第5話 シュイピェンとパオセン
リンと次の約束を済ませると、パオセンはウェイと名乗る若い男を待ち受けた。学校施設以外にはなにもない丘陵の緑が鮮やかで、虫のざわめきばかりが際だっている。しばらくすると目的の男が木造の建物から出てきた。
「よう。頑張っているかい、『シュイピェン』」
と軽々しい口調で声を掛けた。
「パオセンか、何しに来たんだ。」
素っ気なく応えたウェイは、本名で呼ばれても眉一つ動かさない。
「何しに来た、はないだろう。陣中見舞いというやつだ。歴史研究家のウェイ氏と話はついたぞ。口伝に隠された意味の解読に協力してくださるそうだ。校長からも口添えを戴いたので、二つ返事で了解だ。」
シュイピェンは磨き込まれた校舎の木枠に凭れて、敷地に植えられた欅が風に揺れるのを眺めた。
「もうすぐ終了だ。西都の言語に訳せば、恋歌、望郷の歌、神のみことば、精霊の歌、というところだな。そんなものに西都が欲しがるような秘密が本当に隠されているのかい。」
応えながら、先程のメイの様子を思い浮かべた。
訊かれたことには素直に答えるが、自分の気持ちは言わない。曖昧な表現や解らないところを質すと、しばらく考えてから言葉を選ぶ。人と話すのに慣れていないよう な頑ななところと、理の勝った気質の双方が伺える。春からずっと定期的に会い、微妙に態度は変わってきたと思う。学校の生活や『龍の背』のことを訊くと黙り込んでしまうが、恋歌や精霊の歌の内容について彼が理解を示すと、はにかみながらも瞳が輝く。厳しい風土に培われた幻想譚の美しさに、ウェイと「名乗る」若者は惹かれつつあった。
そんなシュイピェンの心などには無頓着、と言わんばかりの素振りで、質問には答えず、
「がんばりたまえ。人生の航路を輝かしくするためにね。」
と言って、パオセンは足早に離れていった。
婚約者との面会が終わり、少女が寮へ戻ると、かけよってくる小柄な姿が見えた。「ほらきた。」とリンは身構える。(今度は、お金持ちの恋人が『かつてはいた』ことでも自慢し始めるのかしら。それともあたしの夜会服よりも豪華な薄絹の夏服を新調したのかしら。)しかし、イボンヌは別の方へ話を持っていった。
「彼との面会は終わったの?いいわよねぇ。身内に恵まれているひとは。休暇目前でも会いに来てくれるんだもの。」
(まあ、そうくるのね。)とリンは、はやく話を打ち切るきっかけを探しながら、かみ合わない返事をする。
「イボンヌ、熱はもう下がったのね。良かった。でも無理しない方が体に良いわよ。部屋でもう少し横になったら?」
話好きの少女は、夏風邪を引いたらしく、しばらく寝込んでいたのだ。
「まだ少しだるさが残っているわ。各部屋から次々と病人が出たけど、私が一番重かったみたい。小さいから体力がないの。どうせ夏期休暇になっても帰るところがないんだから、ゆっくりと休めるわ。バーロンの夏は華やかでしょうね。でも、私は夜会や絹の服にはあんまり興味がないなあ。休暇の間は寮に残って、図書館の本を読むつもり。クレアの本は学校中の評判だけど、私だってあのくらいの小説なら書けるわよ。」
イボンヌの話はどうしてこう、聞く人の気持ちを逆撫でするのかしら、とリンは思った。
他人と比べて勝てると思ったことは、しっかり意思表示する。どう言いつくろっても負けていると判断すると、その対象自体を否定するのが彼女の常だった。相手をしていると、自分の楽しみに水を差されたような感覚が走る。(メイはよくも気長につき合っていられるわね。)小説を書くと豪語しても、それが現実になることはないだろう。
悪気の無さが饒舌に拍車を掛けるので、適当に話を切り上げて部屋に帰りたくなる。一見無愛想な『背の民』の女の子が、穏やかにイボンヌとつき合えることがまた、リンの癪に障る。
「話の途中でごめんなさい。あたし、クレアの部屋に行くので。」
強引に振り切ろうとしたとき、本人が通りかかった。リンはクレアの腕にしがみつくと、甘える声で言った。
「相談があるんだけど、部屋にお邪魔して良いかしら。メイはまだ校長室よね。」
イボンヌは自分だけ弾かれた気がして、いても立ってもいられない。反射的に、強い山の日差しに焼けた浅黒い肌を持つ、カモシカのように身軽な足取りの少女を思いだし、校長室に一番近い玄関へ向かった。
夢のなかで、(これは夢だ)と思った。立ち枯れの木々が鋭い山肌に突き出ている。夏の黒ずむ針葉樹の陰でクレアが笑っている。
制服ではなく、粗末な木綿から白い手を差し出すと、若者が岩の上からその体を引き上げる。(他人に引っ張られるよりも、自分の腕で掴む岩を決めた方が、ふらつかないで登れるのに)と、心の中で文句を言っているのが、わたしなのか、わたしが観ているクレアなのかよくわからない。
