第02話:ポーカーでコテンパンにしてあげるよー

「んー、そうだね、お昼ご飯にはまだ時間が早いから、先にちょっとゲームでもして遊ぼっかー。……といっても、今日はテレビゲームじゃないよー」


 彼女は「プッ」と噴き出して笑う。


「だって、テレビゲームだと、いっつもわたしが圧勝しちゃうじゃん。キミ、ヨワヨワなんだもん」


 あなたの耳元に口を寄せて、小悪魔のように彼女がささやく。


「やーい、ザーコザーコ。にししっ」


 彼女はパッと離れると、ゴソゴソとトランプを取り出し、いつもの抑揚豊かな喋り方になる。


「だからね、今日はちょっとアダルティにトランプのポーカーで勝負をしよう。ルールは……どうしようか?」


 思案するように彼女が言った。


「うーん、世界的にポピュラーなルールはテキサスホールデムだよね。んー、でも、日本でやるなら、やっぱりファイブカードドローかな。ルールが単純だし、分かりやすいでしょ?」


 そこまで言うと、彼女は「んー?」とあなたの顔を覗き込んだ。


「……もしかして、ファイブカードドローのルール、知らないのかな?」


 あなたの反応を見た彼女は、ニヤッと笑って、調子に乗ったように言う。


「いいよーいいよー、分からないことは何でも、この天才少女美春ちゃんに聞いちゃってよー!」


 彼女は一転、優しい口調になってあなたにゆっくりと説明を始める。


「えっとね、最初にトランプを5枚配るから、まずはそこで掛け金を決めるの。そしたら次に、好きな枚数のカードを交換して、掛け金を上乗せする。最後に、お互いのカードを公開して役の強さで勝敗を決める、っていうシンプルなルールだよ。ここまではオーケー?」


 あなたの表情を伺ってから、彼女が続ける。


「最初の所持金は、コイン20枚にしよっか。んで、コインを全部失った方が負けね」


 そこまで言うと、彼女は口調を元に戻した。


「……そしてー、なんと負けた方は罰ゲームでーす! えー、罰ゲームはイヤなの―? なら、わたしに勝つしかないんじゃない? 勝てるもんならねー。にししっ。 それじゃ、さっそく始めよっか」


 彼女はすこし偉そうに胸を張って言う。


「さあ、刮目せよ! このわたしのシャッフルテクニックを!」


 彼女はトランプをシャッフルする。

 ヒンドゥーシャッフルからオーバーハンドシャッフル。

 リフルシャッフルからウォーターフォール。

 シャッ。シャッ。シャッ。パラパラパラパラ。カードがシャッフルされていく。


「ねぇねぇ、すごいっしょ。えへへー。もっと褒めてくれても良いんだよ?」


 彼女が得意気に言った。


「それじゃ、カード配るねー」


 彼女はカードを配る手付きも見事で、シャッシャッと5枚のカードが配られた。


「次は手札を確認して……って、あちゃー、酷いカードだなぁ……。掛け金はコイン1枚にしておこっかなー」


 彼女が1枚のコインをテーブルにおいた。パチリと音がする。


「さて、キミはどうする? 勝負する? それとも降りる? ……いいね、やっぱり勝負だよね。それじゃ、キミもコインを1枚出して」


 あなたも1枚のコインをテーブルにおく。パチリ。


「次はカードチェンジだけど……わたしは3枚交換しようかな。……んー、微妙」


 残念そうな声を出した彼女が、あなたの手元をみて驚いた声を出す。


「って、キミは5枚ともカードチェンジするの!? ……いや、キミがいいなら、それでいいんだけどさ。よっぽど酷い手札だったんだね……」


 彼女は声のトーンを戻して、ゲームを進行する。


「さて、掛け金だけど、わたしは様子見でコイン2枚上乗せにしようかな」


 テーブルの上のコインに、2枚のコインが重ねられる。チャッと音がした。


「キミはどうする? って、カード5枚も交換しちゃうくらいだし、どうせ勝負から降りて……って、え!? コイン10枚上乗せ!?」


 あなたはコイン10枚を積み上げる。


「……はっはーん。キミの手は読めたぞ。それ、はったりだね? 手札は大したことないくせに強気な態度にでて、わたしを勝負から降ろそうとしているんだよね? そうはいかないよ。わたしもコイン上乗せだよ!」


 彼女が音を立ててコインを出す。

 どこか勝ち誇ったように彼女が言う。


「コイン20枚の大勝負だよ。さぁさぁ、キミはどうするのかな? もちろん降りるよね? さっさとその掛け金のコイン10枚を置いて――」


 あなたも全てのコインを積み上げたのを見て、彼女が驚いた声を上げる。


「……って、えぇ!? キミもコイン20枚かけるの!? えぇ……。これじゃ、勝っても負けてもゲーム終了だよ? 分かってる? 負けたら罰ゲームなんだよ?」


 意志の変わらないあなたを見て、彼女がしみじみという。


「むぅ……別にキミがいいなら良いんだけど……キミは心配になるくらいゲームが下手だよね……」


 憐みの色を声ににじませたまま、彼女が続ける。


「それじゃ、カードのオープンといきたいところだけど、まだ罰ゲームを決めてなかったよね。そうだね……」


 照れた様子で彼女が言葉を紡ぐ。


「……そ、それじゃ、負けた方は勝った方に、あ、愛の、こ、こ、こ、告白を、するっていうのは、どうかな? も、もちろん、愛の告白っていったって、お遊びだよ!?」


 そして、小声で続ける。


「……べ、別に、わたしは、本気の告白でも良いんだけど。キミからの告白なら、いつでもオーケーっていうか」


 彼女は慌てて大声を出した。


「な、なんでもないよ!? ひとりごとだよ、ひとりごとっ! はいはい、それじゃ、カードオープンしちゃお。じゃあ、いっせーのーで!」


 手札を公開した彼女は、勝ち誇った声で言う。


「ふっふーん。わたしは実はフルハウスでしたー! 勝ち確です! ありがとうございましたー!」


 あなたが手札を公開すると、「で、キミの手札はっと……」と言って彼女が覗きこんできた。そして、大きな声を出す。


「えぇ!? はぁ!? なにそれ!? ロイヤルストレートフラッシュ!? 何してんの!? こんなところで運使い果たしちゃってるじゃん! そんな強運もってたなら、宝くじでも買ってよ! あー、もう! もったいないなー!」


 そこまで捲したててから、彼女はボソッと呟くように言う。


「……ん? あれ? わたしの負け? ってことは……ワタシガ、アイノコクハク、スルンデスカ?」


 最後は棒読みになっていた。

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