第44話:感謝―Resurrection―
「はーい、オーラーイ! オーラーイ! はい、オーケー」
「……まさかギアスーツをこうやって使う日が来るとは」
スミスが作業車に乗って資材を引っ張り戦艦、ホウセンカへ資源の運送をしている中、ニーアもホバーしか装着していないコアスーツに着替えて資材の運搬の手伝いをしていた。海賊の拠点であった島に残っている資材を運んでいるのだ。ホウセンカに補給が届くのは翌日。それまでにできる限りの補修をしなければならない。
ニーアが大きな荷車を引っ張り終えて、ふぅと呼吸する。朝から何往復しているから、基本的に自動操縦だから疲れはしないはずなのに、思わず呼吸を漏らしてしまう。
「まぁ、ギアスーツは元々作業用だかんなー」
「それは勉強して知っているけどさ、いざ使ってみるとギャップとか感じちゃってね」
ギアスーツ、即ちそれは兵器だと思っていたニーアからすれば意外な使い方だ。だが、当然であるが理には敵っているわけで、敵からの攻撃を防ぐために付ける装甲を身に纏うためのコアスーツのパワーローダーのシステムは、こうやって運搬作業などに運用が可能なのだ。
ニーアは荷車から抜け出してヘルメットを脱ぐ。ホバーの制御のために付けていたがやはり暑い。戦闘中はそこまで気にはならなくても、こういう心穏やかな時になると気にはなるものだ。
スミスがそんなニーアにポイッとミネラルウォーターのペットボトルを投げ渡した。ほんの少しだけ量が減っている。どうやらスミスの飲みかけのようだが、今更そういうのを気にするニーアなわけがなく、一口水を口に含む。
「ありがと」
「お、おぅ……この間はごめんな。マリーの事」
そんなニーアを見てほんの少し顔を赤らめていたスミスは、ぶんぶんと首を思い切り振って、両手で自分の頬をぺちぺちと叩いて、そして暗い表情を見せた。スミスからすれば、あの時の決断は正しいものであったが、ニーアに迷惑をかけるものであった。マリーを戦場に送り込んだ。その事は、重罪だ。
ニーアはそんなスミスの表情を見て、少しうーんと唸る。そんな姿を見せられたらスミスはハラハラドキドキだ。それこそ心臓が飛び出てしまうかもしれない。
でも、ニーアはそんなスミスにすっとんきょうな顔を見せた。
「忘れてた」
「え、ちょっ、はぁ!?」
思いもしないそんな一言にスミスは思わず作業車の上で立ち上がってしまう。ニーアの位置からは角度もあって太陽の逆光でスミスの顔が見えなくなってしまう。スミスもそれぐらい解ってたし、それで良かったのかもしれない。今の自分のぐちゃぐちゃになった顔はとても見せられるものではない。
そんな事もつゆ知らず、ニーアは冷静に忘れていた経緯を話す。
「その、ヒューマさんの事で動転してて、マリーの事を忘れたつもりはなかったんだけど」
「あ、そ、そうか! それなら良かった」
「良くないよ。てか、怒ってるのは怒ってんだからね」
その一言にひぇー、と慄くスミス。ぽたぽた出していた滴が、別の塩味の冷えた滴になりそうだ。だが、流石にそんなスミスの対応が面白かったのか、ニーアは小さく笑った。
「でもその結果、ホウセンカの危機は守られた。だからそれでチャラだよ。僕達の家を守ってくれたんだ。マリーのコアスーツもスミスのを貸してくれたんだろう?」
「うん、まぁ、マリーとオレの体型ってそこまで変わんないし。胸を除いては」
「まぁ、マリーの胸は大きいからね……じゃなくて、だから僕は怒らない。ありがとう、スミス」
その一言に一度は退いてしまったスミスの瞳の滴が、ゆっくりと大地に落ちた。怒られると思っていたから。それもある。嫌われるんじゃないか、そういう不安もあった。でもそれ以上に、感謝されるなんて思っていなかったから。絶交されるんじゃないかって、ずっと不安だった。折角友達になれたのに。