やはり女はよろめいて男の胸の中に抱きとめられた。彼の胸の鼓動を感じてゆっくりと見上げた顔はウェイ。その目線はクレアの筈だけれども、わたしの視覚なのだった。
画面は突然時が移り、男が山を下りていく姿を、クレアのわたしが見送っている。傍らには祖母がいて遠のく男をなじり続ける。「おかあさん、もうやめて。」とわたしが言う。言葉を続けようとしても声が出なくなった。音のない言葉たちはお腹のなかでどんどん膨らんでゆく。苦しくて着物の前をはだけると、胸を突き破って一匹の龍が空へ飛び出していった。濃紺の天から声が響く。「チューメイ、行くな。チューメイ。」
突風の音が、断崖の下から背の鞍の祠まで這うように迫ってくる。声にならない叫びを上げそうになったとき、クレアに名前を呼ばれて目覚めた。
「メイ、随分うなされていたわ。気分はどう?」
訊かれてもすぐに返事ができない。クレアがわたしで、わたしは祖母に「おかあさん」と言っていた。そして胸から月の龍が飛び立って、わたしを「チューメイ」と呼んだ…。ではウェイは母の夫だろうか。夢なのだから辻褄は合わない。以クレクレアから聞いた物語と、深夜に会っていたウェイとクレアの映像が混ざり、祖母から聞かされた母の恋物語に重なったような……
心配そうに覗く、くっきりした二重まぶたに、どう説明したものか。
「あなたは、そうしていつも一人で胸に抱え込んでいるのね。学校生活に合わせているだけで、心の中はいつも別の場所にいるみたい。西都の運営する教育機関は面白くないかしら。」
たおやかな仕草でわたしの腕を取ると、手の甲に優しく口づけし、それから私の髪をすくように撫でた。くすぐったいけれどホッとする。思い出す限り、こんな風に体に触れられたことがなかった。幼子になって母親に抱かれている感じがした。
「勉強は好きよ。今まで気がつかなかった自分が広がっていく感じ。」
ぽつりと答えた。考え深そうな瞳に、消灯後にこっそり灯した蝋燭の火が映る。
「寮の友達に心を開くことはできないの?はぁ……
いえ……あなたは元々誰にも本音を吐かない人なのね。」
当たっている。春からずっと、寝食を共にしてきたのだ。わたしの性向を徐々に理解してくれていたのだろう。今更だと思いつつお詫びを伝えた。
「起こしてしまったみたいでごめんなさい。わたし、何か寝言でも叫んだのね。」
つかの間、窓の外で欅が揺れた。闇の中で緑の葉がささやくように感じられた。木の精が誰にも聞かせぬよう、吐息にも似た歌を風に乗せる。先に沈黙を破ったのはクレアだった。
「あなたを見ていると、とてもつらいわ。以前の私と似ているんだもの。」
わたしとクレアはひとつも似ているところがないわ、と思ったけれど、口に出さなかった。今のクレアが好きだ。クレアのようにウェイから想われたい。稀少な民間伝承の語り部としてではなく。わたしは祖母の思い描くような語り部にはなれなかった。背の民の癒し手にもなれなかった。村中が受け入れまいとしている、西都の本だけが好きで、それは悪いことだった。半分西都の血が流れているのに、月の龍の声を感じとるだけでなく、その意志を共有することができた。神懸かりは怖れられた。誰の気持ちにも応えられないままで、山を下りてきた。わたしには役立たずなのだった。クレアはだれからも好かれる。必要とされている。
わたしの返事を待たずに、彼女は続けた。
「子供の頃ね、私は無邪気で、感じたことを口に出すのが好きだったの。大人はみんな、小さな私の小生意気な言葉を面白がって、随分得意だった。」
そうだと思う。たじろぐほどにこちらの目を真っ直ぐ見て事実を言う。言葉の裏側も含みも感じさせない、のびやかな精神……
「でもね、ある日、親族と郊外の草原に遊びに行って、従妹と口げんかになってしまったの。『クレアなんか意地悪で大嫌い』って泣いてね、もう家に帰ると言いだして、大人を巻き込んだ騒ぎになったのよ。周囲が私の肩を持つものだから、その子は余計に拗ねて、草原を走って、みんなから離れて行って…崖から落ちて足を折ってしまった。それで今も足が少し不自由でね、あの子の歩く姿を見るたびに、『私のせいだ』と思ったら、突然しゃべることが怖くなったのね。口に出した言葉は取り消しが効かない。言葉を口にすることは他人を傷つけることのような気がして、しゃべらなくなったの。」
そこまで話して、クレアは口をつぐんだ。
「話すことは罪じゃないわ。」と、わたしは言った。何故急に自分の考えを言いたくなったのかわからない。胸の中にこみあげる私以外の何かが、どうしても言葉になりたいと叫んでいるようだ。
「その子はきっとクレアが好きでたまらなかったんだわ。クレアみたいになれない自分が口惜しくて走ったのよ。」
