第05話 02

「なあ、どうなんだ、センゴク? 何か思いついたのか?」

 懸命になって問い尋ねる。もはやわらにも心境だ。今や頼りの綱は、無駄に蓄えられたこいつの知識だけなのだ。憧れている本家本元に少しでも近づこうと、こいつは昔から、ばかりの努力を続けているのである。(努力の方向が完全に間違っているという野暮な突っ込みはナシだ。)もしかしたら蒐集しゅうしゅうした中に、似たような事例があるかもしれない。問題解決の糸口が見いだせるかもしれない、おれはそれに賭けた、……いいや、賭けざるを得なかったのだ。

『慌てるなよ、キミらしくもない』

 そうセンゴクはたしなめてくる。ああ、悪い、とおれも素直に謝る。たしかに少し先走り感がすぎたし、ここでセンゴクの機嫌を損ねるのも得策ではない。なので重ねて非を詫び、センゴクの言に耳を傾けることにした。

 しかし奴の言葉は極めて簡潔だった。こいつはただひと言、

『結論から言えば、それは妄想か勘違いだね』

 と、切って捨てたのだった。

『たしかに無生物に魂が宿る話はあるよ。それこそ民話を紐解ひもとけば、似たような怪異譚かいいたんは、幾らでも見つかるだろうね。妖怪にしたってそうさ、キミだって、『一反木綿いったんもめん』や『塗壁ぬりかべ』、『唐笠小僧からかさこぞう』――一つ目、一本足のアレだ――とか、『提灯ちょうちんお化け』くらいは、と思いつくだろう? ほかにもキミだったら、『文車妖妃ふぐるまようひ』、『襟立衣えりたてごろも』、『鳴釜なりかま』、『瓶長かめおさ』、『雲外鏡うんがいきょう』、『面霊気めんれいき』などは、記憶に新しいんじゃないかな。手紙の妖怪、衣服の妖怪、釜の妖怪、さらにはびんの、鏡の、お面の妖怪と、器物の妖怪化はそれほど珍しいものではない。むしろれているといっても良いね。

 だがそれらは所詮しょせん作り話だよ。でなけでば勘違いか見間違いのたぐいだね。“幽霊の、正体見たり、尾花おばな”ってね。まあ、あと挙げるとすれば、自然現象を正しく理解できない時代の遺物いぶつとかかな。『ラップ音』くらいはキミも知っているだろう? そう、家鳴やなりという、れっきとした自然現象だよ。どこにも不思議なんてありはしない。それでも、知識のない人にとっては、家屋が音を立てるというのはに不思議な体験だろう。目に見えない何かが音を立てていると考えたり、霊界れいかいから通信していると突飛とっぴな発想をいだいたとしても、仕様しようがないといえるかもしれない。師匠センセイも、こうおっしゃっていたよ。(……いちおう説明しておくと、こいつは小説上の登場人物を、『師匠センセイ』と呼んで、心酔しんすいしているのである。)

 事実は一つ、、とね。

 それら事象を、どのようなで観察するかによって、見え方――は、千万にも変化するってことさ』

 結局のところ真実なんて、ただの多数決でしかないのだよ、センゴクは言い切った。大多数の人に支持されている解釈が、真実へと昇華を果たすのさ、、そう付言ふげんして。

『だからその人……、物に憑依した何かが見える人だっけ、それがって言うんなら、暴論ではあるが、と結論づけても構わないのだよ。真実がどうかとは、それはまったくの別問題さ。同じ次元で語られるべき話じゃない』

「は? なに言ってんだ? 同じ話だろ?」

『いいや、違うよ。なら逆に問うが、もしそれ――人ではない何かが本当にいたとして、?』

「は?」

『周りの人に要らぬ不安や心配を与えて、それでその人は満足するのかい?』

「いやだって本当のこと――」

『先ほども言っただろ? と。何者にも干渉をされない、完全無欠な観測者が知る真実とは別個として、その時代、その土地、その背景に即した真実というものがあるのだよ。正しいか正しくないかは関係ない。共同体の平和を護るために綴られる物語、それが真実なのだよ』

