30 Scramble-1-

【須藤 響哉side】


打ち合わせが落ち着いて、ステージの装飾品を見に行こうという話になった。


「葛城さん、少しだけよろしいですか」


外で控えていた別のスタッフが、慌てた顔で春花を呼んだ。


「――社長」


数秒後、深刻な顔で春花が俺のところに来る。


「どうした――?」


春花は言いにくそうに唇を噛んだ後、何かを決意したように唇を開いた。


「花宮 啓二さんから電話があったそうです。

 真朝さんが、家に来るという電話をしてから1時間経ったけれども、連絡が無いから何か知らないかと」


思いがけない言葉に、胸に、ハンマーで殴られたような、痛みが走った。 


「それで――」


「もちろん、打合せ通り、例の方に対応をお願いしています」


どうぞ、と、春花が俺に携帯電話を返してくれた。


俺が仕事で動けないとき、俺に成り代わって彼女を守ってくれる――。


ヤツとはそういう約束もしていた。

はやる気持ちを抑えながら、電話を掛ける。


「大丈夫だ」


開口一番、ヤツはそう言った。兄を思わせるような、落ち着いた声で。


「大丈夫って――。

 彼女を発見してくれたってこと?」


そうであって欲しいと、祈る思いで唇を開く。


「いや、そうじゃない。

 でも、目処はたった。仕事があるんだろう?

 とりあえず、俺に任せろ」


俺は春花に誘導されるがままに、足を進めながらも電話を握る手から力を緩めることができないでいた。


俺たちは――つまり、俺と佐伯頼太は――こういう時の常であるように、電話で固有名詞を出さないように気をつけながら会話を交わした。


出来る限り手短に。


頼太は、俺の声音を真似て、啓二くんに電話を掛けてくれたと言う。



家で貧血で倒れていたが、病院に連れて行ったので心配ない。彼女には改めて連絡させる、と。


これで一応、啓二くんから警察に通報されることはないだろう。

それから、頼太は知り合いの警察を連れて、マンションに向かった。


監視カメラの映像で、カレンがペギーを連れて立ち寄ったことが判明したので、追跡調査をしたが、カレンは既に成田空港に居て、特に怪しいところは見られなかった。


マンションの玄関で、とある痕跡を見つけた頼太は、念のためヘンリーにも連絡を取ったという。


なにせ、それなりにセキュリティーの厳しいマンションだ。

部外者が簡単に入れる場所じゃない。


「で、今から互いに調べたことを持ち寄って、ミーティングに入るとこ。

 ……どうする?」


俺はぐっと唇を噛んだ。


車は、次の目的地に到着するところだ。


「また後で連絡する」


俺は、心を決めてぎゅっと瞳を閉じるとそう告げて電話を切った。

情けないことに、眉間の皺を、元に戻すことさえ出来ない。

脳裏に浮かぶのは、四六時中抱きしめていたいほど愛らしい、彼女の屈託の無い笑顔。


――真朝。

  今、何処に居る?

  

  これは、俺のミスだ。

  ここに連れて来れば良かった。マスコミの前で、紹介して、煩いパパラッチにもこっちから見せ付ければよかった。

  ヘンリーの言うとおり、実家に戻って、婚約をすませておけばよかった。



溢れる後悔に、気付けば唇を噛み締めていた。


「社長、どうします?」


春花の声で我に返る。


「もちろん、決まってるだろ?」


俺は強引に口角を引き上げる。

結局、俺に出来ることなんて少ししかない。


だったら、それを精一杯やるまでだ。



心を決めた俺は、スマホの電源を落とすと、迷いを振り切って春花に指示をだした。

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