第8話 ベルファクトの正体
体勢を整えてヤツの顔を見上げる。そろそろオレも脱出の用意をしなくちゃいけない。さて、奴の仮面が想像通りなら……。
一か八か、オレはヤツの顔に向かって飛びかかった。爪を伸ばして狙いを定め、シャッと一閃。
「ぐおおおっ!」
読みが当たった! 奴の仮面がぱっかーんとあっさり割れて床に落ちる。やはり遺跡由来素材で出来ていたのだ。
ベルファクトは素顔を見られまいと顔を隠す。ヨシ、隙が出来た! このチャンスを活かして脱出だ!
「馬鹿め!」
左手で顔を覆ったベルファクトが何か操作をすると、突然部屋の扉がピタッと閉まる。しまった! 閉じ込められた!
「君だけは許さんよ」
ベルファクトは顔を押さえながら、怒りに声を震わせる。
「子供なんてまた調達すればいいが……。お前をここで逃すともう二度と手に入らんかも知れん」
ベルファクトは急に自分語りを始めた。何だ? 今度は標的をオレに変更したのか? やばい事になったぜ……。
「子供を調達だと?」
「そうだ! だがまずは君だ! 世界で唯一の遺跡体質の猫。徹底的に調べつくしてやるぞ!」
そう言ったベルファクトは、もう自分の顔を隠してはいなかった。両手を広げてマッドサイエンティストの本性を表した奴の正体は――。
「な……っ! まさか!」
その素顔を目にしたオレは驚いた。世間を騒がせている仮面の悪党ベルファクトの正体は、この遺跡都市で一番名の知れた科学者、テクト博士だったのだ。
遺跡研究の第一人者で、遺跡から発掘される特殊アイテムにも造詣が深い。善良で温厚な科学者として評判も高い人格者が、偽りの姿だったとは――。
「テクト博士……貴方だったのか……」
「今更正体なんて隠す必要もない。何故なら、今から君は私の貴重な実験動物となるのだから!」
ベルファクト……いや、テクト博士はそう言うと、ジリジリと間合いを詰めて来た。オレはその気迫に押されオズオズと後ずさる。さっきまでの優勢が嘘みたいだ。ヤバいな……。
オレの野生の勘が危険を察知して、警戒警報を発令していた。
ある程度部屋の隅に追いやられたところで、博士が何かの合図をする。その瞬間、天井と床下からシャッと素早く金属の棒が伸びて来て、オレは閉じ込められてしまった。
これがまた遺跡由来素材ならば何て事はなかったんだが――。
「ふはははは! そいつは破壊出来まい! 何せ最新の遺跡由来素材と現行金属とのハイブリッドだからな!」
博士は高笑いしながらオレを見下ろしている。確かにこれはオレの爪じゃ歯が立たない。何てこった!
「ふん、いい眺めだな。お前は準備が整い次第すぐに解剖してやろう」
冷酷にそう言い放つ博士の顔は邪悪そのもの。この男は一度口に出した事はどんな事があろうと必ず実行する――。そんな凄みに満ちていた。
「ああ、楽しみだよ。私も遺跡体質の猫を解剖するのは初めてだからね」
博士はそう言いながら部屋を後にした。オレ、万事休す……。
一方、子供達は全員無事に城の外に脱出していた。博士の興味が完全にオレに移った事で、追手に追いかけられる事もなく安全な場所まで逃げ切れたのだ。
子供達はオレがすぐに城から出てくるものと思いしばらく待っていたみたいだが、その様子が見られない事で状況が変わった事を理解したようだ。
(……ちゃん)
(……ネコちゃん!)
閉じ込められてふて寝しているオレの心に声が聞こえてくる。どうやら子供達からのようだ。
(どうしたの? ネコちゃん、もしかして捕まっちゃった?)
オレは子供達を安心させようとつぶやく。
「ちょっとヘマをしちまったが……。何とかしてみせるさ」
鈴の能力は心の声を聞くだけ。送受信の能力はない――そう思っていた。だからそれは自分に言い聞かせるようにつぶやいたんだが……。
(ええっ? 大丈夫?! 今どんな感じなの? 詳しく教えて!)
さっきの弱気なオレの言葉に返事が返って来た。一体どう言う事なんだ? 取り敢えず、オレは口に出さずに心の声で応答してみた。
理由はよく分からないけど、これでやり取り出来るなら何かいい案が思い浮かぶかも知れない。
(驚くなよ? ベルファクトはテクト博士だったんだぜ)
(知ってる。だって僕達テクト博士の科学教室に呼ばれて捕まっちゃったんだもん)
そう言う事だったのか! あの時のテクト博士のすぐ調達出来るって言葉の意味は……。確か博士の研究のひとつに遺跡体質者の研究があった。なるほど、子供達を実験に使っていたのか。
(僕、博士との実験で使ったアイテムをひとつ持って帰って来たんだけど、これ使えると思う!)
(ま、待て! 折角脱出出来たのにまた城に戻ってくるとか危険過ぎる! 来るんじゃない!)
(ううん、僕らを助けてくれたネコさんが逆に捕まったんじゃ意味ないよ! 絶対助けるから!)
な、何て正義感に溢れたいい子供達なんだ。オニーサン、涙が出そうだよ。こんな子供達を実験に使っていたなんて、テクト博士、許さないぞ!
――て、今のオレには手も足も出ないんだよな……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます