第03話 02
「本当のことって?」
樹樹の葉がこすれるような囁きで、おれは答える。だが声量とは異なり、述べるせりふは挑発的である。先ほどまで
その証拠に、“彼女”も一向、気分を害した様子は見受けられない。この程度の応酬、日常茶飯事なのだ。いささかも怯むことなく寄り添ってくる。にっこりと笑顔を咲かせ、ほらぁ、と甘い声でじゃれついてくる。
「ほらぁ、『いい人なら、ちゃんといるんだ』って、言ってもいいのよ?」
「さて、おれにそんな
「もう~」
薄情きわまりない言葉にも、“彼女”は膨れたそぶりを作るのみである。絶対の自信をいだいているのだ、自分が掛け替えのない地位に坐しているのだということに。そして実際そのとおりであった。減らず口を叩いてみても、結果は変わらない。おれが心身ともに“彼女”に耽溺しきっているのは、覆せない事実であった。つまらぬ見栄を張ってみたところで、“彼女”の自信を強める一助としか、それはならないのである。
なのでおれは
おれの紡いだふた文字に、“彼女”――“菜子”は、破顔した。まるで子供のように純粋に、喜色をおもてに描き出した。……どれほど壮麗に飾り立てても、そのふた文字には及ばない。たとえ日本でもっとも美しい
「そうだね、おれには菜子がいるもんね」
おれは眼差しで抱擁する。本当は抱き寄せ、抱きしめてしまいたかったが、人目をはばかって自重する。“菜子”が視えないみんなには、奇異に映ることは間違いないからだ。なんで代わりに、見えない手を用いる。熱い
「うん、わかった」
意外にも“菜子”は従順だった。あっさりと了解し、引き下がってくれた。きっと“菜子”も、
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます