20皿目 その反応。

 太郎がブランコから落ちて、手首を痛めた日。夜になっても痛みが引かず、むしろ腫れがひどくなったので妻心配になり病院に連れて行った。花子は一人でお留守番となった。

 私はそんな事になっているとは、これっぽちも知らされずにいた。たとえ、知らされたところで仕事を抜け出すわけにも行かなかったし、妻も私が帰ってきたところで太郎の手首が治るわけではない事を分かっているので、わざわざ連絡をして、心配をかける必要もないと踏んだのだろう。

 病院では、レントゲン写真を見せられて説明を受けた。手首に小さな骨折があるという。それ相応の処置を施された。ギプスはまだ先だという。固めてしまうとかえって手首が動かなくなってしまうらしい。やっかいな所を骨折したもんだ。

 太郎の右腕が分厚く包帯で巻かれて、三角巾でつり下げられた。見るからに痛々しいその姿。子供というのは奇妙なもので、太郎はそんな状態を嬉しそうに受け入れたという。『患者』とか『けが人』。自分がそんな風に見られる事に、新鮮さを感じるのだ。また、周囲の人たちから受ける同情や、やさしさを敏感に感じ取り、弱い人だけが得られる特別扱いを、きちんと理解し、その環境を存分に楽しむのだ。

 「花子がこの姿を見たらなんて言うかなぁ」太郎が母に尋ねた。

 二人とも花子がどんなを示すか、おおよその見当はついていた。二人は早くそれを見たくて家路を急いだ。

「ただいまぁ。花子、さみしくなかった?」妻が一人で留守番していた娘を気遣った。

 リビングでDVDを見ていた花子が、やっと帰って来た二人を嬉しそうに玄関まで来て出迎えた。花子はさみしかったのだ。

 太郎が母の後ろから身を出した。ぐるぐるの包帯。吊りさげられた右腕。痛々しいその姿が、花子の目に映った。

「いいなぁ〜。おにぃちゃん〜」で言った。

「やっぱりね」

 二人とも想像していた通りの反応に満足した。

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