第9話



海の家『海の家 ーbeach Houseー』

——知られざる舞台裏ーー



[午前4時30分。まだ空が藍色に沈む中、

一台の軽トラックが海岸線の砂利道を走る。

ヘッドライトが照らす先には、

まだ電気の点いていない海の家が並んでいる。]


プロローグ:夜明け前の仕入れ

望月吾郎(57歳)が『海の家 ーbeach Houseー』の鍵を開けるのは、

毎朝4時45分。「早起きは三文の得だ」と呟きながら、

まず最初にするのは氷の補充だ。


「うちの店の命はかき氷だからな。

氷が溶けたら商売あがったりだ」


彼の軽トラックには、都内の製氷会社から仕入れた、

20キロの氷塊が10個積まれている。

一個480円。夏のピーク時には一日で15個消費する計算だ。

[製氷会社『氷河商事』の倉庫。マイナス15度の冷凍室で、

作業員たちが氷塊をトラックに積み込んでいる。

午前3時から始まる出荷作業]

「海の家への配達は夏場だけの季節商売だ。

でも40年続けている望月さんのところは、もう家族みたいなものですね」

(氷河商事・配達員の山田さん談)


第一章:食材・飲料調達の現実

午前5時30分。ボスは隣町の『中央市場』へ向かう。

海の家組合に加盟する12店舗分の食材を、

組合長として一括仕入れするためだ。

仕入れリスト(一日分):


冷凍たこ焼き(業務用):240個入り×8箱 @1,200円

焼きそば用麺:3玉パック×50個 @180円

キャベツ:1箱(約10kg) @800円

豚バラ肉:5kg @1,800円/kg

ソース(お好み焼き用特大):12本 ＀480円

かき氷シロップ(イチゴ、メロン、ブルーハワイ):各2本 @380円

とうもろこし(茹で用・北海道産):50本 @120円/本

焼き鳥用鶏肉(もも・むね・つくね):各2kg @1,200円/kg

醤油ラーメン(生麺・スープ付):30食分 @180円/食

タイカレー(レトルト・業務用):20食分 @320円/食


飲料関係の仕入れ(週3回配達):


ビール(アサヒスーパードライ350ml缶):10ケース @4,200円

ノンアルコールビール:3ケース @3,800円

コーラ(500mlペットボトル):8ケース @2,800円

オレンジジュース:5ケース @2,500円

お茶(600mlペットボトル):12ケース @2,200円

スポーツドリンク:8ケース @2,600円


[午前7時。大手飲料メーカーの配達トラックが到着。

運転手の田村さん(45歳)が冷蔵庫への搬入作業をしている。]

「海開き期間中は週3回の配達になります。

特にビールとスポーツドリンクの動きが早いですね。

暑い日は予想以上に売れるので、

在庫切れしないよう気をつけています」

(田村さん談)

[市場の魚介コーナー。威勢の良い掛け声が響く中、

ボスが仲卸業者と値段交渉している]

「望月さん、今日はいいタコが入ってますよ! 

茨城県産の朝茹でです」

「そうですか。ちょっと見せてもらいます」

漁師や板前など40年の経験で培った目利きだ。

タコの足の太さ、吸盤の大きさ、茹で加減を瞬時に判断する。

「よし、3キロもらいましょう。

でも先週より50円高いじゃないですか」

「仕方ないですよ、燃料代も上がってますから」

「まあ、お客さんに喜んでもらえるなら、いいでしょう」


第二章:行政とのやり取り—営業許可と衛生管理

[6月上旬。鹿馬町保健所の立入検査。

白衣を着た検査官が厨房設備をチェックしている。]

保健所との定期検査(年2回実施):

検査項目:


食材の保存温度管理(冷蔵4℃以下、冷凍-18℃以下)

調理器具の清拭・消毒状況

従業員の健康診断書・食品衛生責任者講習修了証の確認

手洗い設備の整備状況

食材の仕入れ先記録簿の管理


「毎年のことですが、望月さんのところは管理がしっかりしていますね。

特に温度管理と清掃が徹底されています」

(鹿馬町保健所・衛生課長 森田さん)

