51皿目 願い。
面接から帰って来た妻に早速感想を聞いた。
「どうだった?」
「採用になったよ」嬉しそうに答えた。私の一言が効いたのかなと思った。
次なる心配は、お店がきちんとしているかどうかだ。このところ、飲食業をとりまく不祥事の報道が後を絶たない。企業コンプライアンスがしっかりしているかどうか、きちんと働けるかどうか、妻の貴重な時間を引き換えにできるかどうか、しっかりと見極めなければならない。
「面接はどんな風に行われたの?」
面接方法を知れば、ある程度、どんな会社なのか経験上わかる。妻が面接の様子を語り始めた。そこへ、太郎が学校から帰って来た。両親がなにやら真剣な話をしている様子を見て、自分も参加したくなったのか、私たちの横に座ろうとした。
「ちょっと大事な話をしているから、あんたは風呂掃除でもしてて・・・」
太郎はしぶしぶながら、お風呂に向かった。
面接の内容は私が行うそれと似通ていた。質疑と雑談を繰り返し、希望する勤務条件から、個人の背景を探り出し、会話を紡ぐ。大切なのは、個人の情報を面接中にどこまで引き出せるかだ。そして、それに見合った労働条件を提示し、きちんと説明ができるかだ。どうやら、妻を担当した面接官は、正しい方法で労働条件を提示したと思われる。これがあやふやな話だった場合は要注意だ。
「だいたい・・こんな感じで・・・」とか「一応・・・こうなっているんだけど・・・」といったような曖昧な表現で、明確な説明ができないようなら、企業倫理が乱れていることが多い。その場合、採用を辞退することも考慮しなければならない。あとになって「聞いてなかった!」というトラブルは結構あるのだ。私は引き続き、妻の話に耳を傾けて、雑談はどうだったかを聞いた。
「将来の夢はなんですか?って聞かれたの」
「将来の夢?」
「そうよ」
その問は、主婦には向いてないような気がした。どちらかというと学生の応募者にふさわしい質問だ。
「で?なんて答えたの?」私も妻の将来の夢に興味を持った。
その時、風呂場から太郎の奇声が轟いた。
ちょえ〜〜〜!あちょ!あちょ!ダダダダダ!バン!バン!じょじょじょ〜!
お風呂掃除をしながらシャワーで遊ぶ姿が目に浮かんだ。私は改めて聞いた。
「夢の質問にはなんて答えたの?」
ズガガガ!!バシャン!うぎゃ〜〜〜〜〜〜!バキュン!バキュン!
一体、太郎はだれと戦っているのか?大事な話の邪魔をされて少しイライラした。
「で?なんて答えたの?」三再び尋ねた。
「あのね・・・」
ひゃっほぅ〜〜〜♪ヘッへ〜〜〜ん♪
「あいつのことは無視していいよ。でなんて言ったの?」
「あのね・・・アタシの将来の夢は・・・」
「夢は?」
「子ども達を立派に育てて・・・・」
ずりゃぁ〜〜!!うりゃぁ〜〜!!どりゃぁ〜〜!!!あ〜っ、わちゃ!!わちゃ!!わちゃぁ〜〜〜〜!!!
「社会に送り出し・・・・・・・」
妻がそこまで言った時、突如、太郎が風呂場から駆け出して来た。そして、私たちを見据えて、こう言った。
「お風呂そうじ!やったつもり!」
え・・・?つもり?
「うん!」
っていうか・・おまえ誰かと戦ってなかった?
「うん!お風呂やっつけた!!!」
え?やっつけたの?
「もう、敵がいねぇ!!だから遊びに行って来る!!」
え?敵がいたの?風呂場に?
「じゃぁね〜〜〜!ズガガガーン!」
びしょ濡れのまま、玄関を飛び出していった。
私は妻に向き直り、もう一度尋ねた。
「で?夢って・・・なんだっけ?」
もう返事はなかった。儚い夢だと気づいたようだ。
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