第2話 出会い
私が十屋まちと出会ったのは、昨年の春だ。
入学式で出席番号順に座ったとき、たまたま席が隣だったのだ。中学校までは男女べつべつに並んでいたのに、高校からは男女混合名簿で、私の両隣は男子生徒だった。パイプ椅子の間隔が、拳ひとつぶんも離れていなくて、異性が苦手な私は何だか落ち着かなかった。寝不足で頭がぼうっとしていたからよかったものの、そうでなかったら、もっとガチガチに緊張していただろう。
右側の大柄な少年は、身を乗り出して、前の席の男子とこそこそしゃべっていた。左の華奢な少年は、膝の上の拳に目を落としていたが、一瞬目が合うと、白い頬のほうに口の端を引き上げ、話しかけてきた。
「きれいな髪してるね」
「えっ」
確かに、昨夜はいつもより念入りに洗った髪だった。私の髪は黒くて、肩を少し過ぎた辺りまで伸びている。家が古書店なので、古い本の臭いがしみつかないように、毎日コロンをかけていた。
「Gペンの先ですうっとひと思いに描いて、冬の夜空みたいな真っ黒を重ねていったら、少しは君に似せられるだろうか」
彼は、私の戸惑いにかまわず、独り言のように続けた。
式が始まるまでまだ少し時間があるので、周囲はわりとざわざわしている。そのざわめきに甘えて、私の耳が勝手に、都合のいい言葉をつなげて、脳内で彼の声をあてているのではないだろうか。「きれい」だなんて言われたことがなかったので、つい卑屈になってしまった。
「きれいなんかじゃ、ないよ」
きれいだ、と言われたことすら、事実だという確信を持てなかったものの、無言でいるのも無視しているようで気まずいので、私はとりあえず否定した。
「全体的には、そうかもしれないね」
彼はククッと笑って、初対面にしては失礼な科白をあっさりと吐く。薔薇色の小さな口唇が憎たらしかった。男なのに、私よりずっときれいだ。単に整っているというより、思春期らしい透明感に満ちている。そうでない者が油絵なら、彼は未完成の水彩画みたいだ。
でも、と彼はさっきの自分の言葉を覆す接続詞を挟む。
「パーツごとに見たら、それぞれにきれいかな。特に睫毛とか、髪の毛とかね。瞳も、ひとえだけど大きくて、驚く瞬間をとどめていたくなる。細い筆を選んで、何時間でも写し取っていたくなる顔だよ」
さっきからしきりに、「描くとしたら」という話が出てくる。
「もしかして、絵を描くの好き?」
中学三年間、美術部に所属していた私は、すかさず尋ねた。
もしそうだとしたら、入学早々、同志を見つけたようで、うれしかった。同じ部で切磋琢磨していくなら、ライバルになるときもあるだろうが、それも刺激になって楽しいだろう。私は、将来画家になりたいと本気で思うくらい、絵が好きだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます