52皿目 楽しい計画。

 夏休みの計画は深夜に立てられた。

 「お休み取れるの?」懐疑的な質問をされることは折込み済みだった。

「先に決めちゃえばいいんだよ。」投げやりに答えた。

 このところ、家族のイベントは、私の都合よりも、子供の都合に合わせることが多い。太郎のサッカーや、学校行事などが優先されるためだ。今では、私の休みの方が無理が利くのだ。

 「今年はどうする?」

 去年は4連休をとり、群馬と大阪に二日づつ帰省した。どちらも楽しい思い出ができた。

「あたしは大阪に行きたいな」妻が言う。

 なぜだかわからないが、妻は私の実家に行きたがる。将来は私の両親と一緒に住みたいとまで言う。

 今年はボーナスが去年よりもよかった。来年もそうだとは限らない。むしろ、景気には、不信感をつのらせるに足る理由がごろごろと転がっている。来年も今年のような業績を残せるとは思えなかった。そんな理由から、今年は少し贅沢しないかと持ちかけた。帰省以外に家族旅行と言えるものは、もう何年も行ってないからだ。

「贅沢?たとえば?」

「沖縄とか・・・温泉とか・・・」

「そういえば、太郎が沖縄に行きたがっていたわよ。クラスの友達が行くんだって。でもね〜・・・」

「でも?」

「飛行機に乗るでしょう?」

 妻は飛行機が苦手なようだ。これまでも何度か難色を示したことがある。

「じゃぁ温泉は?あの、奥湯河原の温泉。よかったじゃん」私は初めての家族旅行で訪れた温泉を提案した。

「良かったよね。あそこ・・・。でも子供達にはね〜」

 当時、ふたりはまだ小さく、興味を持つものも少なかったので、どこに行っても楽しく過ごせた。だが、今は違う。あれをしたい。これをしたい。あれがいい。これがいい。と言いたい放題だ。様々な体験を経て娯楽への欲求は高まるばかり。

「となると・・・海水浴ができて、温泉があるところ・・・伊豆かな?」

 私達はパソコン部屋に移動した。検索画面にキーワードを打ち込んだ。

 『温泉』『海水浴』『伊豆』

 数万件もヒットしたが、その中から、いくつかの候補を選び、旅館のページを見て回った。

 「ここは?海岸から10秒だって!全室オーシャンビューよ!」妻が興奮ぎみに叫んだ。

 インターネットは本当に便利だと思う。妻の見つけた旅館名で検索すると、個人のブログがいくつか表示され、旅行記を読むことができた。こういった評判は旅行代理店のパンフには書かれていないことがきちんと記されていて、とても参考になる。また口コミサイトを覗くというのもいい。泉質、食事といったカテゴリー毎に点数評価されており、一目瞭然だからだ。

 「あ〜ここは温泉が2点(5点満点)だわ」残念そうに妻が言う。「ここは食事がだめね・・・」「これは海から遠いわ・・・」ダメだしを続ける。

 妻の目に留まるような素晴らしい旅館となると、宿泊料が心配だ。どこかで妥協しなければ・・・

 「ここなんかどう?」

 数十のダメだしの後に見つけた温泉旅館。『泉質4』『食事4.5』『部屋4』と高ポイントの宿。海からも遠くなく、駅からもすぐ。そしてなにより、客層に合わせたオプションプランが魅力的だった。

 それは『くわがた狩り体験プラン』

 なんと、おいしい食事に、原泉、さらには宿のご主人の案内で、夜にクワガタムシやカブトムシを獲りに連れて行ってくれるという。ファミリーにはとても魅力的なプランだ。

 「お風呂が8種類もあるわ!」おかくず風呂など美容を意識した女性向けのお風呂がいくつも楽しめるようだ。さらには野天風呂を時間で貸し切り、ファミリー風呂としても利用できるらしい。

 怖くなった。そんな理想的な温泉旅館・・・。きっと値が張るだろうな・・・。2泊で10万。それが限界だ。10万を超えたらここはパスしよう。

 見積もりのページを開いた。期間8月6日から2泊。大人二人。小学生二人。部屋食。余分なものは一切つけない。どうだ!いくらだ!見積もりがでた。

『99218円』

 なんてこった。こんなにギリギリで納まるなんて・・・・。

 妻の楽しみ『温泉&食事』子供の楽しみ『昆虫&海水浴』

 なるほど、よかったよかった。素敵な旅行になりそうだ。みんなの楽しみがいっぱい詰まってることなんてそうないよ!

 ん?おれ?

 おれへの特典?そんなんある?

 「あるよ!あなたにも!駅から近いじゃん!」

 え〜っと・・・それはつまり・・・荷物を運ぶ距離が短くて済むってことかな?夏の伊豆に車で行くなんて、渋滞地獄を味わうだけだもんね。わかった。じゃぁここにしよう。予約するよ。

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