第03話:ば、罰ゲームなんて何てことないよー

「すー、はー、すー、はー」と彼女が深呼吸を繰り返す。「……あぁ、もう、心臓がうるさいなぁ」


 自分に言い聞かせるように彼女が言う。


「これは罰ゲーム。これは罰ゲーム。告白とはいえ、お遊びなんだから、緊張するな、わたしっ!」


 彼女が「ぬんっ! ぬんっ!」と独特なかけ声で気合を入れる。

 けれど、どこかいつもよりしおらしい彼女。


「……そ、それじゃ、や、約束だし、こ、告白、するね……?」


 でも、しおらしい感じはすぐに消え去り、早口で声を上げる。


「絶対、ぜーったい勘違いしないでよ!? これ、罰ゲームだからね!? 誰が本気でキミに告白なんかするもんかっ!」


 かと思ったら、また聞こえるか聞こえないかくらいの小声でブツブツという。


「……だって、わたしは、キミの方から告白して欲しいんだもん」


 彼女はまた声を荒げる。


「ん-ん、何でもない! じゃあ、こっち向いて! ちゃんと、わたしの目を見る!」


 あなたと目が合うと、彼女は顔をリンゴのように赤くさせた。


「……は、恥ずかしがらないでよ。せっかく覚悟を決めたのに、わたしもまた恥ずかしくなってきちゃったじゃないかぁ! むぅー! こんなんじゃ、目を見て告白なんてできないよぉー! ……ごめん、やっぱりあっち向いて!」


 そう言って、彼女はあなたに後ろを向かせた。

 そして少しだけ弱々しそうに言葉を発する。


「……べ、別に目を見て告白しないといけないなんて言ってなかったでしょ。これがわたしの精一杯だから、お願い。あっち向いてて」


 彼女はあなたの背中に密着して、耳元でささやく。


「それじゃ、い、一度しか言わないから、絶対に聞き逃さないでよ」


 そう言って、「すー、はー」と深呼吸。「こほん」と咳払い。

 緊張の滲んだ声で彼女が口を開いた。


「ほ……本日はお日柄も良く、絶好の告白日和となりました。……って、なんで笑うの!? しょうがないじゃん! 告白なんてしたことないんだから、何て言えばいいかわかんないんだもん!」


 彼女は少しすねた様子を見せるが、あなたの耳元から離れずに言葉を続けた。

 その言葉はたどたどしい。


「……んじゃ、続けるよ? えっとね、キミは鈍感だから気づいてないと思うけど、わたし、ずっとずーっと、キミのこと、キミだけのこと見てたんだよ。なのにキミは他の子のことを見たりして、すごくムカついたりもした。本当はキミにも私だけのことを見てほしい」


 彼女が大きく息をついた。


「べ、別にキミじゃないとダメだなんてことは……ゴメン、嘘。キミじゃないと、わたしはイヤ。キミの隣は、わたしの指定席にして欲しい。そ、そのためには、わたしの気持ちをちゃんと伝えなきゃだよね。後悔したくないから。だから、いま伝えるんだよ……!」


 一瞬の静寂を破るようにして彼女が意を決した声をあげる。


「え、えっとね、わたしは、きみのことが、その、わたしは、きみのことが、大、大、大、す、す、す、すすすすすすすすすすっ――」


 ガバッと彼女があなたの背中から離れる。そして、土下座をした。


「すみませんでしたー! もう無理ですー! 勘弁してくださいー!」


 そして、彼女がいつもの調子で捲したてる。


「やっぱり、罰ゲームで愛の告白をするなんて良くないよね。うんうん。こういうのは、大好きな人ができたときのために大切に取っておかないと」


 そして、また小声になって。


「……しょうがないじゃん、だって、やっぱり愛の告白は、キミの方からしてほしいんだもん」


 真っ赤な顔を背けて、拗ねたように言う。


「んーん。なんでもない。……バカ」

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