そう、わたしと似ている。
「自分の考えを人に話すのは、良いことだわ。イボンヌがイボンヌの思い描いた世界で君臨するように、誰もが自分の物語の女王なんだわ。ひとりひとりが美しい語り部手で、主人公で、みんなが特別な人間なんだわ。私はクレアが好きよ。」
なんだか勝手に言葉が飛び出してくるみたいだ。言ってしまってから恥ずかしくなって顔が火のように熱かった。クレアの目を見つめ返す勇気がなくて、橡色の窓に映る蝋燭の火を見た。
「ありがとう…。ふふふ。そしてね、いつの間にか元のキッパリハッキリものを言う私に戻っていたの。三つ子の魂百まで、かしら。持って生まれた性格は変わらないのよ。でも生きていく内にどんどん成長していく。基本は変わらなくても枝葉のように色々な自分が芽生えて、変わり続けるのね。」
そこで会話が再び途絶えた。敷地内に植えられた樹木が、橡色の硝子窓の向こうでざわめいていた。
「ねえ、夏期休暇の予定は?」と訊かれたので、黙って首を横に振った。
「リンの夜会に誘われたの。一緒に行かないこと?」
思っても見ない誘いだった。行ってみたい。まだ知らない山の向こう側に憧れたように。でも、山を下りるのが怖かったように、今度は学校から出るのが怖かった。そんな気持ちを察したようにクレアが笑う。
夏期休暇になると、クレア、わたし、イボンヌは、リンの招待で、商業都市バーロンを訪れた。リンが来て欲しかったクレアだけだと思ったが、クレアが「メイも是非」と熱心に言い、メイは「イボンヌも一緒なら」と言い張った。「みんなで行った方が楽しいわ。」と主張するクレアに折れた形で、わたし達は夜会に出ることになった。裕福な商家の私邸を会場に、音楽と踊り、飲食などを楽しむ。そういう華やかな世界が初めてのメイは緊張していた。クレアが貸した夜会服は、わたしには少し丈が長く、随分と胸が余ったが、光沢のある淡いたまご色の柔らかい絹で襞を作り、上品な濃い茶のサテンの帯で腰を締めると、布はわたしの痩せた肢体にまとわりついて動くたびに舞う。細い足首が見え隠れし、履き物は、使わないで取って置いたウェイが用意した支度金で買った。
「まあ、なんて綺麗なの。」と言いながら、クレアは真珠の首飾りをわたしの首に巻き付けた。彼女自身は、薔薇模様の地紋の入った薄い絹と、光沢のある無地の絹を重ねたものに、バラ色のリボンを付けて、すばらしく輝いていた。リンご自慢の新調した夜会服は、水色に染めた絹の襟元に、同じ生地で作った花が散らしてあり、大層凝ったものだった。イボンヌも深緑の絹に薄い桃色の襟が付いた、愛らしい服。若さと健康に輝いて、四人はそれぞれに美しく、女の子らしく着飾ったことに満足した。
リンの婚約者が少女達に紹介された。背が高く、着痩せして見えるが、筋肉の張った姿勢の良い男性で、身のこなしも洗練されている。誰もがふたりはお似合いだと思った。
わたしがイボンヌを引き受けているので、クレアはウェイに甘えた。夜会の雰囲気に慣れた男女と、名士の出であるクレアのあとを、慣れない二人が付いて回る格好になった。話し掛ける大人も多く、女学校の生徒達は一々紹介される。一人の婦人がクレアの書いた本を読んでいて、『背の民』の話題になった。
「とても貴重な口承文学なのだそうね。この会場で披露していただけないかしら。」
と、たまご色の夜会服を着たほっそりした少女に話しかけた。突然に話を振られて、わたしは萎縮した。手の込んだ料理やお酒や果汁などが振る舞われ、和やかなに談笑する人々を、もの珍しそうに眺めながら押し黙っていた少女が、周囲の視線を浴びた。クレアはこの婦人の意地の悪さを不快に思った。あきらかに夜会などに慣れていない様子の女の子に、何を言い出すのだろう。本の話から離れようと、別の話を始めようとしたとき、リンの婚約者も、「僕も是非聴いてみたいな。どんな感じなの?」と、興味を示した。学校では自己主張の強いイボンヌもここではすっかりおとなしい女の子になってしまっている。
※
メイはその場の雰囲気から、(これはわたしが何か暗唱をしないと収まらない)と判断した。意を決すると、星空の見える露台に出て、夜に瞬く光を見つめ、それから目を閉じて風の動きを感じ取ろうとした。ここがどんな場所なのか彼女には関係なかった。誰の前であっても語り部は物語の真実を詞にするのが自然なことである。ウェイに全て渡したら、彼女を縛っている何者かから解き放たれるように思っていただけだ。
「では、クレアの本の中にも引用されている恋歌を西都の言葉に訳して暗唱します。」と一言説明してから、わたしは語りはじめた。
月龍の鱗が降りてくる 湖に浮かぶと 氷の大地になる