 あまりといえばあまりの暴論に、返す言葉を喪ってしまう。それじゃあ何か? 嘘だと明らかでも、自説を曲げるのが正しいとでも言うのか? それじゃあまるで、地動説を否定されたガリレオ・ガリレイじゃあないか。

『そのとおりだよ、関口君。よく分かっているじゃないか』

 あろうことか、こいつは肯定しやがった。おれはさらに混乱する。どうも高校時代とは、考え方が異なっているみたいだ。環境の変化だろうか。おれの知っているあいつと齟齬そごをきたしている。

「センゴク、お前、宗旨替しゅうしがえしたのか?」

 とりあえず水を向けてみる。こいつの超常現象に対する認識が変わっているのなら、作戦を練り直す必要があると、探りを入れてみる。しかし果たして、返答はノーである。ボクは徹頭徹尾『真実』の味方だよ、そうあっさりと答えられてしまう。だが納得できない。昔あれほど幻想の破壊者として猛威をふるっていたのに、それをなかったことにしようとは、少しばかり不誠実なんじゃないか?

 そう迫ると、センゴクは大仰にため息をついてみせた。やれやれと理解力の乏しいおれに首を振ってみせる。良いかい? 嚙んで含めるように告げてくる。

「良いかい? さっきから言っているように、真実とは、大勢多数の賛同を得られる解釈のことなんだよ。キミはどうもボクのことを勘違いしているみたいだけど、ボクは審判者でも断罪者でもない。調だ。、それがボクの使命であり目的なのだよ。

 ――そして、お化けや妖怪は、共感を得られにくい最たるものなんだよ。

 不思議なことがありました、それはお化けの仕業です、そっか、お化けなら仕方ないか――では通用しないんだよ、この二十一世紀では。たとえ、もしとしても、それを世間に証明する技術が足りない今の時代、真実がどうかとは別として、人人の理解を得られない主張を述べるものは、異端者の烙印を捺されてしまっても仕方がないのさ』

 いいや、とこいつは言い直す。いいや、ボクが捺すのさ、と。

おもい出してくれよ、ボクはいつだって、大多数の、無害で平均的な、一般市民の味方だったじゃないか。お化けだの幽霊だの超能力だのユーエフオーだの、ボクが粉砕すべきはそれら人人に混乱をきたすものだよ。極言すれば、真実か否かなんてどうでも良いのだ。ボクはただ、常識という道から外れかかった人を、正しい道――ここでいう『正しい』とは、もちろん集合体としてのそれだ――に戻れるよう、導いているだけなんだよ。ボクみたいな個人に、本当のことなんてどうして判ろう。十人いれば十人分の真相――彼らにとっては実感を伴った『真実』であるだろうが――それがあるんだ。それをもっとも波風の立たない形に整えること、それが真実なのさ』

「…………」

『例えば目の前に、赤い玉があったとしよう。キミの観測結果では、それは間違いなく『赤い』玉だ。だがしかし、周りにいた九人は、それを『青い』玉だと言う。さて、果たして正しいのはどちらで、間違っているのはどちらだろう。……キミはもちろん、自分が正しいと主張するだろう。だがちょっと待ってほしい。関口君、キミはもしや、両親や先生、友人たちに、青色を『赤』と、そう教わってきたのではないだろうか。また逆に、キミ以外の九人は、赤色を『青』と教えられて育ってきたのかもしれない。だとすれば、双方の主張はいつまでたっても平行線のままだ。なぜなら、のだから。に照らせば、十人全員が正しいのさ。……まあこのケースでは、より多くの人、万人が認めるところの『赤』色を呈示すれば解決できる。もし見せられたそれが、関口君の認識で、間違いなく『赤』色だったら、九人が間違えていたといえるし、逆にもし見せられたそれが、関口君の知っている『赤』色ではなかったのなら、残念ながらキミが間違えていたと言わざるを得ない。

