第2話

僕は学校に行く。桜は散っていた。

「よう。」と、高杉くん。高杉くんとは同級生で同じクラス。田舎なので 1学年につき 1クラスしかない。

「おはよう。」

「なあ、」

「なに?」

「ペガサス、優勝したな。で、お前の応援してたピッグルンはBクラス確定。」

「そうだね。来年は優勝するといいな。」

「いやー嬉しい。お前もペガサス応援したらどうだ?」

「しないよ。僕はビッグルン一筋応援だからね。」

「なんだよ、つまんねえなあ。」


通学路には少し広めのドブがある。僕が道路側で高杉くんがドブ側。僕の頭に嫌な考えが浮かんだ。ふー、っと深呼吸をする。

「どうした?」高杉くんは家からこっそりもってきていた新聞から顔を上げた。その表紙はやはりペガサスの優勝でこんどはエース投手の三宅選手と4番バッターの矢上選手。

僕から見ると3番バッターの大岩選手の方がバッターとして優れているように見えるけど新聞はまだ、4番バッターを特別扱いしている。

「なんでもないよ。うん。」

僕は最低だと思った。ドブに高杉くんを落とすシミュレーションをしてしまった。僕が高杉くんの体を押す。そしたら高杉くんは落下して泥まみれになる。

「ああ、」高杉くんは新聞を落とした。

「ほら。」僕が拾い上げた。その拾い上げた手と高杉くんの足は目の鼻の先、2センチとかそれくらいだった。やっぱり高杉くんを落とすシミュレーションをした。


2時間目は理科の授業だった。

「はーい。やっていきますよ。」牧野先生が言う。「今日はですね、原子の話です。みなさん、手があるでしょう?足もあるし、この机だって原子でできています。原子というのは目に見えないとても小さなもので———」

僕の考えは原子が解決してくれるのだろうか。なんなのだろう、この感覚は。ダメだと言う自分とやってみようよと言う自分。不思議な感覚だった。自分ってサイコパスなのだろうか。


「サイコパスかもしれない。」誰にも言えなかった。

黒板に先生が絵を描く音がする。椅子の絵に原子がたくさん書かれている。

こんなこと言ったら少年院に入れられるのだろうか。分からないけどとりあえず親との会話がぎこちなくなるのは確かだと思う。失望されるんだろうか。これも分からない。僕はこの感覚は心の中で暴れないように奥底で飼わないといけないのだと直感的に思った。僕はその日から包丁とかとりあえず危ないものを心の奥底の獣が暴れないようにできるだけ遠ざけた。僕はその心の奥底の獣をケモノくんと名付けた。ケモノくんとの共同生活が始まった。

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