湖面を駈ける二匹のカモシカに 風が斬りつける
冬枯れの枝に霧氷は巻きついて 牝鹿の氷る睫毛は 牡鹿の頬にふれ
さらわれそうな吐息は 瞼を撫で
互いに寄り添いながら 蒼い月の白い森のなか いつまでも佇む
地龍よ、その宝玉で 氷を溶かさないでおくれ
我らは牡鹿と牝鹿の末裔
月龍が愛のあかしに与えた 地龍の玉は月龍の目
白きカモシカは あなた方の落とし子
母なる地龍、斎龍よ その宝玉で我らを歩ましめよ
愛しあう牡鹿と牝鹿を 引き離すのを、もう少しだけ
待っておくれ
語り終えると、会場が静まりかえったので、メイはとんでもなく場違いなことをしたのかと身の置き所がなくなった。これが『背の鞍』の祠であれば、神秘的な高揚感に包まれて心地よいはずだった。だが、それは束の間のことで、まずパオセンがよく響く音でゆっくり拍手しはじめた。つられて拍手の輪が広がっていった。イボンヌが小走りに近づき、メイを抱きしめた。
「ああ、どうなるかと思ったけど、素敵だったわ…よかった。」
と、吐息混じりにささやいた。口承文学を披露して欲しいと言った貴婦人も、物憂げにではあるが褒め言葉を口にした。
「へえ、立派なものなんだね。僕にももっと教えて欲しいな。なかなか詩的な物語だ。」
と話しかけるパオセンに、(あたしの婚約者は彼女に興味を持ったのかしら)という心配が少しだけよぎりながらも、リンは今夜のメイは凛としていて綺麗だと思った。
クレアの婚約者で兄と名乗っていることにも全く気がついていない。
それから会場は盛り上がり、やがてお酒が回る勢いか、夜会の常か、雰囲気がけだるくなっていった。主催者の挨拶で幕を閉じ、わたし達はパオセンに付き添われて、立派な四輪馬車に乗り込みリンの家へ向かった。
パーロンの郊外、リンの両親が待つ邸宅で、一同は挨拶を交わし、心地よく疲れた体を客用寝室で休ませて貰った。その夜、四人の少女は、学校の宿舎とはかけ離れた豪華な寝台で横になり、夜会での出来事を復習した。少女特有の感傷的なうち明け話をし、それから、とびきり面白い話に笑い転げた。いつしか眠りについて目覚めた頃には忘れてしまうであろう、馬鹿げた話。しかし心の片隅に大切にしまわれてゆくのであろう話は文字になることもなく、夜の静寂に溶けてゆく。
少女達が幸せな一晩を過ごしている頃である。
繁華街の裏通りがさらに奥まると、複雑にいりくんだ正体不明の建物が無数に放置されている。倉庫と思われる、古びた大きさだけは十分にある部屋の一室で、二人の男が対峙していた。
「ご苦労だったな。礼を言うよ。」と男はシュイピェンの胸に銃口を向けた。最近西都で改造されたばかりの最新式である。何か考える暇も与えまいと言わんばかりに素早く引き金を引く。頭を狙わないのは、男が訓練された兵士ではないからだ。だが、偽物のウェイだけは自ら葬る。何でも手下にまかせるほどの高貴な身分でもない。
シュイピェンは発砲音と同時に全身が燃え立つような衝撃に包まれた。痛みを越えたと思われる痛みが脈打つ。それは現実にはごく僅かな時間の経過だったが、撃たれた彼の目には長い回想の場面が映しだされた。
ウェイという中年の学者が龍を研究した本を出した。それにパオセンが興味を持ち、一儲けしないか、と誘ったとき、どうして自分は断らなかったのだろう…… 「クレア…ごめん。愛していた。」心の中でつぶやいて部屋の壁に倒れかかった。
最後の瞬間、頭の中に響いてきたのは、繰り返し韻をふみ彼の耳の奥に鳴り響いている、メイの『癒しの詞』だった。
「片づけろ。」の合図で数人の男達が死体を運んだ。男は撃ち殺した若者から奪った口述筆記の束を大切にしまうと、足早に部屋を出た。すぐに西都の高貴な方の部下がやってくる筈だ。死んだ男と同じ憂き目にあわないように、うまく立ち回って地位を得る目星はすでにつけてある。長い間反都組織の首領を演じてきた。男は引き際を心得ているつもりなのだ。
「馬鹿な男だ…」とパオセンは呟いたが、その目には憐れみを宿していた。一人の女への愛なんていう、純情を後生放さないから利用されて終わるのだ。女など、地位を得ればいくらでも取り替えが効く。抱かれるためには愛や恋が必要な女は、飽くことなく男にそれを求めて止まない。
彼は母親の連れ子で、義理の父親と折り合いが悪かった。家の正当な後継者である妹を愛し、連れだし、ふたりで生活することを望んでいた。複雑な家庭の事情に押しつぶされて反都組織に入ったものの、ひたすら妹の愛を得ることだけ考えていた。一途な純情…、パオセンには、とうの昔に捨て去った子供の感傷に過ぎない。けれども、その一途な愛ゆえに、パオセンは心の何処かでシュイピェンを羨んでいたことを認めた。