 さて、本題はこれからだ。

 今の事例では、完璧な証明手段――地球人すべてが納得することのできる証拠――それを示せたのだが、しかし実際、世の中はそんなに簡単に構成できてはいない。意見の食い違いをみるときに、それを快刀、乱麻を断つかのように裁定することは、なかなかに難しいのだ。

 犯罪を例にろう。優秀な観察医、警察官などは、地道に証拠を積み重ね、ほぼ間違いないと断言できる程度の結論を導き出すことが可能だろう。それでも畢竟ひっきょう、結論は憶測でしかない。しかしここで注目すべきは、その憶測が、被告人の否認よりも、真実に近いと裁定されたときだ。“疑わしきは罰せず”の大原則をもってしても、明らかに証拠が有罪を指し示している。否定しているのは本人だけ――。さて、関口君、果たしてこの被告は、無罪か有罪か。……物証は声高に有罪を叫んでいる。しかし実際は、。そして結局、本人の弁よりも、積み重ねられた物証に軍配が上がり、裁判長は無情にも有罪と木槌を打ち鳴らすのだよ』

「……だ、だって、それだけの、納得できるだけの証拠があったんだろう? だったらやっぱり、被告人が嘘をついているとしか――」

『それが正しいかなんて、誰が言えるのかい?』

「いやセンゴク、お前の懐疑主義は良いからさ」

 世の中すべてを疑っていたら、何一つ解決できないじゃないか、おれは声をあららげる。一体なんの話をしていたのか判らなくなってしまう。小説に出てくる古書肆こしょしのように、この脈絡のない話も、美事みごとな終着を見せるのだろうか。だが悠長に待ってはいられない、おれには時間がないのである、そう先を促した。

『キミが話の腰を折ったんじゃないか』

 センゴクは心外そうに唇を尖らせる。そして続けて奴は言う、先ほどの繰り返しだが、つまりこの世界は、より得心に近い真相が、真実になるのだよ、と。

『解るかい? いつだって、冤罪えんざいの可能性は残されているんだ。とりわけ、当の本人が否定している場合にはね。それでも、結論は出さなければいけない。絶対の確証が得られないからといって、放置することは許されないのさ。だがもしここで、推定無罪の原則にのっとって、無罪放免の判決が下されたとしよう。被告人にとっては自分の主張が受け容れられたと喜べるが、果たして被害に遭った関係者、あるいは近隣住民にとってはどうであろう。それは畢竟ひっきょう、犯人が野放しになっているということを、示唆しているのではないだろうか。彼らにとって、平穏な日常は、二たび喪われる結果となってしまうのだよ』

「おい、待てよ、センゴク」

 おれはこいつの言を遮った。先ほどから、こいつの言葉はどこかおかしい。高校時代から、ここまで危険な思想の持ち主だったのか? これじゃあまるで、周囲の平和のためならば、一人、または少数の犠牲――冤罪も、やむを得まいと、そう主張しているみたいじゃないか。

『そう主張しているのだよ、関口君』

「なっ――」

『まあもっとも、日本の警察機構は優秀らしいからね。実際に、完全な冤罪など、数年に一度、数十年に一度、あるかないかだろうがね。裁判にしても、三審制度だ。一審、二審で、おかしな判決が下されたとしても、まだ望みはある。そく決定とはならないようにできている。――そこでだ、逆説的に考えてみよう、関口君。何年もかけて議論を尽くし、その上で下された判決が、、どうだろう。周囲に、社会に、それはどのような影響を与えるのだろう』

「それは……」

『警察組織に対する信頼の失墜、さらには犯人が捕まったと安堵している一般市民にとっては、再び眠れぬ夜が復活することとも、それはなるだろう。……社会的にみてどうだろう。プラスになるのか、マイナスになるのか、キミはどう思うかい?』

