30 Scramble-2-

【花宮 真朝side】


目隠しを外される。

天井が、今住んでいるマンションにすごく似ていると思った。


そして――。


目の前に居る、色の浅黒い男は、思ったとおり、昨日マンションの管理人室で見た管理人だった。


制服を着ているし――間違いない。


彼の、尖った視線が私に無遠慮に突き刺さる。


南米の人かしら――?



そう思った矢先、ぐわんとした頭痛が走った。

過去を思い出す兆し――?

でも、佐伯先生は頭痛が無くても過去は思い出せるって言ってたし。



そう、自分に言い聞かせてゆっくりと深呼吸を繰り返す。


そうして、ゆっくりと横になったまま自分の姿を確認した。


家を出たときと同じ服。

両手は手錠で繋がれている。

両足も、同様――。


強気で男に喋りかけてみたいけれど、ソイツから溢れる殺意に負けて、口が開けない。


身体が固定されて無いとはいえ、この状態から逃げ切れる自信なんて全くないもの。


――響哉さん、助けて――


胸の中に幾度も浮かぶのは、その言葉ばかり。



けれど。

左手を見て愕然とした。


彼から貰った指輪も、今はこの手についていない。


ひどく、ひどく絶望的な気持ちになる。

それは、私の表情に如実に表れたのだろう。



注意深く私を見守っていたその男が、にやりと笑った。

眩しいほどの白い歯が、零れている。


「いいね、その、絶望的な顔」


言いながら、彼がポケットから取り出したのは、サバイバルナイフ。


ぎらついた刃を私に見せつけて、震える私をあざ笑っている。


「どうせ、後は死ぬだけだ。

 折角だから、思い出してから死ねよ」


「……何を?」


そう言ったつもりだったけれど、震えた声は言葉になっていたかどうかさえ、怪しい。


男は大きく一つ、ため息をついた。

あまり、日本語が得意ではないのだろう。言葉の運びはゆるやかだし、一言喋るたびに、唇を閉じる。


不気味な沈黙に、身が竦む思いでいっぱいになった。



――けれども、それは私にとってラッキーかもしれない。


私はそう自分に言い聞かせることにした。

時間が延びればその分、発見される確率も高くなるわ、きっと。


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