第32話 女子回 ※ネルメ視点
勇者様が温泉へと向かってから結構な時間が経過したけど、ちゃんと上手く伝えられたかな?
今は随分と丸くなったみたいだけど、シャウザは元々、魔王様の意思を一番色濃く受け継いた男だったから、ちょっとだけ心配かも。
さすがの勇者様も裸の状態じゃあ厳しいだろうし……うーん、ちょっとだけ見に行っちゃおうかな? 勇者様の裸も見れるし、勇者様に会えるし、勇者様にとってアタシは必要なはずだし。
うん、いっちょ会いに行ってやりますか。
濡れてもいいように髪をまとめて、着替えと身体を拭く布を持って、勇者様の所に行く前にお顔チェック、目元よし、髪型よし、歯も綺麗、息も臭くない、今日も可愛いネルメちゃんだ。
いざ、しゅっぱーつ!
って、あれ?
なんか急に、身体が浮いてる。
「ダメです」
振り向けば、そこには巫女ちゃんの姿が。
片手で持ち上げるとか、巫女ちゃん力持ち。
「アタシまだ何も言ってないけど」
「心の声がダダ漏れです。私だって勇者と一緒に温泉入りたいのを我慢してるんですから、ネルメさんも我慢して下さい」
えー? やだかも。
巫女ちゃんだって横乳丸見えの下からまくり上げれば全部見えちゃうような、お風呂に入りやすい服装に着替えてあるくせに、素直じゃないなぁ。
「あ、そうだ。ねぇねぇ巫女ちゃん」
「なんですか」
「別にさ、我慢なんてしなくて良くない? 相手は勇者様なんだし、二人掛かりで襲っちゃえは多分いけるって。二人仲良く赤ちゃん身ごもって、そんで仲良し大家族とか、どう?」
あ、巫女ちゃん頬赤らめて考えてる。
ふふっ、ホント、素直じゃないなぁ。
「……私が妊娠したら、高年齢出産ですから」
「え? 四十前でしょ? アタシからしたら小娘もいいところなんだけど?」
「魔族からしたらそうかもしれませんけど、私、人間ですので」
「むー、あ、じゃあさ、巫女ちゃん人間やめちゃえばいいんじゃない?」
提案すると、ポトンっと落としてくれた。
今の巫女ちゃん、結構強いのかも。
「人間を、やめる?」
「うん。前に巫女ちゃんゾンビになったでしょ? あんな感じで人間をやめれば、一気に若返ること出来るよ?」
巫女ちゃんをゾンビにしたのは結構前の話だけど、アタシの能力 『
だから、巫女ちゃんのことだっていつでもゾンビにすることが出来る。
ゾンビにした後はキーちゃんお手製の化粧グッズを使って、人体の根幹から若返らせることが出来るんだけど。
「結構です、私は私のままで充分だと、勇者は思っているでしょうから」
「えー? 若返りに興味ないの?」
「ありません」
「本当に?」
「本当です」
むぅ、そんな人間っているのかな。
どこぞやの王様とか、不老不死のために国を滅ぼしたー、なんて話もあったくらいなのに。 それに巫女ちゃんは女、綺麗じゃなくなってもいいとか、絶対に無いと思うんだけど。
ちぇ、勇者様と交尾したいな。
この場にいるのはレフティさんとキーちゃんだけ、うーん、さすがに巫女ちゃんを崩すのは、このメンバーじゃ厳しいかも。
なんて考えていたら。
「ふぃー、ただいま」
勇者様、帰って来ちゃった。
急いでお迎えに行かなくっちゃ。
「おかえりなさい勇者様ー!」
「ああ、ただいま」
ぱたぱたぱたーって走って、勇者様にぴょんって飛びつく。勇者様の良い匂い、私の中の雌の部分が
「結構いい湯だったから、ネルメたちも入ってくるといい。ただ、完全に露天だから、人目がないかちゃんと確認してから入った方がいいぞ?」
アタシのこと、心配してくるの?
アタシのこと、女として扱ってくれるの?
