45皿目 同情。
妻が、5年間パートとして勤めてきたイタリアンのお店が、閉店することとなった。それは、ながらく我が家の家計を支えてきた妻の収入が少なくなる事を意味している。しかし、少しだが、蓄えはある。あせって次の仕事をみつけることもない。一番に考えなければならないのは、家計ではなく、家庭だ。
閉店業務を手伝って帰って来た妻は、晴れ晴れした様子であると同時に、どこか、さみしげだった。そんな様子を敏感に感じ取った花子。母に尋ねた。
「ねぇ母さん、みつかったの?」
唐突な質問に、はじめは意味がわからなかった。
「なにが?花ちゃん?」
「新しいお仕事だよ」
妻は答えに詰まった。私が助け舟を出した。
「母さんは、しばらくのんびりするんだよ」
「ふ〜ん。お仕事しないの?」
「そうだよ。ずっと頑張ってきたんだから、少しお休みしてもいいだろう?」
「ふ〜ん」
花子は半ば納得し、半ば心配そうな顔で頷いた。
娘の心配は何なのだろう?母が家にいる時間が長くなることが、嫌なのだろうか?それとも・・・・まさか、小学2年生がそんなことを気にするのだろうか?いや・・花子は歳のわりにしたたかだ。もしかすると・・・
そんな思案していると、花子が私の心を読んだかのように口を開いた。
「ねぇ、父さん?父さんのお給料って、いつ貰ってるの?」
やはり。この娘はうちの家計の事を心配しているのだ。母の収入が無くなることを理解し、我が家の生活が厳しくなる事を想像したのだ。
大丈夫だよ、花子。これから、しばらくは貯金できる額が減るけれども、これまでと変わらぬ生活を続けられるからな。それに、とーさんはこの一年がんばったから、ボーナスも期待できる。期待どおりのボーナスならば、母さんもゆっくり仕事をみつけられる。
花子や。花子が先月から通いはじめた造形教室だって、ちゃんと月謝を払えるさ。それに、母さんも今月から造形教室の大人クラスに参加した。油絵キットを持っているだろう?母さんも、久しぶりに絵を描くことを、とても楽しみにしている。大丈夫。心配ないよ。ピアノ教室や、サッカークラブ、造形教室の月謝くらい、なんてことないさ。お前達の教養はきちんと受けさせてやるからな。心配無用だ。
「だから、父さんは、いつ貰ってるの?」花子が再び尋ねた。
「毎月、10日だよ」
「ちがうよ。お母さんから貰うのはいつ?」
なんだそれは?とーさんのお小遣いのことをいってるのか?
「お父さん、かわいそうに・・・・」
なんで花子が同情するんだ?
「お父さん、せっかくお小遣いが騰がったのにね・・・」
まて!まて!まて!なんでそうなる!とーさんの小遣いは無くならないから!とーさんのお小遣いは、母さんのお給料から出ている訳ではないぞ!母さんが仕事をしなくなっても、貰えるから!とーさんのお給料は、母さんの何倍もあるんだから!
ねぇかーさん?そうだよね?ん?あれ?ねぇ、どうして目を合わせない?ははは。悪い冗談だよね。よせよ。そんなのないよ。うそ!うそ!うそ!
「たしか・・・いちまんえんだよね」花子が言った。
そうか・・・また、昔の額に戻るんだね。しかたがないね。でも、娘が額を決めるのは、どうかと思うな。
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