ウオオ!なめろうが食べたい!

『いやー今週もよくがんばったわ〜』


「……」


『いつになったら状況は良くなるんだろうな』


「……」


『ずいぶん今日は静かだな。変なもんでも食ったか?』


「なめろう……」


『え?』


「なめろうが食べたい……」


『また発作?』


「なめろうが食べたいんだわ!!!」


『うるせえ!!!』


「お前もなめろうが何かを知ればきっと食べたくなるはずだ」


『俺がなめろうを知らない前提で話を進めてないか?』


「何ッ!知っているのか雷電!」


『いや知らんけど』


「裏切ったのか!雷電!」


『裏切ったとかじゃないし雷電って誰?』


「知らないならば教えてやろう……!」


『おう』


「なめろうとは何なのかということをな!」


『そっち?雷電は?』


「いいか?なめろうとは生の魚を細かく刻んだものに色々混ぜたものだ」


『説明が全然美味しくなさそう』


「ハンバーグの肉を魚に変えて、焼かずに色々混ぜたものだ」


『未完成じゃね?生で食べるのやっぱ変だよ』


「フランス料理のタルタルを和風にしたものだと考えてくれ」


『よく分からないものをよく分からないもので説明されています』


「お肉大好きアメリカンでもわかるように説明してやろう」


『ウオオアアーッ!俺お肉大好きアメリカン!』


「急に知能レベルが下がったな」


『ハヤク……オシエロ……』


「これ以上遅れると取り返しがつかなくなるな」


『ハヤ……ク……』


「なめろうとは生の魚に味噌やネギやミョウガなどの薬味を加え、一緒になるように細かく刻んだものだ」


『アンマリ……オイシサツタワッテコナイ……』


「見た目は粗挽きになった魚の身って感じだ」


『ウーン……』


「なめろうの美味しさって食べた人にしか伝わらなくないか?」


『クワセロ……』


「ここにはない」


『うわああああ!』


「おっ戻ってきたな」


『一体……俺はどうなっていたんだ?』


「あのモード記憶まで持ってかれるんだ」


『なめろうの魅力はまだ俺に伝わってないぞ』


「お前がギリ言語を理解する怪物になっていたからじゃなく?」


『じゃなく』


「そうか……でも難しいんだよな」


『そこをなんとかするのがお前の仕事だろ』


「仕事じゃねえよ」


『じゃあ見た目と味以外の魅力はないのか?ほら、いくら丼は命がどうとか言ってたじゃねえか』


「うーん……なめろうでほかの魅力か……」


『わかったぞ。細かく刻むってことはモノを破壊するみたいで楽しい!コレだろ!』


「こわ……何言ってるんですかあなた」


『あれ?これ選択肢ミスった?』


「ま、まあそういう考え方も……あるよね!」


『すっごい心の距離を感じる』


「その考え方、新しい視点だね!」


『この攻撃方法強いんだけど』


「でも実際どんどん魚の身を細かくしていくのはちょっと楽しい」


『合ってんじゃねえか!なんで一回突き放したんだよ!』


「つい出来心で……」


『コイツ……』


「あとなめろうの魅力あったわ」


『何だ?言ってみろよ』


「怒ってる?」


『怒ってないですよ』


「怒ってんじゃん!」


『怒ってねえって!!』


「絶対怒ってるってば!!!!!!」


『コイツ声デカい方が勝ちだと勘違いしてる』


「ディベートってそういうもんでしょ」


『まずこれディベートじゃない』


「ディベートってそういうもんでしょ!!!!」


『今ディベートかディベートじゃないかっていう争点でディベートしてないんだって』


「頭おかしくなりそう」


『俺も。主にお前のせいで』


「気を取り直してなめろうの魅力を語ろう」


『勝手にお前が気をどっかに放り投げたんだけどな』


「なめろうの魅力……それはカスタマイズ性だ」


『ちょっと気になる』


「先程なめろうには薬味を加えると言ったな」


『言ってたな』


「薬味は無限だ。つまり、なめろうは無限のカスタマイズ性を持つ」


『無限?』


「ネギ、ミョウガ、ショウガ、シソ、ノリ……この他にも薬味は無限に存在する」


『何があるか知らないけど有限じゃない?』


「この組み合わせを考えると、およそ一兆通り」


『有限ではあるな』


「人間の人生の総食事回数はおよそ八〜九万回」


『一兆の後だとかなり少ない気がするな』


「この総食事回数を俺は一日五回の食事によって十四万回にまで底上げしている」


『何やってんのお前』


「最近は胸の当たりがムカムカする」


『食べ過ぎだよお前』


「これが……恋!?」


『胃が荒れてんだよ』


「俺はなめろうに恋してる」


『細かくなるまで切り刻んだやつに恋するの異常性癖どころの騒ぎじゃないだろ』


「愛をこめて細かく叩いてるんだ」


『歪んだ愛だって』


「失礼だな。純愛だよ」


『どうあがいても片思いだしお前いくら丼にも恋してたじゃねえか』


「昔の恋愛をほじくり返すのはよくない」


『恋愛じゃねえんだって』


「つまり……何が言いたかったんだ俺は?」


『お前が見失ったら終わりだよ』


「つまりなめろうには無限の可能性があるってことだ」


『コイツなんかいい感じにまとめやがった!』


「そういやなめろうこれから作って食べるけどお前どうする?」


『ここにはないって言ってなかったか?』


、な。嘘はついてないぞ」


『えっ食べれるパターンあるのこれ?』


「生で食べれる魚だったらなんでもなめろうになるポテンシャルを秘めている」


『生魚なんてそんな貴重なもんお前どこで』


「厨房のヤツらと交渉して貰ってきた」


『コイツの食への執念ってすごい』


「で、食べるの?」


『食べたいです』


「そんじゃ俺の部屋行くか」


『ヤッター!』




















『なんか……なんか美味いな』


「なんか美味いんだよな」


『言語化ムズくね?この美味さ』


「言ったろ?これ食べないと伝わんねえんだよ」

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いくら丼、いくら丼が食べたい! 酒井迷(さかいまよう) @sakai_mayou

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