数日後、斎河に若い男の死体が浮いていた。拳銃で胸を撃ち抜かれていた。身元が判るものはなにも身につけていなかったが、一人暮らしをしていて消息不明になった息子の捜索願を出していた貴婦人に問い合わせたところ、その夫が警察へ遺体の確認に来た。身体的特徴からシュイピェンであることが確認された。
歴史学者のウェイに依頼した原稿の注釈は、じきに送られてくるだろう。月の龍は、地を揺り起こし、雨を降らせ、世界を変革するほどの強大な魔力を持つという。それをうまく利用すれば、パオセンは西都の中央さえ牛耳ることができるかもしれない。目的のためならなんでもするさ、とひとりごちた。
夏期休暇で生徒たちがいなくなった学校は静まりかえっている。校長のユンウェイは、毎年この時期は寂しいと同時に、正直安らぐのだったが、今は激しく動揺している。新学期が始まると同時に、クレアから、異父兄が反都組織に入って危ないことをしているらしい、と相談を受けた。と、同時に西都から委託されてパオセンが調査に来た。歴史学者を名乗って、西都の推薦を取り付けた生徒をクレアの兄が連れてくるので、そのまま引き受けて欲しいと依頼された。
反都の活動は内偵中であり、西都は事実『背の民』の口承文学に興味を持っているという。その内容も正体もわからないまま、政治活動のどちらにも協力できない。本物の歴史学者に調査を依頼すると同時に、クレアの兄は西都から監視されていることを知らせた。だが、クレアの実家から兄シュイピェン死亡通知が届いた。組織内の抗争に巻き込まれて銃弾に倒れたという。
一度クレアの屋敷に引き取られた後、義理の父親とうまく行かずに家を出て、本当の父親の姓を名乗って別れて暮らしていた。一人の若者の孤独な心中を思うと胸が痛んだ。クレアは今頃どんなに傷ついているだろうか。そして、メイには何と説明したらいいのか。西都の運営する学校を任されながら、彼女は西都のやり方に疑問を持たないではいられなかった。そこへ再びパオセンがウェイを伴って尋ねてきたのだった。
「歴史学者のウェイ先生から連絡を戴きまして、口伝筆記の内容は一部がごっそり抜けていることがわかったのです。シュイピェンがどこかに隠したか、『背の民』の女の子がまだ何か秘密にしているのではないかと考えられます。もう一度校長のご協力を得たいとお願いに上がりました。」
パオセンは冷たい事務的な口調でそう言った。
「そんな、待ってください、クレアは実家からまだ戻りませんし、メイにはなんて言えば良いんですか。彼女は友達のお兄さんが亡くなったことに心を痛めていますし、クレアの悲しみは長く癒えないことでしょう。私の生徒達をこんなふうに痛めつけることになるなんて。西都の意向よりも、少女達一人ひとりの人生の方が大切ですわ。」
バーロンで兄の訃報を知らされたクレアは、すぐさま実家に帰った。リンは二学期が始まるまでパーロンで過ごすというので、イボンヌとメイだけが寮に帰ってきている。追い打ちをかけるように、メイに、ウェイはクレアの兄で反都の活動家だったのだと伝えるなんて、校長にはできそうになかった。
「校長先生が協力してくださらないのであれば、私がその生徒に直截訊くだけのことです。何もそんなにお悩みになることはないのではありませんか。」
それまで無言だったウェイは、若者の言葉を遮るようにして、『背の民』の口承文学について説明を始めた。
「『恋歌』、『望郷の歌』、『神のみことば』、『精霊の歌』のうち、『神のみことば』だけがありませんでした。これは神を降ろすときに使われる詞で、『背の民』には最も神聖視され外部に漏らさないようにしていたようです。その少女は、『もう古い語り部の詞などなんの効力も持たないから』とそのままシュイピェンさんに語ったと聞いています。が、もしかしたら、肝心なところは黙っていたのかもしません。世界に富をもたらすとか、世の中を変えるほどの力とか、風説に惑わされる必要はありません。生徒さん達をそっとしておいてあげるのが、我々大人の役目ではないでしょうか。長年研究してきた者の意見としては、シュイピェンさんの記した書類の束だけで十分な文化的価値があると思います。シュイピェンさんは詩人の才能がおありだったのでしょう。とても美しい文体で訳していらっしゃった。若く、才能のある方がこんなにはやく亡くなるのは、とてもつらいことです。反都活動家同士の抗争に巻き込まれて撃たれるなどと、そんな危険なことをする若者だったとは思えません。」
独り言のようにぼそぼそと長く話ながら、学者として大成しないのは目の前の若者のように、どこまでも追求する熱意が足りないからだと思った。一少女の気持ちなどに配慮しているようでは、歴史民族の探求には向かないのだろう。しかし、学者が何のために研究を重ねるのか、根本を見つめ直せば、やはり今生きている人々のあり方を求めているのだ。
