58皿目 漂。

 妻がとても残念がるので、撤収はせずに、一時避難の形をとった。

 ビーチのすぐ横にある『足湯』が楽しめる施設の一カ所に陣取り、天候の回復を待った。約一時間ほど過ぎた頃、放送が流れた。

 「本日、雷注意報が出された関係上、只今、このビーチは『遊泳注意』となっています。波打ち際、足首までのところでお遊び下さい。浮き具の利用はできません。また、パラソルの使用もご遠慮下さい」

 泳ぐことはできないが、波とたわむれるのはOKとなったのだ。

 やや曇りがちの空となったが、雷の音は、ほとんど聞こえなくなった。私たちは、再びビーチにレジャーシートを広げた。子供達が波打ち際で追いかけっこを始め、妻が砂遊びを始めた。お城を作るが、時より押し寄せる大きな波に、その都度形を崩された。それを見ていた子供達が、声を張り上げた。

「また大きい波がくるよ!」

 ざぷーん。

「あああぁぁ!!」

 母の作った城を守ろうと、ふたりが砂遊びに加わった。しかし、城壁をつくっても、簡単に崩されてしまう。みんなは考えた。そして、答えをみつけた。城壁ではなく、大きな『お堀』を作り始めたのだ。

 トンネル付きの立派な堀ができた。それが、機能するのか?3人は、かたずを飲んで、大波の到来を待った。そこへ、おあつらえ向きの波が来た。見事にお堀に海水が流れ込んだ。

「やったぁ!!!」

 海中メガネも、浮き輪も使えなくなったが、その代わりに、波と戯れ、砂にまみれて、3人は楽しい時間を過ごした。やがて、日が西に傾き始め、時刻は3時になろうとしていた。みんな、思う存分遊んだ。もう、充分だろう。帰る合図をしようと立ち上がった時に、それは起こった。

「太郎!!」

 妻は大きな声で叫ぶと、波打ち際に走り込んだ。そして、膝まで来る波の中に手を入れた。

波が引き、現れた妻の手には、海中メガネが握られていた。

 波に持っていかれてから、約5時間。帰る時になって、それは戻って来た。

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