47皿目 天気は快晴2。

 紫外線が容赦なく私を焼きはじめた。腕の皮膚が、じりじりと音を立てているようだった。

 入場行進が終わるまでもう少し。それまでは、カメラを持つ手を動かすことはできない。ここにいない妻の為にも、しっかりと録画しなければならないからだ。なぜなら、妻は二日酔いで、家を出られないでいたからだ。


 快晴に恵まれた運動会。今年から父兄による場所取りが禁止となり、撮影場所は、競技の度に、該当する学年の家族が最前列に入れる仕組みとなった。我が家は2年生と4年生。20以上あるプログラムのうち8つも該当する。それはせわしなく、競技の度にベストポジションを確保するのは骨の折れる作業だった。午前中の私は一人で休むことなく働いた。なぜなら、妻は二日酔いで動けないでいたからだ。

 応援合戦でエールを贈る太郎の勇姿をばっちりとカメラにおさめた後、妻が運動場に姿を見せた。しかし、木陰からでることはおろか、立ち上がろうともしなかった。初夏の晴天がつくりだす木陰は涼しく、気持ちのよい環境だった。そして、そこに、頭を抱えて座り込んでいるのは、二日酔いの妻。

 子ども達の出場競技の間隔が空く時間帯が発生した。40分以上の待ち時間。私は、木陰に陣取った妻の横に、無言で座った。しばらくの沈黙の後、妻がようやく重い口を開いた。

「あたし、なにやってんだろう・・・」

 今更ながら、昨夜飲み過ぎた事を後悔しているのだ。


 待ち時間の間に家に戻り、お弁当を取って来る算段を妻に話した。ついでにドラッグストアに寄って、二日酔いに効くドリンク剤を買って来ようかと提案した。妻はドリンク剤の効能に半信半疑ながらもうなずき、お金をくれた。

 学校の近所のドラッグストアは混み合っていた。多くの家庭が、思ったより上昇し続けている気温を危惧して、子ども達に水分補給をさせる為に、スポーツドリンクをカゴに入れ、レジに並んでいた。その後ろで、私はドリンク剤を手にして並んでいた。なぜなら妻が二日酔いだからだ。『二日酔いに効く!』と銘打たれた小瓶のそれは525円もした。

 とんでもなく苦い味がしたのだろう、妻の顔がゆがんだ。そして、私の顔を見ながら自嘲気味に呟いた。

「どうせ呆れてるんでしょう?」

 私は笑顔で答えた。「そんなことないよ」

 二日酔いで起き出せず、お弁当や朝食まで旦那に準備させ、入場行進にも、応援合戦にも間に合わなかった。妻にしてみれば、私の顔を直視する事すらできないくらい恥ずかしい思いと、情けない気持ちで一杯だったはずだ。しかし、私は笑顔だった。いや、正確にはニヤついていると言った方がしっくりくる。それが妻には不思議だったに違いない。なぜなのか?ニヤニヤしているのはなぜなのか?数分後、妻は私のニヤつきの原因を理解した。

 「わかった。ブログネタにするんでしょう」

 こんなにおいしい出来事は滅多にない。なにせ、妻が二日酔いなのだから。

 そして、この後、お弁当の時間を迎える。

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