30 Scramble-5-

【須藤 響哉side】


ベッドに横たわった真朝。

まるで、奴隷か獣のように、その細い腕と足に、枷がつけられている。

首筋に、流れる血。

不安に歪む表情――。


そんな彼女に、敵意をむき出しにして、スペイン語で一方的に喚きたてる青年。その口からほとばしるのは、狂った戯言(たわごと)。


それを目にするだけで、俺の胸は締め付けられる。



今すぐこの手で助けたい――。




呼吸を整えて、拳を握り締めた。


「あの、社長。

 失礼ですが、ここでヘッドフォンをあててパソコンの画面を眺めていて、何になるんですか?」


ここは、例の会場の地下。


俺がここに居ることは、そこで不服そうに腕を組んで壁にもたれて時計を見ながら仁王立ちしている春花しか知らないはず。




いや――。


意外な早さでこの部屋に入り、それなりに鮮やかな手並みで【彼女】を救出した男も知ってるか。


彼が俺に連絡をしたからこそ、普段は切ってある回線を特権で繋いで、管理人宿泊室の中をこのパソコンで覗いたのだ。


そうして、彼の推理が間違ってないことを伝え、後はここでその一部始終を見ていることしか出来なかった――。



情けないことに。


「言ったろ?

 影武者が俺に変わって彼女を救うって。

 その間に俺が仕事していたら、変じゃない。

 須藤 響哉がこの世に二人居ることになる。

 どこぞの遊園地の人気キャラクターだってそんなへましない。

 須藤家の次期当主が、そんな可笑しいこと出来るわけが無いだろう?」


「別に、影武者にしなくても良かったんじゃないんですか?」


至極もっともにも聞こえるその言い分に、俺は思わず笑ってしまう。


真朝が助かってほっとしたせいかもしれない。

もちろん、出来ることなら華奢な彼女の身体を、今すぐこの腕で抱きしめて、幾度もキスをし、言葉の限りを尽くして慰めたい――けれど。


「須藤家」の看板を一度背負ったら最後、それを外すまで俺に自由なんてものはなくなるのだから仕方が無い。



分かっていて、それでも。

一度捨てた看板を背負う以外の選択肢が思いつかなかった。



――この世で一番大切な人を守るために――


「後10分で俺は消える」


俺にそっくりな【影武者】は真朝を腕に抱えたまま、カメラに向かって口だけ動かしてそう告げた。


それも、何を警戒しているのか、わざわざドイツ語で。


俺はそれを確認してから、パソコンを切る。もちろん、メールでその回線自体をぶち切るように指示することも忘れなかった。



緊張をため息で溶かして体外に吐ききり、自分のモードを「俳優 キョーヤ・スドウ」に無理矢理戻して、春花に目をやった。


「後20分で、自由の身だ。

 それまでに、他の仕事を片付けよう」


有能な秘書、春花は感情の整理はつかないものの、それはそれと割り切ったのか、無表情のままエディターバッグから、必要な書類を取り出し始めていた。

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