第04話 09
「……………………、――えっ?」
我に返ると、おれは独りで、外灯の光を浴びていた。腕を
「……菜子?」
気の抜けた声が、大気を揺らす。自身のそれだとさえ、
関節が
「…………」
肩を抱いていた腕を再び引き戻す。だがおれのそれは、意思とは敵対の立場をとる。
腕と腕とを離そうと試みる。だが今度こそ、明確な拒絶の意思に阻まれてしまう。首を
両腕が真横にまで吹き飛んだ。込め続けていたちからが行き場を喪い、あたかもゴムのように弾けていた。それを映しておれは抵抗の強さを知る。だが真に瞳を射たのは、別のものであった。瞬間、腕で囲われた空間から、何かが四散したような気がした。網膜が捉えたわけではない、
「あ、――」
記憶が明滅する。現実逃避をしていたおれに、否応なく現実が突きつけられる。
「あ、ああ、――」
そうだ、おれの
「あああ、ああああああ、――」
亀裂が奔る、奔る、奔る。逃げ込んだ空白の空間が、縦横無尽にひび割れる。防衛本能が造り出した、退避空間が
さようなら
記憶の中の声、“菜子”の別れの声――――なのだから。
「う、うわ、」
うわあああああああああああああああっ! 深夜の静寂を、おれの悲鳴が切り裂いていた。
だが“菜子”は、戻ってはこなかった。
おれは“菜子”を、喪ってしまったのだった。
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