第17話

私の名前を呼ぶ、少しかすれた優しい声。

「優衣」

澄んだ瞳。ちょっと童顔。すらっとしている姿勢の良い体、しなやかな筋肉に覆われた翼のような腕、小さな腰、大胆に動く足。


私の彼…同い年の藤倉彗。


告白された時は知らなかった。


バスケ部の次期エース。

同性にも好かれる愛されキャラ。

かっこいい、優しい、強い、かわいい、明るい、意外と頼りになる…

人気の高い男の子。


そんな人に告白され、

「友達からなら…」とエラそうなことを言いながら…ついに好きになってしまった。


付き合い始めて1ヶ月。

バスケ部で忙しい直とはお昼休みにしか会えないけど、順調に付き合ってます!



「付き合ってますといえば、抱き合ったりチューしたり」

友達のアキが力説する。

「うるちゃいよ、アキ」

「妄想族よね」

大学生とつきあってる大人女子の沙夜香と、引っ込み思案でかわいいメガネ娘の真実がどん引きしてる。

「だってえ?藤倉のあの、逞しい大きな体に、優衣が!」

「「「変な妄想しない!」」」

全員に突っ込まれても、決して止まらないアキの妄想。

「あー。彼氏ほしー。カッコ良くて、お金があって、あたしにベタぼれの、素敵な男子があー欲しいよー」



「あ、そろそろお迎えがくる」

今日は中間テスト最終日。

部活も勉強もない、珍しい日だ。

「優衣」

彗が、クラスに来てくれた。

「いこ」

「うん」


今日はデート。


「ごめんな。俺がバスケばっかりしてて」

「ううん。彗が頑張っているから嬉しいよ」

水族館にやってきた。

「わあ、ペンギンかわいー」

「優衣に似てる」

「え、そう?」

「うん。かわいいものは、みーんな、優衣に似てる」

ストレートに言う癖に真っ赤な顔。

「彗もかわいい!」

「ばか、よせよ」

シャチのぬいぐるみを彗に買ってもらった。

「おっきい!抱き枕みたい!

ふかふかして、すべすべしてて、

でも筋肉質~。抱き心地気持ちい~」

私はシャチに顔をうずめる。

「かわいい~」

彗が真剣な顔をする。

「優衣は、筋肉質で大きいと良いのか」

「うん!抱き心地は大事だよ!

彗も抱いて」

「…」

シャチを手渡そうと腕を伸ばしたら、シャチごと抱き締められた。

「…ぁ…」

「ほんとだ」

かすれた声が耳元で甘く囁く。

「かなり気持ちいい…」

「…ン…」

「優しくなる」

シャチに隠れて直が口づける。

ふれるかふれないかの、やわらかいキス。繊細で静かで、大切にされてる…。

(彗から、愛が伝わってくる…)

唇が離れた後、彗は閉じていた目をゆっくりと開けた。澄んだ瞳に私がうつっている。

「優衣…」

直を見上げていると、彗は困った顔をした。

「かわいい。どうしよう」

「彗?」

「が可愛すぎて困る…」

そう言うともう一度、唇を落とされる。

優しい、優しいキス。

物語の王子様が、お姫様にするような

子供の時、夢見てたキス。

「…自制心、制御不能になりそう」

囁くような声。

そして私も、もっと抱っこして欲しいなって思っていた。

何度か口づける。

優しく、優しく、優しく。

口付けされるたびにかすかに開いてしまう唇。

寄り添おうとする躰。

やがて、ゆっくりと彗の舌が入ってきた。

「…ぁ…」

唇で私の下唇を挟む。そして舌で私の舌をまさぐった。

「…ン…はぁ…ふ…んン…」

私の漏らす声に呼応し、蠢く彗の唇。

「…ぁ…もぉだめ…」

こんなとこで…。

水族館の裏庭でなにしてるの…。

「やばい…」

彗もそう呟く。

「とまるかな、これ」

吐息を吹き込まれ、私の体に電流が走る。



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