一行が多すぎるのも考えものですね。(違う、そうじゃない)
「えっと、あの黒髪の…」
「黒髪のお兄ちゃん、4人いる!」
そうだ、勇者が赤髪なのを除けば皆黒髪だ!紛らわしい。
「えっと、僕の背ぐらいの…」
「お兄ざの背と同じぐらいのお兄ちゃん、3人いる!」
そうだ、剣士が190近いのを除けばみんな僕と同じ160代だった。黒髪の人、紛らわしい!!
「えっと、あの、服装が重々しくないっ、て、いうか…?」
「服装が重くないお兄ちゃん、 2人いる!」
そうでした。兵士が鎧を来ているのを除けば2人とも軽装でした。その、兵士ももう1人の女兵士とは違って兜や篭手は着用していないですが。というか、もう、2人なら、両方行ってくれないですか…?
「軽戦士はどこにいる?」
「軽戦士のお兄ちゃんはあっちだよ!」
軽戦士で通じるんかい!!!とりあえずありがとう僧侶さん
「分かった、ありがとうね。」
「うん!!」満面の笑みを浮かべる少女。それに思わずけおされる。俺って子供苦手だったんだな…。
「では、僧侶さん、また会いましょう」
「さらばだ」
こうして2人に別れを告げて少女が指した方へ向かうと広場に出ました、そこではベンチに軽戦士君と、勇者がいました。
「でも、僕なんか…」
「ああ、確かに今のお前に魔王を倒すのは無理だろう」
な、なんか凄いところに出くわしたのですが。道理でここの周りに人が多い訳です。
「お前は自分を守ってくれる者に頼りすぎた、独り立ちする機会を逸していたんだ。このままではこちらとしても君を連れていくのは反対だ」この話し方的には説得して連れていこうとしてるようですが勇者の言葉はともすれば脆い人の心など簡単に砕けるような強さと響きを持っていました。群衆は固唾を飲んでこのやり取りを見守っています。「実はな、そもそも僕は君を連れていくのには反対だった。なら何故君は今ここにいるか?実はあの人が猛プッシュして来たんだ。」あの人という部分を勇者はより一層、しみじみと読み上げました。あの人、というのは旅芸人さんのことでしょう。周りではしきりに出来かけの歌を口ずさむものたちもいます。「必ず私があの子を一人前、いや、達人に仕立て上げてみせます、だからあの子を預かってあげてください、と。あの人は言い切った。彼は君の心の弱さも分かっていた。理解した上でそれを治す為に一緒に修行をしたんだ。彼は君の事を本当に信じていた。もし君は今ここで抜けることがあの人の為だと思っているなら、それは間違いだ、断言しよう。旅芸人、ピジョットは君がこのままここにいることを願っていた。君が本当にあの人のことを思っているなら、これからの旅には心を入れ替えて、着いてきて欲しいと僕は願っている。」勇者は最後は早口になりながらも淀みなく言い切りました。一泊おいて、かわいた破裂音がなりました。見ると野次馬の群衆の1人が拍手をしたものでした。それは瞬く間に轟音になりました。その轟音にかき消され、軽戦士の少年がなんと言ったかは聞こえませんでした。ですが、彼は泣いていました。慈愛の象徴ともされる勇者の力強い言葉は確かに彼の心に響いたみたいです。俺は凄い、と思いました。彼は、自分が会えて少し刺のある「鞭」のような物言いをすることによって、彼が慕っていた旅芸人の思いやりを感じさせる「飴」のように甘い言動を目立たせた、つまり彼は敢えて悪役になる道を選んだのでしょう。僕にはやはり勇者には勝てないな、そんなことを思ったのでした。
結局、何人かには会えませんでしたが、僕は一泊した後、街から出ることに決めたのでした。ふと外壁に目をやると鳩が二匹どこかに向かって飛び立つところでした。
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