第7話 ベルファクト
けれど、今のオレはその事に全く気付いていなかった。自分のミスを悔いて、その事で頭が一杯になってしまっていたからだ。
オレは残りの子供達を助ける事しか頭になかったんだ。
「おおーい!」
オレは大声で残りの子供達に声をかける。当然のように返事は戻って来ない。このまま手当たり次第に城の中を探しても良かったが、無駄な時間は使いたくない。
そこで、また鈴の力を使う事にした。見つけた当初は有効範囲内の全ての心の声を拾ってかなりしんどかったこの鈴も、今は使い慣れて聞きたい相手の声だけを拾えるようになっていた。
「……」
ダメだ。声が拾える範囲に子供達がいても、何も考えていなかったら聞こえようがない。でも、道に迷って全然心に不安を覚えないって事があるだろうか?
その時にオレは気付けていれば良かったんだ。特殊アイテムの扱いに精通した存在が背後にいるって事に――。
焦ったオレは鈴の感度を広げた。城内部の誰でもいい、誰か何か考えている者はいないか……。
オレはじいっと心の耳を澄ませてみた。
「……子供達を返して欲しければ、ここに来るがいい……」
「?!」
(何だ? この声は?)
その時オレの耳に届いたのは、深くて暗い深淵に誘うような男の声だった。古城のどこかに設置してあるスピーカーから聞こえてくるのか、その声は鈴の力で聞く心の声とは違う不思議な聞こえ方をしていた。
長年の勘から言って、この男は相当な実力者だ……。こいつが誘拐犯のボスか?
オレはそれが罠だと分かっていてもそこに向かう事にした。悪党からの明らかな挑戦――。その挑戦状、受け取ってやる!
そして、このオレに挑戦した事を後悔させてやるぜ!
男の指示に従って子供達の元へと急ぐ。悪党のボスは御丁寧に、定期的にオレに聞こえるように挑発するような事を言ってくる。
野生の勘でトラップをかわしつつ、オレはその場所を目指した。
何故子供達の声が聞こえなかったか、その理由は子供達を目にした時に分かった。子供達は眠らされていたのだ。そう、眠ってしまえばもう声は届きはしない。
「私の声を聞いてよく逃げ出さずにここまで来たな。まずはその勇気に敬意を評しよう」
姿を表した悪党のボスは、仮面をつけた紳士だった。その姿を見て、どこかで見た事があるなとオレは思った。
「お初にお目にかかるね、私は……」
「最近やたら世間を騒がせているそうじゃないか、ベルファクト!」
「ほう? 私を御存知で?」
新聞に書かれていたベルファクトの特徴そのままの姿で現れて、そのセリフはないもんだぜ。
しかしまさかこんな誘拐にも絡んでくるとは……。こいつの目的は何だ?
「私も君を知っていますよ、確かアルファス……でしたかな? 世界で唯一の喋る猫だと……」
「ふん! 悪党に名前を知られても嬉しくはないな」
にらみ合うオレとベルファクトの間に火花が散る。しかし、こっちの勝ち目はどう考えても薄い。何せ人と猫だ。不意打ちでもしない限りは……。しかも向こうはまだ何かを隠している。
オレは緊張と興奮で全身の毛が嫌になるほど逆立っていた。
「どうです。ここはひとつ、私の仲間になりませんか?」
「誰が!」
「そうですか。いい話だと思ったんですが……では」
ベルファクトは突然黙ると、いきなりバンと発砲する。それは撃つ素振りも感付かせない程の早撃ちだった。
想定外の展開にオレは動けない。いや、動かなくて正解だった。動いていたらきっと命中していただろう。ベルファクトの放った弾丸はオレの頬をかすめていたのだ。
「おっと失礼。狙いが外れてしまった」
銃口をオレに向けながら、ベルファクトはニヤリと笑う。オレは人生最大のピンチを迎えていた。
だが、それを顔に出す訳にはいかない。オレはポーカーフェイスを気取ってヤツを挑発した。
「大丈夫かい? 慣れない事はするもんじゃないぜ」
「なぁに、御心配には及ばんさ」
ベリファクトがじわじわと間合いを詰めてくる。中々にこれはプレッシャーだ。だがこのプレッシャーに潰される訳にはいかない。
こうなったら、こっちは猫の俊敏さを魅せつけてやろうじゃないの。猫走りだッ!
「くっ! 動くなっ!」
ベルファクトは叫ぶが、オレはそんなのお構いなし。さて、激しく動きまわるオレにその下手な銃が命中するかな?
「このっ!」
ベルファクトの銃弾は全く見当違いの場所に着弾する。それを見たオレは調子に乗って右へ左へ。
「ええい! ちょこまかと!」
ふふ、焦る悪党を見るのは心地良い。しかし顔が仮面で隠されているのは残念だな。その顔も拝んでやりたいぜ。
「そらそらっ! 当ててみろ!」
「ぐぬぬ……」
この騒ぎで、眠らせれていた子供達も流石に目が覚めたようだ。そして、初めて見る銃撃戦に恐怖で言葉が出せないでいるようだった。怖い思いをさせてしまってすまないとオレは子供達に心の中で詫びる。
子供達の意識が戻ったなら、ここから開放するのもそこまで難しくはないだろう。オレはベルファクトを翻弄しつつ、捕らえられていた子供の拘束を解いてやった。またしても御丁寧に遺跡由来の素材で拘束していたものだから、それらは簡単に外す事が出来た。
「あいつはオレが惹きつけているから、その間に早く逃げろ!」
「う、うん!」
子供達は、拘束を解いた瞬間に全力で走り出す。オレは彼らに危害が及ばないようにベルファクトの前に立ち塞がった。
「貴様っ!」
「お前の相手はオレだろ?」
子供達が逃げた事で、ベルファクトの怒りは頂点に達していた。さて、次のヤツの手はどうくる? 一度揺さぶってみるか?
もう一度オレは奴の前に立ちはだかって挑発してみる事にした。ここで奴がまだオレを追ってくるなら、子供達を無事逃す事は出来るだろう。
「ほらほら、鬼さんこちらっ!」
「いい加減目障りです。遊びはここまでにしましょうか」
予想通り、ベルファクトの銃口はオレだけを狙っていた。子供達、どうか無事に逃げてくれよ……。
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