それでも、パオセンはあきらめなかった。シュイピェンは妹のクレアに、筆記した一部をこっそり渡していたのではないだろうか。当たってみる価値はある、と判断すると、
「わかりました。西都の内偵機関にはそう報告します。」
と話を打ち切った。
パオセンは、ウェイにも挨拶してから校長室をあとにすると、図書室に向かった。シュイピェンが口述筆記のためによく利用していたことを思い出したのだ。校長には反都勢力の内偵だと伝え、シュイピェンには反都勢力の仲間として、龍の力を手に入れようと唆した。もしかして図書館に何か隠していたかもしれないと思ったが、大して期待があったわけではない。文学全集や歴史資料の並ぶ棚を見て歩くと、奥まった言語学の棚にメイがいた。ただの野暮ったい田舎娘かと侮っていたのだが、夜会で恋歌を暗唱した度胸には驚いた。リンが「コワイ」と言ったものの正体は、あの人を魅了する語り部の力ではないかと思う。
しかし、薄暗い書棚の影で立ちすくむ彼女は、ありふれた、おとなしそうな少女だった。
「やあ。先日は素晴らしい暗唱をありがとう。あれからクレアのご実家で不幸があったそうで、気の毒なことだったね。」
と、声を掛けても押し黙っている。かわいげのない子供だ。
「今、校長のお目にかかってね、許可は戴いた。これからすぐ、チャイロンへ行かないか。クレアの実家がある。」
「どうしてわたしがクレアのお家に行くんですか。お悔やみの言葉を伝えるのなら、クレアが寮に来てからの方が良いと思うんです。わたしはクレアの友達だけど、親戚でも、兄上の知人でもないんですもの。」
と小さな声で応えるメイは、夜会の日とは別人のように覇気がなかった。
「君は故人と親しかったじゃないか。いつも面会に来ていた彼がクレアの兄上さ。」
薄暗い図書室の片隅であるにもかかわらず、少女が身を固くした様子が伝わってきて、パオセンは少し満足した。
「わかりました。わたしをチャイロンに連れて行ってください。」
とメイは答えた。
イボンヌがメイの不在に気がついて、校長に知らせに行った頃、二人はすでにチャイロン行きの汽車に乗っていた。
斎河も下流になると流れも緩やかで、汽車の窓から見える景色は平坦な緑の大地が続いている。『龍の背』の山々を源流とする斎河は麓の辺りの高原では、この季節、色鮮やかなバイカモが清流に揺れているが、河に沿って肥沃な平野が農地となり、やがて都市部になると、石造りの建物や木造の家屋が混然と並ぶ。
汽車の旅を二人は殆ど言葉も交わさずに過ごした。多くの客や駅の喧噪ばかりが耳についた。メイは少しだけパオセンに尋ねた。
「何故クレアのお兄さまがわたしを迎えに来たんですか。そして、どうしてパオセンさんはシュイピェンさんをご存じなんですか。」
パオセンは、まだ彼女が何か秘密を握っていることを考慮して、ある程度の説明をし、多少の信頼を得ようと考えた。
「私は没落貴族の庶子でね、家がどうにも立ちゆかなくなって金目のものを全部売り払おうとしたんだ。そのとき、書斎で伯父の、古い日記を見つけた。
私の家はチャイロンの中心街にあった。斎河下流の人々はチューメイの血筋だって知ってるかい。クレアから聞いた月の龍にまつわる話では、チューメイは月の龍の死に絶望して河に身を投じたことになっていただろう。
私の家の伝承では、月の龍こそ西都に攻め上ろうとした略奪者で、チューメイは月の龍に献上された西都の女だというんだな。私の祖先はチューメイの直系だと主張していた。
伯父はその伝承を信じて、月の龍を祀る一族を調べに行った。その一族は標高差のある山奥に住み、下界と交わりを絶っていた。その地を訪れるのは、登山を趣味とする貴族だけだな。金と暇が有り余っていて、村人を案内に雇い、何日もかけて普通の人は寄りつかない険しい山に登る。伯父はその村で月の龍の直系だという女と恋に落ちて、結婚したのさ。」
(それでは、わたしの父は、パオセンさんの伯父様?)と思いながらメイは男を見つめた。汽車はトンネルに入り、客はそれぞれに自分の席の窓を閉め、黒い煙が車内に入らないようにした。
「私とシュイピェンは大学が同じだった。お互いに歴史が好きで話し合ううちに、私の家の伝承に話が及んでね、義理の伯父の娘が、『龍の背』にいるのだが、伯父は村を追い出されたまま娘に会うこともできずに失意のまま亡くなった、と話したことがある。『背の民』には月の龍の不思議な力を持つ巫女がいるらしいという噂を信じて、シュイピェンは色々と調べていた。その後彼は反都の活動家になり、私は西都の出先機関に就職した。」