そんなの、勇者様だけだ。
ああ、ヤバい、気遣いひとつで本当にヤバい。
勇者様大好き、頬に残る無精髭も、角ばった顎も、形の良い耳も、眉毛も黒い瞳も全部好き。私を屠った腕も凄い好き、胸に耳を当てると聞こえてくる鼓動も好き、もう全部好き。好き以外ないよ。
「シュウちゃん、湯上がりの冷たい飲み物と軽食、用意しておいたからね」
勇者様大好き、勇者様大好き、勇者様大好き、勇者様大好き、勇者様大好き、勇者様大好き。
「ああ、レフティ、ちょっといいか?」
「……大丈夫、顔を見ればわかるよ。勇者さんと一緒に行くんでしょ?」
ああ、勇者様の背中に指を這わせるだけで、なんだかいけないことをしているみたい。産まれてからの数百年で初めて私に敗北を与えてくれた人。早く身ごもりたい、きっとアタシ達の子供、最強だよ。
「ありがとう、必ず、この家に戻る」
「ふふっ、別に、今すぐ出る訳じゃないんでしょ? 今日はこれから私達も温泉に行くから、シュウちゃんはマナちゃんのこと、宜しくね」
「ああ、任せてくれ」
勇者様勇者様勇者様勇者様勇者様勇者様勇者様勇者様勇者様勇者様勇者様勇者様勇者様勇者様勇者様勇者様勇者様勇者様勇者様勇者様勇者様勇者様。
「はい、じゃあネルメちゃんも行きましょうか」
「えうっ」
せっかく勇者様にくっついてたのに、ひょいって引き剥がされちゃった。もっとくっついていたい。でも、巫女ちゃんの方がきっと正しいんだ。
だから素直に従う。
勇者様に嫌われたくないから。
月明かりの下、女たちだけで温泉へと向かう。
勇者様は心配していたみたいだけど、温泉の周りに人の気配は感じられない。残念なことに、勇者様も覗きに来ないみたいだ。
別に、見てもいいのに。
残念な気持ちが、溜息として口からこぼれ出る。
「ふぅ……」
すると、同じように溜息をついたのがもう一人。
魔剣士シャウザの奥さん、レフティさんだ。
おお、レフティさん、多分この中で一番お乳が大きい。あ、そうか、授乳してるからか。アタシの擬態も、お乳だけは自由自在に出来ないんだよね。
なんていうか、物足りない。
もっと大きければ勇者様だってイチコロなのに。
……そうか、授乳するようになればいいんだ。
勇者様にお願いして、授乳出来るように……って、それが出来ないから困ってるんじゃないか。ああ、ダメだ、勇者様が絡むとアタシの頭がバカになる。
とりあえず、温泉に入ろう。
つま先からじんわり温まってきて、おしりまで温かいが伝わってくるとぶるって震えちゃう。肩まで浸かると、もう全身ぬくぬくだ。
ふぃーって、なんか一息ついちゃう。
……そういえば、この温泉に勇者様も入ってたんだよな。どこら辺に座ってたんだろう? きっと勇者様のことだから、奥の方かな? あーあ、一緒に入りたかった。なんて、温泉の中をうろうろしていると。
「やはり、子育てって大変なのでしょうか?」
気遣いの言葉を、巫女ちゃんが投げかけているのが耳に入る。見ると、二人とも湯には浸からず、に腰を下ろし足だけを湯船に入れている。
二人とも、スタイル良いなぁ。
それになんか、二人から大人の魅力を感じる。
アタシが一番最年長なはずなのに。
「大変……だけど、それ以上に責任感が出てきちゃって、疲れたって気がしないかな。だって私が産んだ私の娘だから。どれだけ疲れてても、笑顔ひとつで元気になれちゃうんだ」
何となく話を聞きたくなって、近くに座る。
「では、先のため息は……」
「あれは、シュウちゃんがいなくなっちゃうなーって、ちょっと淋しくなっちゃって。シュウちゃん朝から晩まで私と一緒にいてくれるから、いないのが想像出来ないんだ」
「仲が良いんですね」
「ふふっ、新婚ですから。そういう巫女さんは、どうなのですか?」
屈託のない笑みと共に問われているけど、巫女ちゃんの表情はどこか暗い。
「私は……もう、四十前ですから。産まれてからずっと神殿で巫女としての洗礼を受け続け、恋愛も何も分からないままにここまで来てしまいましたから、今更赤ちゃんとか、ちょっと無理かなって」
眉を下げ、寂しそうなままに微笑む。
むー、巫女ちゃんおっぱい大きいし、全然形くずれてないし、スタイルだってめちゃくちゃいいいのになんで諦めちゃってるのかな? 誰も巫女ちゃんのことを四十前だなんて思ってないよ?
それに、例え勇者様に奥様がいようが、最愛の人との遺伝子を残すって考えは間違ってないと思うんだけどな。
アタシとだったら最強の子が、巫女ちゃんとだったら聖職者として最強の子が生まれると思うんだけど。
……うん、やっぱり気に入らない。
たかが年齢ごときで諦めるとか、アタシには理解出来ない。
「巫女ちゃん、ごめんね」
「え?」
『
「あっ」
アタシのスキルを発動させたことにより、巫女ちゃんはゾンビへと姿を変えた。とはいえ肌が紫色へと変色し、意識が無くなりうめき続けるだけ。
「うー、うー」
「……え、ネメルさん、巫女さん、どうなったのですか?」
「アタシのスキルでゾンビにした」
「え、ゾ、ゾンビ?」
ゾンビになれば、痛みは無くなる。
だから、どんな整形手術も自由自在だ。
「キーちゃん!」
「なの!」
「巫女ちゃんの身体、若返らせるよ!」
「了解なのー! やってやるなのー!」
十代の若き肉体まで、若返らせてあげるからね!
そしたらやるよ! 勇者様を襲ってやるんだ!
——————
次話『夜伽、そして既成事実爆誕』
ここで少しお休みをいただきます!
必ず続きを書きますので、お待ち下さいませー!
独身の四十代で左遷された中間管理職はゲーム世界に転移して幸せを掴み取る。〜魔王が死ぬと世界が終わる。だから俺は、魔王軍を立ち上げた〜 書峰颯@『いとこ×なじみ』配信開始! @sokin
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。独身の四十代で左遷された中間管理職はゲーム世界に転移して幸せを掴み取る。〜魔王が死ぬと世界が終わる。だから俺は、魔王軍を立ち上げた〜の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
参加中のコンテスト・自主企画
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます