第12話:エピローグは、懐かしのアイドルグループのように

ブザーが鳴り響き、試合は終わった。


私たちは、その場に崩れ落ちた。勝利を決めた歓喜、そして、これまでの疲労と緊張が、一気に全身から解放されていく。隣にいた佐藤リナは、安堵からか、声を上げて泣いていた。内海ミナは、私たちを一人ずつ力強く抱きしめ、「やったね!」と、かすれた声で何度も繰り返す。諸星カズキは、感情を一切見せないクールな表情のまま、静かに私たちの肩を叩いた。だが、その瞳の奥には、熱い光が宿っていた。


私たちは、バスケを通じて、互いの存在の大きさを知ることができた。それは、私たちがアイドルとして、ステージの上からでは決して得ることができなかった、特別な絆だった。


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試合後の体育館は、勝利の興奮とは裏腹に、静寂に包まれていた。観客席の拍手は、次第に波となり、嵐のようなスタンディングオベーションへと変わった。その拍手は、私たちに向けられたものだった。だが、それは、アイドルとしての私たちだけでなく、バスケプレイヤーとしての私たちに向けられた、敬意の拍手だった。


私たちは、ロッカールームに戻り、汗でぐっしょり濡れたユニフォームを脱いだ。その肌には、練習でできた擦り傷や、小さなマメが無数にできていた。それは、私たちがアイドルとしてではない、バスケプレイヤーとして、勝利を掴むために努力した、何よりも確かな証だった。


「おめでとう、君たち」


先生が、私たちのロッカールームに入ってきた。先生は、私たちを誇らしげに見つめていた。


「君たちのバスケは、私の想像をはるかに超えていた。君たちは、バスケの常識を覆し、誰も見たことがないバスケを創造した」


先生の言葉に、私たちは、思わず顔を見合わせた。


「…君たちを教えられたことを、私は誇りに思う」


先生は、静かにそう言った。その一言に、私たちは、涙をこぼさずにはいられなかった。


その時、ロッカールームの扉が静かにノックされた。開けると、そこに立っていたのは、天馬高校のキャプテン、海老原だった。彼は、私たちを一瞥し、静かに言った。


「君たちの勝利は、偶然じゃない。そのことだけは、認めてやる」


彼の冷たい瞳には、もはや侮蔑の念はなかった。そこには、敗北を喫した悔しさ、そして、私たちへの純粋な敬意が混ざり合っていた。


「だが、これで終わりじゃない。この借りは、必ず返す。次は、絶対に倒す」


そう言い残すと、海老原は静かに去っていった。その言葉は、私たちにとって、未来への、新たな挑戦の始まりを告げる合図だった。


「…行くぞ」


諸星が、静かに言った。彼の瞳には、再び熱い炎が燃え始めているのが見えた。


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次のライブまで、あと3日。


私たちは、ライブ会場のステージで、最後の練習に励んでいた。バスケの動きをダンスに取り入れた新しい振り付けは、まだ完璧とは言えない。だが、私たちの心は、希望に満ちていた。


「ユイ、パスが少し遅い!もっと早く!」


諸星の厳しい声が、ステージに響く。だが、その声には、以前のような焦りはなかった。互いの成長を信じているからこその、信頼の言葉だった。


私たちのライブ会場は、バスケファンとアイドルファン、二つの異なる層で溢れていた。ペンライトの色は、私たちのイメージカラーのピンクと、バスケのゴールネットをイメージした白。その光が、会場全体を、まるで私たちのバスケットボールコートのように照らし出していた。


