第15話 ライバル

 私は、人物画を描こうと決めていたから、キャンバスの中心に、うずくまっている人を描いていた。淡いオレンジの花の上にいるその人物は、膝に顔をうずめていて、表情の細かいところは分からないようになっている。性別も決められていなくて、ちょうど、私たちくらいの、不安定な年頃、ということくらいしか設定していない。テーマは「恋」、誰かを愛すると、どんなふうにでも変わっていける、というメッセージを込めてみた。

 寒色にこだわるまちの隣で、暖かい色彩の絵を描いている私は、無言で彼に挑戦状をつきつけているみたいだ。他の部員も、そばを通るたびに私たちの絵を見比べて、「あえて正反対のものを描こうとしてるの?」と声をかけていく。

「僕はいつも、変わらないよ」

 まちは平然としていた。

 私だって、描きたいと思ったものがたまたま、まちと対をなしてしまっただけだ。

「あ、なくなっちゃった」

 群青をパレットに絞り出したまちは、子どものようにがっかりした声を出した。  秋葉原の街を覆うブルーが、不完全なまま、空白を残している。私も絵を描くから何となく分かるけれど、キャンバスの空白は、絵筆を握る者を責めるのだ。どうしてここには色がないのか、と。意図的な余白でないかぎり。  最後の青を塗り終えてしまうと、まちは、道具を片づけ始めた。

「今日は絵の具買いに行くので、先に帰ります」

 部長に言って、部室を出ていく。

 私と目が合うと、「秋さん、また明日」と微笑した。同じコンクールに出品する私たちは、ライバルだけど、やっぱり友達だった。

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