いくら丼、いくら丼が食べたい!

酒井迷(さかいまよう)

ウオオ!いくら丼が食べたい!

「いくら丼、いくら丼が食べたい!」


『どうしたんだお前急に』


「いくら丼が食べたくてしょうがないんだ!」


『なんでだよ』


「わからん!」


『わからんってお前』


「なんか無性に”これ食べてえな”ってときあるだろ」


『まああるけど』


「それがいくら丼だっただけだ」


『いくら丼の何が一体お前をそんなに魅了してやまないんだよ』


「おれに語らせるか?」


『ヤバい変なスイッチ踏んだかもしれん』


「まず第一の魅力。圧倒的ビジュアル......!」


『その前にいくら丼を食ったことないんだけど』


「え」


『なんなら見たこともない』


「こりゃ説明しがいのある相手だな」


『頼むわ』


「いいか、いくら丼ってのはな、ピカピカの銀シャリにルビーのように輝くサケの卵がたっぷり乗っかったもんだ」


『銀とかルビーとかなんかギラギラしてんな、そんで?』


「以上だ!」


『ええっ』


「結局単純なもんがうまいんだよ」


『言っとくけど魚卵を生で食べる文化なんて全然ないからな?』


「じゃあなんすか。うちの食文化が変って言うんですか」


『食に関していえばお前らは異常民族だよ』


「ぐうの音も出ねえや」


『結局いくら丼ってのは赤と白のどんぶりってことでいいのか?』


「おう!この紅白のビジュアルがなんかおめでたい感じがしていいんだよな!」


『おれアメリカ出身だからよくわかんねえや』


「文化の壁......!」


『でも赤白は国旗の色だし好きだぜ』


「文化の壁、崩壊......!」


『んで、結局そのいくら丼は美味いのか?』


「何を隠そういくら丼の第二の魅力は味だ!」


『どんな味?』


「いくらの海鮮の風味と醤油の塩味とか絶妙に混ざりあい、それを完璧に包み込む白米の甘み!これこそが文化の結晶だ!」


『日本人って本当に醤油好きだよな』


「醤油と味噌があればもうなんでもいいぜ!コンクリートでも最悪食える!」


『最悪すぎる』


「そしていくら丼第三の魅力!それは!」


『それは?』


「たくさんの命をほおばる快感だ」


『えっ急に怖いんだけどこいつ』


「生まれるはずだった命を、たくさんの生命を嚙み潰す快感はほかの食事では得られない」


『得られなくていいんじゃないか?そんなもん』


「その点でいえば数の子やたらこの方が効率よく命を摂取できるという意見もある」


『効率とか言い始めちゃった』


「だが効率だけが食事の醍醐味ではない」


『そうなんだけどそうじゃないんだよな』


「小さすぎる命は自分が潰したかどうかを認識できない、つまり食べていても爽快感がない」


『巨人の視点すぎる』


「程よく反発する命の実感が欲しいんだよ」


『快楽殺人者の視点すぎる』


「君はどう思う?」


『ヤバいヤツに目をつけられた』


「どう思う?」


『目が据わりすぎてるよコイツ!』


「どう思う?」


『あーっと、えっと、その、あんまり食材をその観点から考えたことがない......です。はい』


「君にはが必要な様だねえ」


『お前それ言いたかっただけだろ』


「でも実際飯を食べる時に、命だったものと認識して食べている人は非常に少ない。君も含めて」


『それは確かに』


「そんな世の中に対して命の価値を再認識させるアーティファクト、それがいくら丼なんだ」


『いくら丼ってすげーっ』


「日本人は食事の前にいただきますと言うし、他の国がどうかは知らんが食前に祈りを捧げる文化は多い」


『俺の家でも食前に神様に祈り捧げてたな』


「ただ、命そのものを直視はしていない」


『快楽殺人者から哲学者にジョブチェンジしたんだけどコイツ』


「あと食べると実績解除できる」


『は?』


「画面の右下にポップアップが出てくる」


『右上じゃないのか?』


「通ってきた機種の違いが出てる」


『ちなみになんの実績が解除されるんだ?』


捕食者プレデター


『そんなバカな......!』


「ちなむとこれは嘘だ」


『こんのバカが......!』


「でもわかってきたんじゃないか?俺のいくら丼を食べたいという思いが」


『まあそんなに言われたら俺も食べたくなってきたけど』


「じゃあ今度二人でいくら丼食べに行くか」


『食べに行くってどこに売ってんだよ』


「探せばどっかで店開いてる狂人がいるだろ」


『こんなご時世にわざわざやってる奴がいるのか?』


「知らないのか?日本人は食に関していえば異常民族なんだぜ」


『そうだったわコイツら異常民族だった』




「そんじゃそろそろ行ってくるわ」


『もうそんな時間か』


「お前は今日どこ行くんだっけ」


『俺は北欧方面の兵站』


「マジ?もしかしたらいくらあるんじゃねえか?」


『北欧にもいくら丼はあるのか?』


「サケが北欧の名産品だからな。いくらも付いてくるって寸法よ」


『ほーん。じゃ貰えたら土産にしてやるよ』


「好きになっちゃいそう」


『よせ気持ち悪い』


「アタシ、待ってるから!!」


『いくらをだろ!?お前はどこ行くんだ?』


「俺は南米の方の前線だな」


『......死ぬなよ』


「俺は生きて帰っていくら丼を食べるんだ!」


『あっヤバいコイツ死ぬわ』


「なあに、いままで過酷な日々を乗り越えて来たんだ。今回だって大丈夫さ」


『オイオイオイ』


「ちょっとブラジルの田んぼみてくるわ」


『無敵じゃんコイツ』


「じゃあまた来週〜」


『おう』


































「いや〜前線のエイリアンは強敵でしたね」


『コイツ無敵だったわ』


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