49皿目 トライ。

 太郎の歯の矯正がマウスピース型による治療となってから、2ヶ月ほど経った。これまでのはめ込み式の装具と違い、食事の時などは口から出して置いておくので、なかなか定着しなかったが、ようやく忘れずに自ら口にするようになった。学校から帰って来てすぐにマウスピースを口に入れた太郎を見て、妻が褒めた。

「あら!母さんに言われなくても自分でつけるようになったのね!」

「ふん。ひゅぐひょほいひゃいひゃよ。」太郎が嬉しそうに答えた。

「そうなんだ。えらいぞ!」

 え・・・?いま、太郎がなんて言ったか、わかったの?

「ひぇひぇひぇ」褒められて照れくそうな仕草を見せた。それから太郎は、食卓の上にあるものを見つけて母に尋ねた。

「ひょえ、ふひぇーひゅ?」

「そうよ。イチゴジャムを塗って食べようね」

 太郎は返事の代わりに笑顔を向けた。

 今日の昼間、妻が粉を溶き、フライパンで焼いたクレープ。私は、一足先に食べた。もっちりとした食感がとてもおいしかった。きつね色に焼かれたクレープをじっと見つめる太郎。おもむろに母に話しかけた。

「ふひぇーふ、ひひょうひゃへひゃよ!」

「え?昨日?食べたの!?」妻がびっくりしながら聞き返した。

 なんで・・・?なんで?なんで!?なんでわかるの!!?

「どこで?」妻が聞いた。

「ひゃっひょう!」太郎が答えた。

「ふ〜ん、今じゃ、学校でクレープがでてくるんだぁ・・・」

 普通に会話してるな。まるで宇宙人と話しているようだぞ。

 ならば!ものは試しだ!私もトライしてみよう!

 私は、太郎を真似て言った。

「ひゃ〜、ひひょひょひっへふるひょ!」

 どうかな?わかるかな?ん・・・?なに・・・?そのきょとんとした表情は・・・なぜ?どうして?っていうか・・・無視?

「じゃぁ、仕事いってくるよ」普通に言ってみた。

「いってらっしゃい」すぐに返事があった。

 なぜだ!なぜだ!なぜだ!なぜだ!太郎の言葉はわかっても、私の言葉はわからんのか!

 きっと・・・発音だな。発音がよくなかったんだな。そうに決まってる。それしかないよ。ハハハ。宇宙語はむずかしいな。

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