61皿目 賞品。

 妻が職場の飲み会に参加するこの日、子供達の面倒は私がみることになった。ふたりにしてみれば、父のいない夜はあっても、母のいない夜を過ごすのは久しぶりのことだ。

「ちゃんとお父さんの言うこと聞くのよ〜」そう言って出かけた。

 前回は、夕飯を外でとったが、この日は私が腕をふるい、3人で食卓を囲み、楽しい夜を過ごした。私は子供達を寝かしつけて、ひとり缶ビールを飲みながら、妻が酔っぱらいすぎてはいないかと、心配しながら帰りを待っていた。しかし、その心配は杞憂に終わり、夜の10時過ぎに、ほとんどしらふで帰って来た。そして、一人で晩酌を傾けていた私を見て、声を上げた。

「あー!また子供達のお菓子を勝手に食べてる!」

 心外だな。勝手に食べたわけではないよ。

 子ども達はピアノ教室に行く度に、お菓子を5〜6個貰って帰って来る。教室の先生のアイディアだ。それを楽しみに教室に通う子供も多いと聞く。そして、我が家では、そのお菓子が日々のおやつとして賄われている。妻の言う通り、私は時々、それをつまみにしてビールを飲むことがあった。

 「良くないよ!勝手に食べちゃ!」妻はあきれた顔で私に注意した。

「勝手じゃないよ。貰ったんだよ」私は言い訳がましくならないように、口調に気をつけた。

「貰った?ホントに〜?」

 どうやら私の口調は、疑いを深めただけのようだった。

「ほんとうだよ〜」私は答えた。

 私の前には、たくさんの喰い散らかしたお菓子の袋があった。こんなにたくさんのお菓子を、子供達が父に差し出す方が不自然だ。妻が疑うのも無理もなかった。しかし、『貰った』というのは本当のことだった。だが、妻は信じようとしない。そこで、私はこの夜、我が家で起こった出来事を話すべきだと悟った。どこから話せばいいのか思案し、視線がリビングを彷徨った。その様子を見て、妻もリビングに目を向けた。そこには、プレイステーション2がテレビに繋がれたまま放置されていた。さらに、その脇には、ゲームソフト『みんなのGOLF』のケースが口を開けたまま置かれている。妻はそれを見て、ことの状況を理解した。私を見据えると口を開いた。

「あなた!子供達から巻き上げたのね!?」

 心外だな。巻き上げただなんて。

「これは、賞品なんだよ。優勝賞品。ゴルフ(ゲーム)の」

「そんなにたくさん?」

「いやね。あんまり悔しそうにするからさ」

「するから?」

「いや〜、よほど悔しかったんだろうね。もう一回やろうっていうんだよ」

「それで、したの?」

「うん。賞品を倍にするって条件でね」

「あなた・・・それを『巻き上げる』っていうのよ」

 心外だな。目標設定を高くしただけだよ。

「だいたい、あなたは何を賭けたのよ。お菓子なんて持ってなかったでしょう?」

 心外だな。『賭けた』だなんて。賭けゴルフなんてするわけないよ。今夜は、とても楽しかったよ。子ども達はお風呂の掃除もしたし、夕飯の片付けもした。それに、お菓子もたくさんくれたんだ。うちの子たちは、父さんのいうことをなんでもよく聞く、素直でいい子だとわかったよ。ただ・・・ゴルフは嫌いになったろうけどね。

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