35皿目 本音。

 先週受けた健康診断の結果が郵便で届いた。

 私の診断結果を見ながら妻が小言を言いはじめた。コレステロールの数値が高くなっていたのだ。夜勤明けに1時間ほど仮眠をとっただけで診断を受けた。しかも、夜の8時からは何も食べずに仕事を続けて受けたのだ。診断までの間に口にしたのはわずかなお湯だけ。検査の為だ。さらに、血を抜かれた。これでは、健康診断というよりも不健康診断だ。

 私のこれまでの検査結果はいつもAかB。いたって健康。C評価(要再検査)になったことはない。だから、今回の結果にもさして興味はなかった。

 「あなた、総コレステロールの数値が大きくなってるわよ」

 妻に言われて検査結果を覗き込んだ。確かに正常値の範囲を上回っている。前回、前々回と比べても徐々に数値が悪化しているのがわかった。

 「動脈硬化のおそれが高まるのよ」妻の心配が始った。「偏った食事になっているんじゃないの?」

 私に偏食はない。なんでも食べる。

「お店(職場)での食事に問題があるんじゃないの?」妻の小言は続いた。

 私はお店ではほとんど食事をとらない。お店で食べる賄いでは、いつも、腹5分程度にしている。眠たくなってしまうからだ。そのかわり家ではたらふく食べる。妻も私の喰いっぷりには作り甲斐を感じているので、つい作りすぎてしまうのだ。つまり、数値に影響を与えているのは我が家での食事内容にあるのだ。

 「バターとかお肉、卵を摂りすぎてるのよ」

 確かに卵とバターは私の好物だ。しかし、肉はあまり食べない。いやむしろ魚や野菜の方が好きだ。

「お店で揚げ物ばっかり食べてるんじゃないの?」

 いや、お店の賄いには、揚げ物はほとんど出て来ない。

「チョコとかもダメなのよ」

 しつこいぐらいに私の食事に注意を入れる。それもこれも私の身体の事を気遣ってのことなのだが、判定はB。数値は高めだが、異常値ではないのだ。

「あなたの食事の内容にもっと気を使わなくちゃ!」妻は続ける。「野菜を摂らなきゃね」

 家での食事は私の楽しみの一つでもあるのだ。それが、質素なものになってしまったりするのは悲しい。

「メタボリックじゃないんだから。そんなに気を使わなくてもいいんじゃない?」私は反論した。

「だめよ」意志は固いようだ。

 妻は今後の献立を考えはじめた。私はテレビのニュースに意識を移した。そうして、健康診断の結果に関する話は終わったかに見えた。しかしその数秒後、妻が叫んだ。

「あなた!たいへんよ!」

 どうしたのかと思い振り向くと、妻は大きく目を見開いて、結果表を凝視している。表を持つ手には力が入り、わなわなと震えている。

「どうした!」

 何か重大な異常値が出ていたのだろうか?あまりの妻の慌てぶりに、私は心配した。

「あなた!たいへんよ!」

「だから何が!?」

「あなたの体重が49.1kgになってる!!!!」

 どうやら、私は妻よりも軽くなってしまったようだ。

「50キロ以下よ!!!」

 声に嫉妬の念が現れている。

「ちゃんと食べてるの!?」

 食べてるよ。

「もっと食べてよ!」

 いや、ごちそうさま。

「お店で賄いを食べてないんじゃないの!?」

 確かに。

「もっと食べてよ!バンバン食べてよ!」

 なんかさっきと言ってる事が違うくないかい?

「ねぇ、太ってよ!」

 ついに本音をぶちまけた。妻よ。私が太っても、おまえが痩せるわけではないだろう。

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