[厨房の壁に貼られた「食品衛生管理チェック表」

毎日の清掃記録、温度記録が几帳面に記入されている]


消防署との安全確認(営業開始前必須):


消火器の設置状況と使用期限確認

ガス設備の安全点検

避難経路の確保

電気設備の絶縁状況


[消防署員がガスボンベとコンロの接続部分をチェックしている。]

「海の家は火気を扱う施設なので、

特にガス漏れには注意が必要です。

毎年、営業前に必ず安全点検を実施しています」

(鹿馬町消防署・予防課 佐々木さん)

営業許可書更新手続き(5年ごと):


申請手数料:16,000円

食品衛生責任者講習受講:6,000円

建物構造基準適合証明:8,000円



第三章:災害時対応—台風と避難誘導

[7月下旬。気象庁から台風第5号の接近警報が発表された。

ボスが組合の緊急会議を招集している]

台風接近時の営業判断基準:


風速15m/s以上の予報:営業中止を検討

風速20m/s以上の予報:即時営業中止

波浪警報発表時:海水浴客の入水禁止措置


[台風対応チェックリスト

(壁に貼られた緊急時対応マニュアル)]

事前準備(24時間前):


看板・テント等の固定確認

食材の早期消費・廃棄判断

現金の金庫保管

重要書類の防水処置


緊急時対応(警報発表時):


客席の海水浴客に避難指示

従業員の安全確保

電気・ガスの元栓閉栓

建物施錠・避難


[避難誘導訓練の様子。3人の高校生バイトが、

海水浴客役の組合員を指定避難所まで誘導している]

「お客様、台風の影響で危険ですので、

町の避難所へ移動をお願いします」

(真琴の誘導の声)

避難誘導訓練実施記録(6月実施):


参加者:組合員12名、従業員15名

避難完了時間:5分32秒(目標5分以内)

指定避難所:鹿馬町立体育館(徒歩3分)

連絡体制:組合長→各店舗→町役場→消防署


「災害時は何より人命が最優先。

売上なんて後回しです。命がなけりゃお天道様に、

顔向けできないやくざな仕事になっちまいます」

(ボス談)



第四章:バイト管理の実態—給与とシフトの現実

[事務所の壁に貼られた「8月度 アルバイト勤務シフト表」

色分けされた予定表には、

3人の高校生の名前が書き込まれている]


「娘のマコ(真琴)もそうですが、

短期バイトのため基本的に休みはありません。

そのため時給を上げるようにしています。

夏の暑い時期にぶっ倒れそうになりながら、

一生懸命やってくれている姿を見たら、

ちょっと多めに入れてやりたくなりますね」

(ボス談)


[真琴が給与明細を見ながら話している。]

「最初は時給1,000円でしたが、

仕事を覚えてから1,100円に上がりました。

娘が働くのをとても嫌がっていたのに意外でした。

あと、お盆期間中は忙しいので、休日手当もつきます。

同世代のコンビニバイトより条件はいいと思います」

労働条件:


労働時間:1日最大8時間(高校生のため)

休憩:4時間勤務で30分、8時間勤務で1時間

有給:なし(短期アルバイトのため)

昼食:まかない提供(焼きそば、おにぎり等)

制服:支給(Tシャツ、エプロン、帽子)


[勤務時間外、3人でまかないの焼きそばを食べている風景]

「まかないが美味しいのも、ここで働く魅力の一つです、

あと、彼女募集中です」

(*勇太が笑いながら言うと、

真琴が無言で焼きそばのヘラを振り上げる)



第五章:SNS戦略—真琴の投稿がもたらした変化

[真琴がスマートフォンで、出来たてのかき氷を撮影している。

背景には青い海と白い雲が広がっている]

インスタグラム投稿実績:


アカウント名:@mako_beachhouse

フォロワー数:1,847人(2024年7月時点)

 →4,523人(2025年8月時点)

投稿数:147投稿

最高いいね数:2,847件(「夕陽とかき氷」の投稿)


[7月15日の投稿。

夕日をバックにしたグラデーションかき氷の写真がバズった]