メイはウェイ、いやシュイピェンの整った面差しを想った。もう死んでしまったとは信じられなくて、嘆くことさえ思いつかない。呆然とした感じをどう言い表せば良いのかもわからない。クレアは何故、ウェイがシュイピェンであることを黙っていたのだろう。兄妹であるのならば、わざわざ深夜に隠れて面会などしなくても…と考えたとき、夜の欅の下で話していた二人の雰囲気を思い出して疑惑を抱いた。あれは恋人同士の姿に見えた。
「シュイピェンには口承文学の全てを伝えたのか。本当は何かを隠しているのでは?」
パオセンの質問に、少女は再び沈黙で応えた。
パオセンの言葉や態度は、なにか嘘が混じる。誠実さを感しない。
非嫡出子であるシュイピェンの葬儀はひっそりと行われた。母方の連れ子ということ以上に、反体制派の活動家をしていて、抗争に巻き込まれて死んだ、ということが寂しい葬儀の主な理由だった。名家の息子にふさわしくない存在と死。それでも弔問客は多く、ショックで倒れた母に変わって、クレアはそれぞれの客を接待した。うわべだけの慰め、儀礼的な言葉に一々、「ほんとうにお世話になりまして。」「ご心配をおかけして申し訳ないことです。」と挨拶した。悲しみに浸る暇はなかった。父親もやはりあちらこちらに手を回し、なるべく家の名前を傷つけないように奔走した。
やがて弔問客は退いてゆき、静寂が訪れつつある。喪服に身を包んだクレアは、その苦しみにもかかわらず、白い肌が引き立ち美しかった。自室にこもり、落ち着いてきたが、どうにも感情が高ぶりながら、泣き叫ぶことができない。おのれのなかで何かが抜け落ちてしまったような虚脱感に包まれていた。
ゆっくりとシュイピェンとの思い出に浸ることもない。美しかった時々を振り返れば、それはもう失ってしまったことで、胸が熱くなるだけであり、苦しんだ日々を思い返すのには耐えられなかった。
彼女が生まれたとき、父親は少なからずがっかりしたことだろう。その頃は存命していた祖父も。我が子は可愛い、孫はもっと可愛い、それが跡継ぎとなるべき男の子であればなおさら可愛い。しかし、クレアの他に子供は生まれなかった。父親は快活に言った。
「私がお前にふさわしい婿を見つけてくるよ。」それを幼いクレアがどう受け取ったか、本人にも記憶がない。ただ、家を継ぐのにふさわしい人間になるよう努めてきたのは確かだ。女であるからと侮られてはならない、だが、誰もが好む女らしさを失ってもいけない。上手に大人と渡り合うことが身に付いた少女にとって、シュイピェンは唯一の甘えても良い異性だった。わがままを言っても、可愛い妹として許してくれる。
精神的に大人びていた少女の体が、丸みを帯びて女らしさが輝きを増し、徐々に中性的な子供の魅力も失われていった。異性は誰もがクレアを女として品定めするようになる。見られる側のクレアも否応なく男の目を意識せずにはいられなかった。唯一、兄シェイピェンだけは、いつまでもクレアに何も求めない。ただ、甘えさせてくれる、優しく包んでくれる存在だと思っていた。
クレアに縁談が来た。この国では普通、女子は家を継ぐ権利がない。しかし嫡出子がクレアしかいない以上、しかるべき家柄の婿を迎えるしかない。そこではじめてクレアに反発心が芽生えた。相手の男が気に入らなかったのである。社交界で色々な男性と知り合った。しかし兄以上に素敵な人がいるだろうか。すらりとした体躯に少し翳りのある眼差し、世間を知っている男の皮肉な物の言い方、それらの全てが、温室育ちの青年達の誰もが持っていない魅力だった。クレアは婚約を逃れて寄宿学校に入った。
兄は寄宿舎にまでこっそり会いに来た。初めは、子供の頃なんども大人の目をかすめて悪さをしたように。そして『背の民』の少女が入ってくるから、近づいて親しくなるように求めてきた。その少女は、世の中を変えるほどの強い、不思議な秘密を持っている。反都組織に利用できる、と。クレアには兄がそんな曖昧な風説に惹かれるのも、反都組織に出入りする気持ちも解らなかった。
(私たちは幸せだったじゃない。)古めかしくて広い、時として秘密基地として遊べるような邸宅と敷地、貴族でありながら、産業化されていく時代にうまく乗り、成功を収めている父と、美しい母と…。
兄は自立したいと言った。クレアにもそれを求めていた。けれども、彼女にとって、女であることの不利を乗り越えて家を存続していくことのほうが、難しく価値のあることに思われた。ひとり、誰にも寄りかかることなく家を保つことはとても…とても厳しい生き方なのだった。そして孤独なことだ。(お兄さまが思う「私のために」は、ちっとも私の欲しいものじゃなかった。私は兄に甘えることさえしてはいけないの?)