スミスの嗚咽がニーアに聞こえたのか、ニーアが驚いて大丈夫、と聞いてくる。この優しさが嬉しい。こんな事を思うなんて初めてだ。
「大丈夫……うん。オレこそありがとう」
「なんで感謝するのさ。さ、昼ご飯、食べに行こうよ」
ニーアがんー、と背中と腕を伸ばして軽くストレッチをするとホウセンカと島を繋ぐ橋へ向かう。スミスはただただ、赤くなったその顔に手を当てるしかできなかった。
◇◇◇◇
彼女がその昼食の場に現れたのは数日ぶりであった。彼女がふらふらと廊下に何度も頭をぶつけながらも食堂に辿り着けたのはある意味で奇跡的だ。それほど彼女は衰弱していた。
「ツバキ君!」
「博士、大丈夫かよ!」
トロイド博士とテルリが倒れこみそうになるツバキを二人で支える。ツバキの顔は明らかな疲労が浮かんでいた。食事は食堂の調理師が直々に手術室に持って行っていたため、食事はとっているはずなのだが、やはりそれだけでは疲労はとれない。
それほど油断も許さない状況だったのだろう。ツバキが戻ってきたという事は、結果が出たという事だ。食堂にいる皆がツバキの発言を待って黙る。
「う、うっぷ……」
「ヤベェ! 博士がゲロ吐く! バケツ! ビニール! エチケット袋!」
テルリの指示にいそいそとバケツやビニール袋が集められていく。そして、あぁ悲しいかな。女性が出してはいけない音と一緒に吐瀉物が吐き出された。臭いが充満する。心配しようにも近寄れない。
しばらくお待ちください……。
「はい、復活!」
数十分後。吐瀉物を片付けて、水をぐびっと飲み終えたツバキはそう宣言して仁王立ちをした。先程までダウンしていた人とは思えない立ち上がり方である。
幾つかの人間が大きな溜め息を吐いてドン引きしていたが、緊張感は確かになくなっていた。それを見こしてか、ツバキはこほんと咳き込んだ。そして有無も言わずに、そして真剣に皆に伝える。
「峠は越えたわ。命に別状はない。しばらくは面会謝絶だけどね」
その言葉に皆が安堵の表情を浮かべた。ツバキもそんな皆の様子に安心をする。手術室に入り込んでいてもホウセンカ全体の空気の悪さが解っていたのだろう。だからこそ無理をしてでもヒューマの治療に専決したのだ。
水をごくごくと飲んで、ふぅと水をテーブルに置く。そんなツバキにニーアは近づいてヒューマの容態について訊き始める。
「ヒューマさん……ヒューマさんの身体って」
「大丈夫よ。あと数日もしたら皆の前にも出てこれるし、戦えるって言ってたわ」
それは、なんだかとても違和感があった。少なくともニーアはツバキのその言葉からそれを感じ取っていた。彼が知る限り、ヒューマの右半身はバイオスフォトンの光線を諸に受けた。もし、島での子供達と同じような結果に至るならば、ヒューマの右半身は死んでしまっているはずなのだ。
だというのに、戦えるという言葉は何かおかしく感じた。ツバキの技術を信頼していないわけではない。ただ、それが何だか現実離れに感じて、ニーアはそれ以上の言葉を発せなかった。
「さーて、ヒューマが休んでいる間にも動くわよー!」
「博士は休んどけよ。早死にすんぞ」
「そうだ。仮眠は重要だ。三時間ぐらい寝ときなさい」
ツバキの空元気にも近いそんな掛け声に、テルリが真面目に心配し、トロイド博士が仮眠を提案する。ツバキがおよよよ、とトロイド博士にもたれ掛かるので、二人はまたツバキを支えて彼女の個室へ連れて行った。
ニーアは、それでもやはり何か思うところがあったのか看護師に悟られないようにヒューマの居場所を聞き出し、そしてスミスにも誰にもバレないように彼の元へ息を潜めて急いだ。
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