投稿文:「今日の夕日は特別きれいでした🌅

かき氷のグラデーションと重なって、まるで絵画みたい✨

#海の家 #鹿馬海岸 #かき氷 #夕日 #beach #sunset」

バズ投稿の影響:


リーチ数:45,678人

保存数:892件

シェア数:234件

この投稿をきっかけとした来店客:推定150組

(聞き取り調査)


[真琴の投稿戦略について語る様子]

「最初は何となく撮ってたんですけど、お客さんに、

『インスタ見て来ました』って言われるようになって、

責任を感じるようになりました。

今は毎日必ず1回は投稿するようにしています。

あとなるべく、明るく書くようにしています。

折角見てもらっているのにお通夜ではたまらないですからね」

月別フォロワー数推移:

2024年7月:1,847人

2024年8月:2,156人

2025年6月:3,891人

2025年7月:4,234人

2025年8月:4,523人(月末時点)


[ボスが真琴のSNS活動について語る。]

「正直、最初はよく分からなかったんですが、

若いお客さんが『インスタ見て来ました』って言ってくれることが増えて、

SNSの威力を実感しています。マコ(真琴)には感謝していますね」


投稿内容の内訳:


かき氷:34%

夕日・風景:28%

従業員の日常:18%

料理:12%

イベント・お客様:8%



第六章:天候に翻弄される経営—雨の日の現実

[どんよりと曇った空。気象庁の週間天気予報を見ながら、

ボスが険しい表情を浮かべている]

天候別売上データ(7月実績):


晴天日(20日間):平均売上 38万円/日

曇天日(8日間):平均売上 16万円/日

雨天日(3日間):平均売上 8万円/日


[7月22日、梅雨の戻りで一日中雨。客席には誰もいない。

真琴が暇そうにテーブルを拭いている]

「雨の日は本当にお客さんが来ませんね。

せっかく仕込んだ食材も無駄になってしまうし、

バイト代は出ていくし、正直厳しいです。

まあだから、必要最低限の少数精鋭でいくわけですが、

雨でも人が来れば働き方改革もできるんですけどね」

(ボス談)

雨天時の売上内訳(7月22日の例):


来客数:6組12名

売上:18,500円(晴天日の約10分の1)

主な注文:缶コーヒー、カップラーメン等(雨宿り客)

廃棄食材:仕込み済み焼きそば麺20人前、カットキャベツ5kg相当


[雨の日の対策として、ボスが取り入れた工夫]

「雨の日用メニューとして、温かいうどんやおでんを始めました。

それと、テイクアウト用の容器を用意して、

近隣の民宿やホテルへの出前サービスも試験的に始めています。

いまは採算が合わなくても、今後また違うアイディアが浮かぶかも知れないし、

運がよければそれがもっと上手い方向へ行くかも知れない。

何もしないよりはやっぱりいいですからね」



第七章:お客様の声—リピーターたちの証言


[午後2時、昼食ピークが過ぎた客席で、

常連客へのインタビューを実施。]

田島さん家族(東京都在住・毎年3回来店):

田島夫妻(45歳・42歳)と中学生の娘2人

「ここに通い始めてもう7年になります。

最初は偶然立ち寄っただけだったんですが、

店の雰囲気とかき氷の美味しさに魅了されました」

(田島太郎さん談)

「特に印象的なのは、スタッフの皆さんの温かい接客です。

娘たちも『今年も海の家のお姉さんに会いたい』って言うんです」

(田島美香さん談)

「去年、雨で海に入れなかった時も、温かいうどんを出してくれて、

雨宿りさせてもらいました。商売っ気じゃなくて、

本当に親身になってくれる感じが好きです。

あと、タイカレーと醤油ラーメン美味しいんですよ」


高橋さん(56歳・地元住民・週2回来店):

「わしは地元じゃが、週に2回はここでコーヒーを飲みに来る。

望月のボスとは歳が近くてね、昔話に花が咲くんじゃ」

「最近は若いお嬢さんたち(高校生バイト)が元気よく働いとって、

見てて気持ちがええね。特にマコ(真琴)ちゃんの作るかき氷は、

芸術品じゃ。近頃は勇太くんの焼きもいいね、プロになってきてる、

ただ、アイツは女好きじゃね」

大学生グループ(4名・神奈川県在住・SNSで知って初来店):