ライブ直前、私たちは楽屋にいた。静寂が支配する空間で、私たちは互いの顔を見合わせた。


「…怖いね」


佐藤リナが、震える声で呟いた。


「うん。でも、大丈夫だよ」


内海ミナが、リナの手を握り、優しく言った。


「私たちは、一人じゃない。みんなで、最高のパフォーマンスを届けるんだ」


諸星カズキは、何も言わずに、私の肩を叩いた。その手に、確かな熱が伝わってくる。


「(大丈夫。私たちは、もう、何も怖くない)」


私たちは、バスケを通じて、互いを信じ、支え合うことを学んだ。


ライブのオープニング。


私たちは、バスケのユニフォームをモチーフにした、新しい衣装でステージに登場した。その背中には、メンバー一人ひとりの背番号と、グループのエンブレムがスパンコールで光っていた。それは、アイドルとしての輝きと、バスケプレイヤーとしての力強さを両立させた、私たちだけの衣装だった。


内海が、力強く叫んだ。


「私たちは、アイドルです。そして、バスケプレイヤーです!」


その言葉に、観客席から、地鳴りのような歓声が巻き起こった。


ライブが始まった。私たちは、バスケの動きを取り入れた、新しい振り付けを披露した。ドリブルのリズムに合わせて、軽やかにステップを踏む。パスの連携は、まるでダンスのフォーメーションのように、滑らかで、美しかった。


それは、私たちがバスケを通じて得た、新しいパフォーマンスだった。


内海は、満面の笑みで歌い、諸星は、クールな表情のまま、キレのあるダンスを披露する。佐藤は、力強くラップを刻み、私は、チームの司令塔として、みんなの動きをまとめ、最高のパフォーマンスへと導いていく。


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ライブの興奮が最高潮に達したその瞬間、私たちは、バスケットボールを手に、ステージに立った。私たちは、音楽に合わせて、ドリブルを始める。その音は、私たちの心の鼓動とシンクロしているようだった。


「行くぞ!」


内海が、力強く叫んだ。


私たちは、互いにパスを回し、ステージを駆け抜ける。それは、バスケの試合であり、ライブだった。


そして、最後に、私は、内海にパスを出した。内海は、ボールを受け取ると、ステージの中心に向かって走り出す。


「シュート!」


内海が、高くジャンプし、ボールを放つ。そのボールは、まるで私たちの希望を乗せているかのように、光り輝いていた。


ボールは、リングに吸い込まれるように入り、ネットを揺らした。


その瞬間、会場全体が、歓声と拍手で揺れた。


歓声が止み、再び静寂が訪れると、ステージ上には、私たちの荒い息遣いと、高鳴る心臓の鼓動だけが響いていた。


私たちは、勝利の喜びを分かち合うため、互いに抱き合った。汗と、少し土埃の匂いが混じり合う。その温かさが、私たちの心を震わせる。


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ライブ後、私たちは、ファンからのメッセージや、SNSのコメントを読んでいた。


『ライブとバスケ、どっちも最高だった!マジでヤバい!』

『#idolbasket #奇跡のアイドル』

『彼女たちを見て、青春時代を思い出した。あの頃の自分も、こんな風に夢を追いかけてたな…』

『この子たち、まるで昔の懐かしい国民的アイドルみたいだ。でも、あの頃のアイドルよりも、ずっと泥臭くて、力強い』

『彼女たちの歌声は、まるでバスケのパスみたいだ。一人ひとりの個性が、チーム全体を輝かせている』


私たちは、バスケを通じて、新しいファンと、そして、新しい夢を見つけることができた。


それは、アイドルとしての輝きと、バスケプレイヤーとしての情熱が、一つになった、私たちだけの物語。


私たちは、この物語を、これからもずっと続けていく。


「次は、全国へ行こう」


諸星が、静かに言った。その言葉に、私たちは、互いの顔を見合わせ、静かに頷き合った。


「うん!絶対に!」


内海が、笑顔で答えた。


私たちは、バスケを通じて、新しい物語の扉を開けたのだ。それは、アイドルとバスケプレイヤー、二つの夢を追いかける、私たちの伝説の始まりだった。

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アイドル★ドリームプロジェクト ― コートをステージに ― 五平 @FiveFlat

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