感想文

 おぼろげな記憶をもとに、感想を述べていく。



 はじめは胡散臭いというか、どうせ、みたいな感じで読み始めた。少し読んで流すくらいのつもりで。


 それが。

 ハインラインの『夏への扉』と同じ、冷凍保存された主人公。この段階で、おやっ? と思わされた。


 数名が意図的にタイムカプセルで未来へ送られたのに、目覚めたのは確か二人(だった気がする)。未来は、過去の文明を忘れ去ったかのようだった。文明が進んでいたら、タイムカプセル内の人間をほおってはおかなかっただろうから、これは何となく想像していたことだったけれど。

 その二人が華々しく旅に出るのかと思いきや、農作を始めるという現実的な設定だったはずだ。

 せっかく、おやっ? と食いついたのに地味になったから、少し興ざめした。でも、なにか読ませる力があった。題名を忘れてしまったいま、その読ませる力が何によって生み出されていたのかを分析する術がない。それが本当に残念である。


 そして、相棒が多分死んだのだと思う。一人きりになった主人公は、ここでようやく旅に出ることになる。


 よそ者を拒む人たちもいれば、助けようと手を差し伸べてくれる人もいて、主人公は要所要所で危険を回避しながら先へ進む。

 それが、とてもバランスが良かった。主人公だからここで死ぬわけがない。わかっていてもそれが露骨だと、陳腐な作品になるような気がする。主人公がさらされる危険は、回避するまで、まさに手に汗を握るような展開だった。

 小説というより、漫画を読んでいるように映像が頭に浮かび、メリハリあるテンポで進んでいく。


 いくつかの集落を過ぎたところで、気が付いた。

 主人公は、現在ある都市、つまり小説の中では昔の都市をたどって進んでいる…。

 これがまた、急に変わるのではなく少しずつ変わっていき、さらに現在の都市の特長を残しているところがとてもうまい。

『猿の惑星』の自由の女神のように建築物で示すだけでなく、住民の気質を現代と寄せて表現していて、まるで自分がその村や町に存在しているかのように思えた。


 そしてある街で、主人公は、そこから旅を共にする女(だったはず)と出会う。出会いの場所はトルコかイタリアだと感じた。バックグラウンドに宗教の対立があったような気がする。その物語は、いま思えば、小説のちょうど真ん中あたりに配置されていたように思う。

 望まぬ結婚と決闘がスパイスになっていてインパクトが強く、だから詳細は覚えていなくても、面白かったという記憶は残されている。

 演出が素晴らしかったのだと思う。はじめは敵対していた二人。年齢も性別も異なる二人が共に旅に出ることになる。


 もう一度読み返すことができたら、作者の手腕に改めて驚くのだろうか。それとも、古くなってしまっていて、魅力のない物語として映るのだろうか。


 そこから少し記憶が飛ぶのだけれど、シベリア鉄道が出てきたのは間違いない。

 この頃には2頭の犬を連れていて、仲良く旅していた。でも、主人公は歳を取り、導く者から心配される者へと立場が変わっていた。それでも師匠と弟子の関係性は変わらないままだった。男と女の関係にしようと思えばできたところを、あえてしなかったのだと思う。だから、旅に集中できた。

 ここまで読み進めてきた読者は、きっとそれを望むようなタイプではないと計算していたのだろう。私が良い例だ。爺と娘の恋物語など、甘さを加えるとまどろっこしく感じて、読むことを辞めてしまったかもしれない。


 そして、いよいよ、主人公が死を迎える。雪と氷に覆われ、食糧もわずかとなったその場所で、主人公は弟子に言う。

 自分が死んだら、その肉を食らえ。しかし、犬達には与えるな。

 その理由は、娘を守るため。人肉を知った犬は、いつ娘を襲うかわからない獣となるから。

 このプロットにいたく感動したことを覚えている。


 単純な私は、残された一人と二頭で分け合うのかと思っていた。その考えは、見事に、理路整然と裏切られた。なんとハードな展開をするのだろう、こんな展開があったのか、と震えた。


 いま、この感想文を読んでくださっている皆さん。思い出してください。この主人公はアスキーアートでできているのです。


 そこからは、次の主人公となった弟子の一人旅になる。餌の無くなった犬達はいずこかへ姿を消し、氷が解けたころ、確か一頭だけが子犬と共に再び現れた。

 主人公も、犬達も代替わりをしてシベリア鉄道の線路を伝って進む。そのあたりから少し作者も、読み手である私も緊張がゆるんだのか、どのような結末となったのかは覚えていない。


 ただ、この小説は、私にはとても衝撃的な物語だった。

 手に取れる従来の本しか知らなかった私は、名も無い作者の作品なんて、と当時は思っていたのだから(数十年前のお話しですよ)。


 それなのに。私は名作に出会った。ドキドキハラハラするSF。こんなに面白い小説は久しぶりだ、と思った。

 それが、アスキーアートが主人公。ごめんなさい。当時すでに頭の固いおばちゃんだった私は、そんなものは…、という価値観でした、当時は。念押ししますが、いまは違いますよ。


 いまもう一度あの小説を読めたら、どんな感想を抱くのだろう。

 そして、作者はいまどうしているのだろう。


 あの小説を読んだ頃に感じたのは、ある程度年齢を重ねた方が作者ではないか、ということ。それほど、半端ない知識が詰まっていた。

 もし、私の当時の憶測が正しければ、いまは60代以上?


 けれど、カクヨムを始めてから、若い方でも知識の豊富な方がたくさんいることを知ってしまったから当初の憶測の理由に信憑性が無いことは明白だ。成人の書いたもの、ということしかはっきりしたことは無い。


 あの小説の作者は誰だったのだろう、そして今何をしているのだろう。いまも小説を書いていらっしゃるのだろうか。


 あの小説をもう一度読んでみたい。

 でも、読んだら色あせて見えるのだろうか…。


 だとしても、色あせて見えても良いからもう一度。

 もう一度読んでみたいと思うのだ。


 願いが叶えば、書き手として読んでみたい、そう思っている。




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