14 極秘帰国-1-

あの事故後、初めてのキスの余韻に浸りながら、私は眠りを貪っていた。

響哉さんの腕枕で眠るのは、とても心地良くて、身体の隅々まで幸せで満たされたような気持ちになる。幼い頃に戻ったような、幸せしか知らなかったころのような、甘い感覚が身体に満ちていく。


久しぶりに私は、短いけれども深い眠りにつくことが出来た。

このまま、ずっと、眠って居られたら良かったのに。

寝起きに、あんな夢なんて見なければ良かったのに。


……朝なんて、来なければ良かったのに。



「マーサ?」


瞳を開けた途端、私を見て心配そうな顔をした響哉さんに、私は曖昧に微笑むことしか出来なかった。

響哉さんを心配にさせるほど、不安そうな表情をしているのね、私。


「怖い夢を見ただけ。

 大丈夫よ。

 おはよう、響哉さん」


口角を引き上げ、無理矢理微笑んで、響哉さんの頬にキスをした。

響哉さんはくしゃりと私の頭を撫でて、唇にキスをしようとした。


けれど、私が過剰なまでに力を入れて、目をつぶっていることに気づいたのだろう。

頬へのキスへと切り替えてくれた。


「どんな夢を見たのかな」


私は、胸がぎゅっと痛くなる。どうしていいのか、分からなくて。

幾度も幾度も深呼吸を繰り返して、言葉を捜す。

言葉の出てこない私を見ていた響哉さんは、しばらくしてからふわりとその整った顔に甘い笑みを浮かべた。


「俺の傍に居るの、嫌?」


「ううん。私、響哉さんと一緒に居たい」


それは、本心だったので迷わずに瞳を見て言えた。


「じゃあ、今はそれだけでいいよ。ほら、起きないと学校に遅刻する」



……ごめんね、言えなくて。


先に起きた響哉さんの背中を見ながら、心の中だけで謝った。



私が見た夢。


それは。



ママと響哉さんが唇を重ねている夢だったの――。


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