「インスタで見て『絶対行きたい!』ってなって、

みんなで車で来ました」(大学3年・佐藤さん)

「写真で見るより実物の方が全然きれいで、味も最高でした。

特にタイカレーですよ、タイカレー、

本格的で驚きました、ひと手間加えてるって言ってましたけど、

味全然違いましたよ」(大学2年・鈴木さん)

「海の家っていうともっとテキトーな感じかと思ってたけど、

すごくちゃんとしてて。また来たいです」(大学3年・山田さん)


[常連客の来店頻度データ]

年3回以上:23組(全体の8%)

年2回:67組(全体の15%)

年1回(リピーター):156組(全体の31%)

初回来店:234組(全体の46%)



第八章:海の家組合の結束

鹿馬海岸海の家組合


設立:昭和52年(1977年)

加盟店舗数:12店舗

組合長:望月吾郎(『海の家 ーbeach Houseー』)

副組合長:佐藤花子(『波音』)

[月に一度の組合会議。各店舗の店主たちが、

「海の家 ーbeach Houseー」の奥座敷に集まっている。

テーブルには組合費の収支報告書と、

今年の海水浴客数データが並んでいる]


「今年の入込客数は、去年比で15%減です。

コロナの影響がまだ尾を引いています」

(望月組合長)

「うちだって、平日はガラガラですよ。

バイトの人件費すら出ない日もあります」

(『磯の香』店主・山本さん)

組合の主な活動:

共同仕入れによる原価低減(約12%のコストカット効果)

海岸清掃活動(毎週月曜日、午前6時から)

安全監視員の共同雇用(ライフセーバー2名の人件費を分担)

宣伝活動(合同でのSNS発信、観光協会との連携)

[早朝の海岸清掃風景。店主たちが手分けして流木やペットボトルを拾っている。

潮風に白髪を揺らしながら黙々と作業する姿]



第九章:若い力 ――高校生バイトたちの証言――


『海の家 ーbeach Houseー』では、

夏季限定で高校生2名がアルバイトとして働いている。

彼等の眼から見た海の家の日常とは・・・・・・。

[午前9時。開店準備中の店内で、

3人の高校生が手際よく作業している]

望月真琴(17歳・高校2年生):

「最初は亡き母の思い出の場所だったんで働いてみたかったんです。

でもいざ働くとなると、おっかなびっくりしてましたけど、

働いてみると結構面白いです。お客さんとする会話が楽しくて、

特にかき氷を作るのは、意外と奥が深いんですよ。

シロップのかけ方一つで見た目が全然違うし、

氷の削り具合で食感も変わります。

その内、チョコレートパフェなんかも提供出来たら、

素敵だなあと考えるようになりました」


[真琴が手慣れた様子でかき氷機を操作している。

ふわふわの氷が器に盛られていく]

「将来は大学に行きたいけど、やっぱり夏休みはここで働きたいです。

父(ボス)がいつも『お客さんの笑顔が一番』って言ってるんですが、

本当にその通りだと思います」

武藤巧(17歳・高校2年生):

「僕は新米のうえに、素人なんで、担当というほどじゃないんですよ。

どちらかというと、ここはプロフェッショナル気質なんで、

みんなそれぞれに合っている仕事をやっている合間を、

僕がしていくのが仕事ですね。

でも、一人で焼きそば作れるようになりました」

[巧が大きな鉄板で焼きそばを作っている。

手首のスナップを利かせた手つきは、もうベテランの域だ]


「あと、僕は最初は人見知りでお客さんと話すのが苦手だったんです、

マコちゃんには声ちっさって思ったって言われました。

あ、冗談交じりでしたけどね。

でも、今は常連さんと世間話するのが楽しみです」

[巧が笑顔で客席のテーブルを拭いている。

その表情には、接客への自信が表れている]

「印象に残ってることですか? そうですね、

去年の夏に来た家族連れです。小さい子がかき氷を食べて、

『美味しい!』って言ってくれて、

お母さんが『また来年も来ようね』って話してるのを聞いた時は、

すごく嬉しかったです。この仕事の意味を実感しました」


友野勇太(17歳・高校2年生):

「ここで働いて分かったのは、海の家って思ってる以上に大変だってことです。

朝早いし、暑いし、あと、彼女と遊べないし、絶賛募集中なんですよね(?)