「いや、だからそれはおかしいだろう。真実は間違いなく一つなんだから。それが捻じ曲げられ、あまつさえしまうなんて、」

『間違っているというのかい?』

「当たり前じゃないか」

 お前だって同じ立場に立たされたなら、そんな綺麗ごと言ってられないさ、そう反論した。

『たしかに、そうかもね』

「だろ?」

『でも果たして、その冤罪の犠牲者は、何一つ落ち度がないと言えるのだろうか』

「は? お前まだ――」

『だってそうだろう? その人はただ真実を語れば良いだけなんだ。にもかかわらず、その供述よりも、有罪と断じた相手の綴る物語のほうが、信憑性が高いと判断されたんだ。常識的に考えて、おかしいと思わないか?』

「…………」

『例えばこうだ。ボクはお金を盗んではいません。でも知らぬ間に、鞄の中にそのお金が入っていました。脅した包丁も、なぜか持っていました。でも心当たりはありません。逃走中の自分を見たとの証言がありましたが、それは嘘です。その時間、ボクは家で寝ていました。それを証明できる誰かはいませんが……。と、こう正直に証言したとしよう。さて関口君、再び質問だ。彼は有罪か、無罪か、果たしてどちらだろうか』

「待てよ、センゴク。そういう極端な例を挙げて、思考を誘導するのは、フェアじゃないぞ」

『そうかな? 実際の事件は、もっと極まっているよ。例えば、停車中の車に、明らかに故意に追突して、相手を死なせておきながら、殺意はなかったと否認してみたり、全身をだらけ、骨折だらけにした挙げ句、わが子を死なせた親が、ただのだったと堂堂と言ってのけたりする。……これは普通の、一般人の常識からはいる。

 だが本当に、この人たちの中では、それが真実だったのかもしれない。

 進路を客観的にかんがみれば、どう考えてもに行っているようにしか見えなくても、当の本人は、本当にそんな気はなかったのかもしれない。虐待死させた親も、本人は本当にの一環だと信じていたのかもしれない』

「…………」

『さらに極端な例を挙げよう。とある新興宗教の教祖が、病床の信者に、これを飲めばやまいなおると、薬を飲ませたとしよう。だがそれは、医学的には何の根拠もない、むしろ有害な物質だった。結果、それを服用し続けたことが原因で、患者は死んでしまった。無論、教祖サマは殺人罪、もしくは何らかの罪に問われることになるだろうが、本人は本当に救済のつもりで行なった行為だった。だとすればどうかな? 本人が殺意を否認したとしても、それは間違っていないといえるんじゃないかな?』

 待て待て待てセンゴク、おれは声を割り込ませる。危うくこいつの話術にしまうところだった。微妙に論点がいる。いつのまにか実際に起こったことから、当人の意思の有無にすり替わっている。当人の考えは関係ないのだ、それがどうあれ、起こったことは一つなのだから。

『おや、関口君、キミも少しは成長したようじゃないか。少々よ』

「当たり前だろ、伊達に三年間、お前に振り回されていたわけじゃないんだよ」

 そう答えると、センゴクはと笑ってみせた。今の言葉のどこに、奴の笑いの琴線きんせんに触れる単語が含まれていたのだろう、分からなかった。……それに、おれがこいつ相手にでも冷静でいられたのは、電話での会話だというところが大きい。実際こいつと対峙していたら、おそらく雰囲気に呑まれてしまっていたであろう。三年の間、奴とに過ごしてきたおれでさえそう思うくらい、こいつ――センゴクの演出は凄まじいのである。

 いやいや済まない、キミもの口をけるようになったのがあまりにも愉快でね、そんな失礼なことを言って、こいつは詫びてくる。相変わらずしゃくさわる奴だ。しかし今は、こいつに頼るしかないのである。誠に不本意ではあるが。

