60皿目 皮。

 最終日は、熱川駅のすぐ側にある『熱川バナナワニ園』と『桜坂』というガラス工芸を楽しめる所で、電車までの時間を過ごした。

 子供達がガラスのコップに塗り絵を施し、それが乾くまで庭で待っている時、妻が空を指差して言った。

「また虹色の雲がでてるよ!」

 その方向を見ると、綺麗な7色の衣を纏った雲があった。それは、前日見たものよりも美しかった。すると、遠くでカミナリがなった。

「昨日と同じだね」太郎が言った。

 虹色の雲が見える時、その近くにカミナリもいるのだ。


 電車の時刻が近づくと、太郎がさみしそうな顔を見せた。いつもそうだ。楽しい時間が終わろうとするとき、太郎は何ともいえない悲しげな表情を作る。残念だが今回の旅行はもう終わりだ。私たちは大自然と触れ合った。それは危機と紙一重の状況だったんだ。

 灼熱の砂浜では、足の裏を焼かれそうになった。荒波にのまれた時を思い出してみろ。恐怖に縮み上がったはずだ。天候には意地悪をされ、落雷の憂き目にあった。山では、暗闇に包まれ、方向感覚を失った。あれは遭難といっても過言ではなかった。陸海空で自然の脅威を身をもって知った。自分がいかにちっぽけな存在なのか、わかった筈だ。

 大きな事故はなかった。それは、みなが慎重に行動し、よく注意していたからだ。安全無事でいることが、大自然とのふれあいを楽しくするんだ。

 わかったか?とーさんが、旅行の前日に『規律』を正したのはこういう訳だったんだ。今回の旅行で大きなことを学んだな。自然を甘く見ちゃいけないってことだ。

 電車待ちの駅のホームで、今回の旅行を、こんな風に振り返っている時、太郎が私を見て言った。

 「父さんの足、真っ赤だよ」

 ん?

「だいじょうぶ?」

 う、うん。ま、まぁね。

「なんだか、痛そうだね」

 あ〜さわらないでくれる?ヒリヒリしてるんだから。

「お日様にあたりすぎたんだよ」

 そ、そうだな。

「日焼け止めを塗らなかったの?」

 いや〜。塗ったつもりだったんだけどね。

「きっと皮がむけるね」

 ハハハ。だから、さわらないでくれる?全身、痛いんだから・・・いいか?自然を甘くみると・・・こうなるんだ。

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