24皿目 答え。
「父さん、おれの『すね』が少し固くなってきたよ。」
骨折が完治してから、サッカーの練習に復帰して一ヶ月ほど経ったある日、太郎が自慢げに足をさすってみせた。
空手家などが『すね』を鍛えたりする事は聞いた事があるが、サッカーの選手も『すね』の固さを気にするとは知らなかった。身体つきが変わったようにはちっとも見えないが、太郎が誇らしげにしているので、念のため、言って聞かせた。
「太郎、本当かどうかはわからないけど、小さいうちからサッカーにのめり込むと、あまり身長が伸びないらしいぞ」筋肉がつきすぎて、骨の成長を妨げてしまうという話を聞いた事があったのだ。
人一倍小さな太郎。学校で虐められないか心配するのは、親としては当然の事だと思う。
「学校でチビとか言われてないか?」
「最近はもう誰も言わなくなったよ」
太郎の通う学校は一学年に2〜3クラス。児童の数もそう多くはない。目立つキャラの太郎だから、学校中のみんなに『太郎』=『チビ』というイメージを定着させるのはさほど困難ではなかったろう。『チビ』だと言われて虐められることはなくなったらしいが、たびたび質問をされるようになったと言う。
「どうしてそんなに小さいの?」友達にしてみれば、太郎のチビさ加減は、とても不思議に感じるようだ。大きい子に同じような質問をした場合『毎日牛乳を2リットル飲む』とか『ごはんを3杯食べてる』とか答えようがあるが、小さい場合にはそう言った解答ができない。まさか『親がごはんを与えてくれない』とか『夜、眠らせてくれない』とか、そんな事はある筈もなく、どう答えていいのかわからないのだ。
「で?その質問にはなんて答えたの?」
「わからないって、答えたよ」
予想どおりだ。私は太郎に『答え』を教える事にした。
「それは『遺伝』だよ。次からそう答えな」私も幼き頃、ぐんを抜いて小さかったのだ。
「ほんとに!」太郎が突然目を輝かせた。
答えを知った事がそんなに嬉しいのか?おや?今度は照れくさそうにしているぞ。なにがそんなに照れくさいのか?『遺伝』ってのはそんなに嬉しい事なのか?照れる対象なのか?
おや?今度は少し誇らしげだ。おもしろいな太郎。おまえを見ていると飽きないよ。
太郎が噛み締めるようにつぶやいた。
「そうかぁ、おれが小さいのは秘伝かぁ」
いや。別に秘密じゃないよ。
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