「で、センゴク、次はどんな話をしてくれるのか? おれとしては、早く解決策を教えてもらいたいんだが」

 おれは迫る。そうだ、悠長に無駄話をしている暇はないのだ。だがそれを聴くと、センゴクは驚いてこう返してきた。キミは今までボクの話を聴いていなかったのかい、と。

再三再四さいさんさいし、警告したのに……。関口君、もしかしてキミ、寝ぼけているのか?』

 まあ、それはいつものことか、との憎まれ口も追加して。

「はあ?」

 感情を露呈する。こいつの軽口に付き合う心のはない。それに今のどこに、本題に接する話題があったというのだ。ただ単にけむに巻こうとしただけじゃないか。

『やれやれ、まだ解らないのかい?』

「だから何がだよ」

 語勢を荒くして詰め寄った。しかしため息ひとつでしまう。そして心底あきれた口調で、こいつは言った、

 解決策なんて、ないよ――、と。

『良いかい、その人が誰だかは知らないが、せっかく自力で正気に立ち返られたんだ、それをわざわざ元の状態――彼岸ひがんの世界に逆戻りさせるなんて、正気の沙汰さたじゃあない』

 あり得ないね、そうと斬り捨てていた。

「ちょっ、ちょっと待てよ、センゴク――」

『待つのはキミのほうだよ、関口君。他でもない、キミが言うのかい? あれほどボクと一緒に『世直し』に励んできた、そのキミが』

「『世直し』……、だと?」

『ああ、そうだよ』

「あれのどこが――」

『――言ったはずだ、関口君』

 またしてもおれの言葉は遮断される。と一本、芯の通った声音で、センゴクはおれを打擲ちょうちゃくする。ボクは調なのだと。

「たとえ冤罪の要素を孕んでいたとしても、関係ない。ボクが行なうのは、万人が納得する結論を導き出すことでは、。万人にが納得する結論を呈示することなんだよ。だからたとえ、付喪神つくもがみが見える人だっけ、それが本当に真実だったとしても、ボクには関係ない。そんな異分子は、完全に抹殺しなければならない。だが誤解しないでくれ。何もボクは、悪意からそうするわけじゃないんだ。真実がどうあれ、今この時代に限っては、それはつぶされるのが正解なんだよ』

「正解って……」

、関口君。我々の平和な日常をおびやかすもの、それは排除されなくてはならないんだ。さもなくば、遠くない将来、その人自身にとっても、それは悲劇となりかねない。人がままで過ごすこと、それは当人にとっても、周囲の人にとっても、不幸を招く結果としかならないのだよ』

「…………」

『さっき例を挙げただろ? 度を越した体罰が、虐待死にまで至ったケースを。あれだって、もっと前に、両親が自分がことを知らされていれば、止められた悲劇だったかも知れない』

 もちろんそれは、当の本人たちに、真実悪意あくいがない場合に限るがね、とセンゴクは付け加える。

『それと同じことだよ。たとえ自分の中では正しくて、間違えようもない真実だったとしても、それがのなら、矯正きょうせいの必要があるのだよ』

「でも……」

『だからボクは恐れない。たとえ相手が正しく、こちらが間違えていたとしても、それでも正義は我にある。ボクには大多数の人の平安を守るという、大義名分があるのだから。お化けや幽霊、妖怪も、人人の大多数が実在を肯定できるそのときまで、ボクは何があろうと対決し続けるのさ』

「センゴク……」

『いや、そうでなければ、今までボクが完膚かんぷなきまでに踏みつぶした人々に、顔向けができない。一たび立場を鮮明にしたからには、それに添い遂げる覚悟が必要なのだよ。そしてボクはそれを選んだ。だからたとえ、自分の身に不可思議な現象が起きたとしても、自分が当事者になったとしても、ボクはそれを否定する。人々のため、社会のためにね』

「…………」


『そう、この世に不思議なことなど何もないのだよ、関口君――』


 そう言って、彼女は弁論の幕を閉じたのだった。

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