36皿目 比率。

 「今度の木曜日にクラスの女子達がうちに来るよ」夕食前のひとときに太郎が話題を提供した。

「なんで?」妻が即座に反応した。

 これまでも何度か女の子が放課後に、太郎を遊びの誘いに来た事はある。しかし、わざわざ前もって宣言することはなかったのだ。

 ついにガールフレンドができたのか?太郎の答えはいたって簡単なものだった。

「チョコを持ってくるんだよ」

 妻も私もすぐに納得した。

 そうか。バレンタインデーだったな。しかし、学校で渡せばよいものを、わざわざ家に持って来るってことは、いわゆる『本命チョコ』なのだろうか。詳しく知りたくなり、私はさらに説明を求めた。

 太郎の説明によると、3人ぐらいの女子が訪れる。学校にはチョコを持ってくるのは禁止されている。持って行くから夕方には家で待っていろ。そう言われたらしい。なるほど。そういう訳か。

 キッチンで珈琲を煎れながら、妻にバレンタインの思い出を話した。

「太郎は何個もらえるかな?おれは3年生の時15個貰ったよ」私は誇らしげに言った。

 妻はあきれた顔をして、私を見てから口を開いた。

「ハイハイ。もう何度も聞かされたわよ」

 私にそんな記憶はないのだが、耳にタコができたと言わんばかりの妻の表情から察するに、何度か話をしたのかもしれないとも思った。それには理由があった。15個というのは実は私の最高記録なのだ。3年生の時にそれだけの数を貰ったが、その後は減り続ける一方で、思春期には一つも貰えない年もあった。それだけに、3年生の時に打ち立てた記録は私の中で大きな勲章として存在し、毎年2月が来る度に、どこかで自慢げに話をしてきた。きっと妻にも話していたのだろう。

 「大人げないわよ。そんなの比べようがないわよ」妻は言う。

 確かに、私のころはチョコを学校に持っていくのは禁止ではなかった。それに、私の通った小学校はマンモス校で1学年に10クラスもあった。校舎も校庭も太郎の通う小学校の4倍。しかも、当時は40人学級。女子が半分いたとして、1学年に200名。そのなかの15人からチョコを貰ったということは・・・もちろん義理もあったが、少なからず私に好意を寄せていた女子の比率は7.5%だ。そう7.5%。

 対して、太郎の学校は30人学級。一学年には3クラスしかない。女子の数は全部で45名だとして、、その中の7.5%というと・・・

 やや!ややや!やややや!

 もし、太郎が4個貰うと、、比率上では私を抜く事になる。そう8.88%。しかも、持ち込み禁止のハンデを背負い、わざわざ家まで届けにくるのだ。

 私は太郎のセリフを思い出していた。たしか、太郎は『3人ぐらい』と言っていた。『ぐらい』それは4人かもしれないし、2人かもしれない。

 どうなんだ!何人くるんだ!はっきりしろ!父を超えるのか!

 比率。それは人気指数。

 私は努力して、お笑いに磨きをかけ、人気者になった。それに対し、幼くしてダメ男フェロモンを身につけ、その容姿と風貌で人気を得た太郎。努力なしに父を超えるのか。まぁいい。たとえ太郎が4個のチョコを貰ったとしても、その絶対数において、私の15個には遠く及ばない。それにまだ、太郎に『比率』の計算はできない。念のため、私の通った学校がマンモス校だった事は内緒にしておこう。うん、そうしよう。もし聞かれたら。そうだな。5クラスって事にしておこう。

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