だのに、ボスは焼きのきわめつくしと言って俺を網へダイブさせるわけです。

うおおおおおおお、焼けるううううう(?)

あ、すみません、これ以上余計なことを言うとマコ(真琴)ちゃんに、

ゴミムシの扱い受けるんで、はっ、すみません(?)

えーと、それにお客さんが多い日は休憩もろくに取れないし、

見るのとやるのとは大違いですよね、ゴミ清掃員みたいなもんです。

でも不思議と充実感があります。卒業してこの経験は絶対に活かしたいです」

「具体的に言うと、あの、彼女作りたいです(?)」


[3人が揃って作業している風景。息の合った連携プレーで、

次々と注文をこなしていく]

「みんなそれぞれ違うけど、私にとって、

この海の家は単なるバイト先じゃないです。地域の一部として、

何か大切な役割を担ってるって感じます」

(真琴)

「将来、もしチャンスがあれば、

この経験を活かして自分でも何か始めてみたいです。

マコちゃんやボスを見ていて、大学や、就職について色々考えます、

自分で選んだ答えが人生を作っていくんだなって、

働きながら、たまに考えています」

(巧)

「海の家がなくなったら、この海岸の魅力も半減しちゃうと思います、

やっぱり女の子を引き寄せる、そういう魅力があるんですね、

具体的に言うと、彼女欲しいです(?)」(勇太)



第十章:地域との共生

鹿馬町の人口構成(令和5年度):


総人口:4,847人

65歳以上:47.3%(全国平均29.1%)

主要産業:観光業(58%)、漁業(23%)、農業(19%)

[漁港で網の手入れをする漁師の橋本さん(72歳)。

海の家の食材として納入するワカメやコンブについて語る]

「海の家の人たちとは、先代から、もう50年近い付き合いですね。

うちで獲れたワカメを使って、味噌汁作ってくれるんです。

観光客の人たちも『地元の味』って言って喜んでくれます」


地元との連携事例:

漁協からの海産物直接仕入れ(市価より20%安く調達)

農協からの野菜供給(キュウリ、トマト、とうもろこし)

町内会との協力(祭り期間中の特別営業、地域イベントでの出店)


[ボスが地元の農家・松井さん(84歳)の畑を訪れる。

曲がったキュウリや規格外のトマトを格安で分けてもらう交渉]

「形は悪くても、味は変わらないからね。かき氷に添える漬物にしたら、

お客さんにも喜ばれますよ、あ、いまの子は食べないかな、

意外といけるんだけどね」



第十一章:経済の現実

『海の家 ーbeach Houseー』の年間収支(推定):

収入:


夏季営業(7-8月):約1,200万円

春・秋の週末営業:約150万円

年間売上合計:1,350万円

支出:

食材費:約350万円(売上の26%)

人件費:約200万円(バイト代含む)

施設維持費:約80万円(建物修繕、設備更新)

組合費・各種税金:約65万円

光熱費:約70万円

その他経費:約85万円

年間支出合計:850万円

純利益:約500万円(うち夏季営業純利益:約400万円)


[帳簿を見ながら微笑むボス]

「おかげさまで、ここ数年は安定して利益を出せています。

でも、これは地域の皆さんと従業員達のおかげです。

特に高校生バイトの子たちが頑張ってくれるから、

サービスの質も上がりました」



第十二章:継承への希望

[夕暮れ時の海の家 ーbeach Houseー。

一日の営業を終えたボスが、3人の高校生バイトと、

一緒に店内の片付けをしている。]

