第16話

仲が良い男友達とじゃれていたら、彼氏に見られて誤解された。

「どういうこと?」

静かな声。


しばらくして、藤倉くんの拳が固められた。

「てめえ、この野郎!なに、新川さんを泣かしてんだ!」

思いっきり赤城くんを殴ろうとした。

「だめえ!」

私は二人の間に飛び込む。

赤城くんは私を抱きすくめ、背中を丸め、庇う。

「チクショウ!」

寸止めで拳を抑えた藤倉くんが机を殴った。

「なにしてんだ!赤城は新川さんと何してんだ!」

「慰めてたんだよ。泣いてたから」

「な…」

赤城くんが私の物真似をする。

「『あたち、藤倉くんをいぢめちゃったあ!どうしよう、うわあん!』」

「え…俺がイジメられたの?」

かすれた声で藤倉くんが私に言う。

「俺があなたにしたことで泣いたんじゃないの?」

「『ううん。あたちが悪いの』」

赤城くんが物真似してるのに私に向き合う藤倉くん。

「新川さん、新川さんはなにも悪くないよ。悪いのは俺だから、泣かないでね」

「『うわあん。それに藤倉くんがいつまでも名字で呼ぶから、あたちも『彗』って名前で呼べない。あたちのこと、名前で呼んでぇ~』」

「まじ?」

藤倉くんの目が丸くなった。

「そんなこと、赤城に相談してたの?」

「してないしてない!」

「…俺…。俺より赤城の方が新川さんと仲が良いから妬いてんだよ」

かすれた声で藤倉くんが言う。

「本当は名前で呼びたいけど、あなたの名前が大事すぎて…。

でもあなたは俺を名前で呼んでいいよ。

俺はあなたが大好きだよ」

「彗くうん…優衣たん、嬉ぴよ」

「う。新川さん…」


「だー!」

素に戻った赤城くんが藤倉くんに言う。

「いいじゃん、名前で呼べば。俺は呼べるよ」

赤城くんは私をまっすぐ見る。

「優衣」

「…」

呆然としたら、藤倉くんが赤城くんの頭をはたいた。

「勝手に呼ぶな!優衣は俺のだ」

ぎゅうううっ。

いきなり藤倉くんに抱きしめられる。

「誰かに取られるくらいなら、俺が大事にする。優衣は俺のだ!」

「ふ…藤倉くん…」

「彗で良い。名前で呼んで」

「す…すい……くるしい…」

「わあ!ごめん!ごめんん!」

ごめんごめん言いながらまだ抱きすくめる藤倉くん。じたばたする私。

「体育だよね、次の時間」

赤城くんが勝手に私のジャージを持ってくる。

「藤倉、ついでに次のステップだ。この台詞を言ってみよー!」

「は?」

赤城くんは、艶っぽい目で笑う。

「『優衣、俺が着替えさせてあげるよ』」

「言うかあ!」

藤倉くんは私にジャージを押し付け、もんのすごく真っ赤になって走り逃げた。

「かわいいなあ、藤倉」

「赤城くん、ひどい」

「かわいがってあげなよ、藤倉を」

「どーやって」

「ペロティチョコあげるとか」

「…」

私は今日のキスを思い出し、へなへなと座り込んだ。



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