30 Scramble-3-

【佐伯 頼太side】


「また後で電話する」


響哉の掠れた声が、耳に残る。


俺はため息を呑みこんで、顔をあげた。

目の前には、須藤家の優秀な執事、ヘンリーが居る。


いくらなんだって、そう、無様な姿をさらせるもんじゃない。


「カメラの映像は見られたんですよね?」


「ああ。

 間違いない。

 映像を加工でもしてない限り、彼女はこのマンションの中に居る」


俺は自信を持って、そう言い切った。

ヘンリーは、少し不服そうに肩を竦める。


「先ほどそう仰っていたので、こちらも心当たりは当たってみたのですが――」


「特に怪しい輩は見当たらなかった?」


言いよどむヘンリーの代わりに、俺が語尾をつける。


「ええ。

 婚約者を恨んでいる、という筋で当たってみたのですが、現在行方不明の方はいらっしゃいません」


「じゃあ、あれだな――」


俺はびしりと言った。


「他の理由で、誰かが彼女を恨んでる。

 ――かつ、この建物内部に居る――」


ヘンリーはさらに、表情を険しくした。


「お言葉ですが、こちらのマンションの住人はどなた様も問題の無い方ばかりです」


「では、その友人か――。その問題の無い方を脅した輩の仕業か――。

 あるいは」


俺はそこで言葉を切って立ち上がった。


ガタンと、派手な音がして、重厚な椅子が床にひっくり返った。


須藤家のぼんぼんは、こんな失態などしないのだろう。


ヘンリーがあからさまに不快な顔で俺を見る。


俺は肩を竦めた。

そんな瑣末を気にしている場合じゃない。


今、脳裏に過ぎった映像――。


「ヘンリー、どうしてアイツをここの管理人に雇ったっ」


俺は、口角泡を飛ばしてそう問い詰める。


「人道的な配慮です」


ヘンリーは顔色一つ変えずに言う。



何が、人道的な配慮だ。

俺は、時間が惜しくて喋る前に走り出していた。



だって、アイツは――

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