ボスには娘が二人いる。一人は7歳、そしてもう1人は17歳の真琴さん。

しかし最近、長女の真琴さんが店の経営に興味を示し始めている。

「真琴が『将来はこの店を継ぎたい』って言ってくれて、

正直驚きました。でも嬉しかったですね。

ただ、まずは大学でしっかり勉強して、

視野を広げてから判断してほしいです。

先代から引き継いだ時はやっぱり色々苦労しました、

新しいことをすれば変なことをすると言われるものです。

それにやりたいことがあるのに無理してやるもんじゃない」

(ボス談)

鹿馬海岸の12軒のうち、後継者が確定しているのは5軒に増えた。

若い世代の地域への愛着が、希望の光となっている。


[組合の副組合長、佐藤花子さん(63歳)の証言]

「最近は若い人たちも海の家の仕事に興味を持ってくれています。

組合長の娘さんが始めたSNSで情報発信したり、

新しいアイデアを持ち込んでくれたりするのが功を奏したんかなあ。

伝統を守りながら、時代に合わせて変化していくことが大切ですね」


エピローグ:夏の終わりに

[8月31日、夏季営業最終日。

海の家の店主たちが今シーズンの振り返りをしている。]

「今年も何とか乗り切れましたね」

「来年も、みんなで頑張りましょう」

「お疲れさまでした」

夏の終わりとともに、海の家は静寂に包まれる。

でも来年の夏、また同じように店主たちは早朝から準備を始める。

観光客の笑顔のために、地域の活性化のために、そして何より——。

「海が好きだから」

ボスの言葉が、潮風に乗って消えていった。

真琴が父の横で、同じように水平線を見つめている。


[真琴がスマートフォンを取り出し、夕陽に染まる海の家の写真を撮る。

その写真は翌日、多くの人に愛される投稿となる]

「来年はもっとたくさんの人に、この海の魅力を伝えたいです」

真琴の言葉に、希望の光が見えた。

[夕日が水平線に沈む中、シャッターを下ろした海の家が一列に並んでいる。

来年の夏まで、長い眠りに就く。

しかし、SNSの画面では、この夏の思い出が永遠に語り継がれていく]


[最後のシーン。ボスが店の電気を消し、鍵をかける。

看板の「海の家 ーbeach Houseー」の文字が、

街灯の明かりに照らされている。]

「また来年、ここで会いましょう」

そんな約束が、潮風に乗って遠くまで運ばれていった。


[制作データ]

取材期間:2025年7月15日〜8月31日

取材協力:鹿馬海岸海の家組合、鹿馬町観光協会、

 地元漁業協同組合、鹿馬町保健所、鹿馬町消防署

撮影日数:延べ18日間

インタビュー対象者:27名

(高校生バイト3名、行政関係者3名、観光客8名を含む)

SNS分析期間:2024年7月〜2025年8月

災害対応訓練参加:組合員12名、従業員15名


[謝辞]

本記事の制作にあたり、長期間の密着取材を快く受け入れてくださった、

『海の家 ーbeach Houseー』の望月吾郎さんをはじめ、

真琴さん、巧さん、勇太さん、そして鹿馬海岸海の家組合の皆様に、

心より感謝申し上げます。また、貴重な証言をいただいた観光客の皆様、

地域関係者の皆様にも深くお礼申し上げます。

[編集後記]

取材を通じて感じたのは、海の家が単なる商業施設ではなく、

地域コミュニティの中核的存在であるということでした。

高校生達の生き生きとした表情、常連客の温かい笑顔、

そして何より望月さん親子の海への愛情が、

この小さな海岸町に大きな価値を生み出していることを実感しました。

デジタル化が進む現代において、SNSを活用した情報発信が、

新たな集客の柱となる一方で、変わらない「おもてなしの心」こそが、

真のリピーターを生み出す源泉であることも確認できました。

災害対応への真摯な取り組み、行政との密な連携、

そして次世代への継承への希望——これらすべてが、

持続可能な観光業のモデルケースとして、

他の地域にも参考となる事例だと考えます。

来年の夏、再び鹿馬海岸を訪れ、真琴さんたちの成長した姿を、

取材できることを楽しみにしています。

(記者:麻生健一)


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