第9話 博士の野望

 しかしオレを救出に来るだなんて、また捕まってしまいやしないか心配だ。博士の正体も知っているし、今度はヤツもただで通してはくれないだろう。

 くそっ! こんな時にオレは何も出来ないのかよっ!


(……ネコさん、あの部屋で捕まっちゃったの?)

(恥ずかしい話……その通りなんだ)

(じゃあ、今から行くね! せーの!)


 その声が聞こえた瞬間、ドガアッと言う爆音と共に部屋の分厚い壁が一瞬にして砕け散った。その勢いでガラガラガラと瓦礫が散乱する。同時に舞い上がった埃で一瞬視界が奪われた。マジか……。

 あまりの出来事に、オレは一言も喋る事が出来なかった。壁を壊した子供は、このくらいの事は当然だと言わんばかりに平然な顔をしている。その子は8人の中でも一番勇敢そうなライオットだった。


「ネコちゃん、助けに来たよ!」


 間違いなくそれは遺跡の特殊アイテムの力だ。特殊アイテムの中にこんなものがあるだなんて、初めて見たぞ。

 それにしても、博士の研究はどこまで進んでいるって言うんだ……。


「早く! 逃げなくちゃ!」

「……お、おう!」


 考え事をしていたオレは、助けに来たライオットに急かされてしまった。そんな訳で、この勇敢な彼と共に城の外へと向かう。トホホ……。立場が逆になっちゃったなぁ。

 しかし、あのテクト博士がオレらの脱出を指をくわえて見ているはずもないだろう。しっかり周りの状況もチェックして、警戒を怠らないようにしないと。


 あまりにも静か過ぎる状況の中、何事も起こる事なくオレ達は城の外へ。だが、危険回避の為にオレが先頭を走っていたのが逆に仇になってしまった。


「うわあっ!」


 その声に振り返ると、ライオットを抱きかかえるテクト博士の姿があった。


「人生そううまくは行かないものだよ!」


 そう話す博士はまた仮面をつけていた。全く、もう正体はバレているって言うのに……。


「さあ、どうする? アルファス君」

「くっ!」


 オレはただ博士をにらみつけるしかなかった。何か……何かいい手はないものか……。オレは策を考えつつ、時間稼ぎを図る。


「目的はオレだろう? ライオットを離せ!」

「いや、私は欲張りでね。出来れば君も子供も両方頂きたいのさ……」


 ダメだ、この程度の会話では埒が明かない。この状況を打破するには……そうだ! オレは子供達に心の声でメッセージを伝える。


(頼む! 誰でもいい! 警察にこの事を伝えてくれ! ケイタロー警部なら話を聞いてくれるはずだ!)

(分かった! ケイタロー警部だね!)


 ケイタロー警部は古い友人だ。オレからの話だと伝えれば、彼ならきっと動いてくれるはず。後はオレがここで時間を引き伸ばすだけだ。

 腹芸はあんまり得意じゃないが……さて。


「さあどうした? 手も足も出ないか?」

「どうだかな? オレにもお前に見せていない手はいくらでもあるぞ」


 博士は安い挑発に眉ひとつ動かさない。仮面をつけているから表情は分からないけど……。


「ふん! ならば何故あの時大人しく捕まった! その時点で君の力量は知れている!」


 この指摘にオレは沈黙で答えるしかなかった。くそっ! こんな時にオレの頭は何でもっと回転しないんだ。

 ――よし、話題を変えよう!


「……オレに仲間がいないとでも?」

「ならば、その自慢の仲間を呼ぶがいい。子供の命を無駄にしたいならな!」

「くっ!」


 交渉事は苦手だ。相手の方が一枚も二枚も上手なのは分かっている。だが、相手が優位に立っていると思っているなら、まだ突き崩せる可能性はあるのかも知れない。

 少なくとも、せめて時間稼ぎくらいなら……。


「どうしてこんな事をするんだ!」

「時間稼ぎか? まぁいいだろう。全てはビジネスだよ!」


 ヨシ! 話に乗って来た! 少しベタだがこの手に賭けよう! このままヤツの真意を問いただしてやる!


「いいか? この遺跡の特殊アイテムは遺跡周辺で、しかも遺跡体質者にしか使えない!」

「……まさか!」

「そうだ。私の研究はその2つの枷を外す事だ!」


 遺跡系の研究をする研究者は、みんな究極的にはその答えに辿り着く。だが、その研究はあくまでも発掘品からの研究に留まっていた。

 博士は遺跡体質そのものに焦点を絞っている……。これはあまりに危険過ぎる!


「遺跡体質者を調べる事で様々な事が分かった。もう少しでこの研究は完成する」

「子供達を利用してでもか!」

「研究するには若い子供が一番適切なのさ。特殊アイテムが世界中で使えれば巨万の富が手に入る」


 なるほど、捕らえられた子供達はみんな遺跡体質者と言う事か。多分、博士の背後には大きなスポンサーが付いている……。

 特殊アイテムを世界中で使いたい者達――大体の想像はつく――。ベルファクトの悪事が大規模に追求されなかったのもそう言うカラクリか。


「この金の亡者が……っ! もしお前の目論見通りになったら、世界はどうなると思う!」

「そんなものは私には関係ない。私は純粋に研究が高く評価されればそれでいいのだ」

「その為には悪事にも手を染めるのか!」


 オレは博士の良心を揺さぶってみた。多分効果はないんだろうけど……。


「このくらいの事は世界中のどこでも起こっているよ。君は世界がどれほど穢れているかを知らないようだ」


 予想通り、博士はオレの言葉を聞いても全く動じていない。それどころか、笑って軽く流している。

 もはや、良心は欠片も残ってはいないのだろう。


「今までにその下らない実験で何人の子供を……」

「尊い犠牲だ。その結果今の私がある」

「貴様ッ!」


 は、吐き気を催す……こんな悪は許してはおけない! くそっ! オレにもっと力があれば……こんな奴……。

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