一人部屋で物思いに耽っているとき、来客を伝えられた。名前を訊いてから、私室に通すように言った。しばらくすると、パオセンがメイを従えてやって来た。
「このたびは大変なご不幸に遭われて、お気の毒なことです。」
と青年が型どおりの挨拶をする。クレアも儀礼的に応える。だが、メイは何も言わずただクレアを見つめていた。
「パオセンさん、わざわざお越し頂きまして、ありがとうございます。メイ、一緒に学校へ帰れなくてごめんなさいね。」
彼女が何か深く考えているときの癖で、伏し目がちにうつろなものを見ている。『背の民』の少女は、こんなとき、友人にどんな言葉をかけたらいいのか解らなかった。クレアに対する疑惑もシュイピェンに対する不信も、死んでしまったのだという衝撃も、喪服に身を包んだ女の前では、大きな問題にさえならない気がした。しかしパオセンに黒服の少女の威力は通じなかったようだ。
「まだ悲しみから立ち直れないでいるだろうに、こんな話をして申し訳ないが…」
と話を持ちかけた。
「シュイピェン、…いや、兄君から何か預かっていないか?」
メイはきつい眼差しで青年を睨んだ。この人は、龍の力のことしか頭にないのかしら、と思う。クレアは細い首を少し傾げると、
「何のことでしょう。」と応えた。
「口承の伝記さ。きみは『背の民』の伝承を題材に小説まで書いた才女だ。シュイピェンから筆記の一部を預かってはいないかい?」
どこまでも直截に問いただしたいらしい強引な態度は、パオセン本来の持つ粗野な魅力を引き出していた。
「私は兄から何も受け取っておりませんわ。小説の題材はメイから訊いたものです。」
静かに応える喪服の少女の、表情は硬かった。
「そんなはずはない。口伝筆記の一部は確かに抜けてる。それも一番重要な部分が、だ。」
「何故、パオセンさんがそんなにも『背の民』の伝承に興味をお持ちなのかよく分かりませんわ。」
逆襲されて、(この生意気な小娘が…)と男は思った。
「私が何のためにシュイピェンを見張っていたのか、きみはよく知っているはずだ。もちろん君の名前も反都組織取り締まりのリストに載っていると、知っているんだろう?」
「兄が、月の龍の力は反都組織の役に立つと、あなたから教えて頂いたことも存じていましてよ。」
と、クレアは初めて目線を上げ、真っ直ぐ若者の顔を見た。しかしパオセンはたじろぐことなくさらに続けた。
「名家の子女が反都組織と関わりを持ったりしては、外聞が悪いね。」
「私は政治活動などに一切関わりを持ったことはございません。」
即座に言い切った喪服の胸は早鐘を打っていたが、他人にそれを悟られないだけの演技力は持っている。パオセンは追い打ちを掛けた。
「まあ、その辺りは私の胸先一つで、どうとでも報告できる。しかし…実の兄妹で『できていた』などと風聞が流れるだけで、お家には痛手じゃないのかな。」
クレアはくっきりした二重まぶたを見開いて、上目遣いにパオセンを睨みつけた。
「無い物はないんです!出せと言われても困ります。」
そのとき、今までずっと黙りこくっていたメイが叫んだ。
「わたしが、…わたしがわざと喋らなかったのよ。」
パオセンとクレアは同時に『背の民』の少女を振りむいた。
「夜中に、二人が隠れて会っているのを見てしまったの。…ごめんなさい。」
特に謝らなくてはならない状況でもないのだが、メイは遠慮がちだった。
「へええ、目撃したのにシュイピェンに問いただしもしないで、腹いせに、口伝の一部を黙っていた…それとも、やはり門外不出の大きな力を持つ『言霊』ってやつなのか?」
「いいえ!いいえ…。あの、語り部の詞は、物語であってもそれ以上の魔法はありません。本当です。代々の語り部の乙女達も、それほどの大きな力を持っていたわけではありません。病の治癒を祈ったり、月の龍に穏やかな空を願ったり……それだけです。」
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