第3話
■ ボロボロの教会(亜斗璃と偉須火の家)
亜斗璃が、鼻歌を歌いながら、繕い物をしている。
偉須火、お茶を持ってくる。亜斗璃の傍らの机に置く。
偉須火「最近、楽しそうだね」
亜斗璃「(手を休め、顔を上げる)え? そう?」
偉須火「何か、いいことでもあった?」
亜斗璃「ううん。べつに」
偉須火「亜斗璃……」
亜斗璃「ん?」
偉須火「……いや」
亜斗璃(M)「(首をかしげ)変な偉須火……」
■ 鏡の前
偉須火、額に黒い布を巻いたまま、そっと片手を額に当てる。
バン、と鏡に両腕を突っ張り、うつむいて唇を噛む。
偉須火「ダメだ……」
■ 市場
亜斗璃、買い物籠を持って、野菜を物色している。
店主「亜斗璃様、何かお探しですか?」
亜斗璃「ええ。何か、あったまる物を作ろうかと思って……」
店主「でしたら、こちらの香草をスープのスパイスにするとか……。こちらの香草はお魚に合いますよ」
亜斗璃「四季の里の野草ね……」
店主「ええ。とても温まります」
■ その様子を遠くから見る偉須火
偉須火、買い物をする亜斗璃をみつける。
偉須火「亜斗璃……?」
■ 市場、反対側
ソウルが、腕に抱えた食べ物を、わしわしと喰らいながら歩いている。
■ 偉須火
偉須火、ソウルに気づく。
偉須火(M)「あいつ……。まだ、この辺をうろうろと……」
■ 亜斗璃
亜斗璃、買い物籠に香草と芋を入れ、嬉しそう。
ふと、腕に抱えた果実を、食べながら歩いてくるソウルをみつける。
亜斗璃「あっ」
亜斗璃、ぱっと店の陰に隠れる。
■ 市場
ソウルが肉を売っている店を眺めている。
でかい干し肉を指さし、金と引き換えに干し肉を貰う。
ソウル「よっ」
ソウル、麻布にくるまれた干し肉を、どさっと肩に担ぐ。
亜斗璃、テントを張った露店の陰から、ひょこんと顔を出す。
亜斗璃「また、ここに居た(にこっと笑う)」
ソウル「よう、お嬢ちゃん。喰うか?(果実を渡す)」
亜斗璃「(受け取り)ありがと」
亜斗璃、ソウル、連れだって歩く。
少し歩いて、店先のベンチに並んで座る。
肩に担いでいた干し肉をベンチにドスッと下ろす。
亜斗璃が座っていた側が、シーソーのように少し跳ねる。
亜斗璃「凄いお肉ね……」
ソウル「俺さあ、腹減ると死んじゃうのよ」
亜斗璃「えっ? 大変! ……って」
ソウル「あはは」
亜斗璃「そんなの、みんなそうじゃない……」
ソウル「そんなわけで、ここで失敬して」
ソウル、干し肉にかぶりつく。豪快な食いっぷり。
ソウルの食いっぷりの良さに、亜斗璃、呆然とする。
亜斗璃「すご……」
ソウル「この里はさ、果実もすんげぇうめぇけど、干し肉の加工技術がピカイチなわけよ」
亜斗璃「そうなんだ……」
ソウル「俺の国なんかさ、肉は氷ん中で保存するだけだから、焼いて食うくらいしか……もぐもぐ」
亜斗璃「ソウルの国……。どんなところなの? 王子様って、やっぱり毎日、お城でご馳走食べてるの?」
ソウル「まあ、気候がこんなだからさ、そうそうご馳走なんてありつけねーよ」
亜斗璃「そっか……」
ソウル「それに、俺は三番目だから、兄貴たちほど大事にされちゃいねぇよ。ほったらかし」
亜斗璃「わたしね、今度、ソウルに何かあったかいもの作ってあげたいなぁって……」
ソウル「えっ!? マジマジマジっ!?」
ソウル、亜斗璃の手を取る。
亜斗璃、その勢いに驚く。
亜斗璃「う、うん。マジ……」
ソウル「やったー! 約束な!」
亜斗璃「ふふっ」
ソウル「あ、俺、がっついてた?」
亜斗璃「ううん。ソウルらしい」
ソウル「へへっ」
ソウル、真面目な顔になって。
ソウル「……俺さ、この里に唄姫を探しに来たって言ったろ?」
亜斗璃「うん」
ソウル「けど、お嬢ちゃん見てると、そういうもんじゃねーのかなって」
亜斗璃「え?」
ソウル「あの、教会でみんながお嬢ちゃんの唄を聴いてるとき、俺、涙が出てきて……」
亜斗璃「うん」
ソウル「なんで泣いたかわかんなくてさ……」
亜斗璃「うん。そっか……。ソウル、今まで、いっぱい、頑張ってきたんだね……」
亜斗璃、ソウルを見て、優しく微笑む。
ソウル、初めて自分を判って貰ったような戸惑った表情。
亜斗璃、もう一度、ニコッと笑う。
亜斗璃、ソウルに貰った果物にかぷっと口をつける。
亜斗璃「おいしいね」
ソウル、そんな亜斗璃を見て微笑み、残った干し肉をガツガツと喰らう。
亜斗璃「……あのね、最近、偉須火、変なの」
ソウル「変って?」
亜斗璃「うーん。わかんない。でも、何かいいことあったか、って訊かれたよ」
ソウル「ふうん。俺と会ってることは、お嬢ちゃんにとって、いいことなんだ?」
亜斗璃「え? そうなのかな?」
ソウル「さあな(ニパッと笑う)」
亜斗璃「でも、異国の王子様なのに、気取ってなくてお話してると楽しいなって」
ソウル「三男坊だけどな」
亜斗璃「ほら、そういうところが、ね」
二人、笑い合う。
ソウル「でもまあ、昨日みたいなことがあったら、いつでも呼べよ。護ってやっからさ」
亜斗璃「えっ? ほんと?」
ソウル「ああ、ホントホント。俺様、強えぇからさ。飛んでいって、助けてやる」
亜斗璃「本気にしちゃうよ?」
ソウル「おうよ」
■ 人気のない路地
麻布に包まれた干し肉を抱えたソウル、歩いている。
ふと、立ち止まり、肩越しに振り返る。
ソウル「穏やかじゃないね、オニイチャン」
偉須火、姿を現す。右手に剣を持っている。
偉須火「抜け」
ソウル「よせって。イダリの国でも、俺様にかなうヤツぁ、そうはいなかったぜ?」
ソウル、ゆっくり振向く。
偉須火、ソウルを睨む。
ソウル「おまえさん、どんな二重人格だよ?」
偉須火「貴様が嫌いなだけだ」
ソウル「ま、慈善家面して笑ってるよか、ずっとおまえさんらしいけどな。いい目してやがるぜ」
偉須火「無駄口はいい。俺は、亜斗璃を護れる男でなければ、認めない」
ソウル「なるほど……。そうきたか……。じゃあ、引けねぇなぁ……」
ソウル、そっと麻布の包みを置く。
偉須火、斬りかかる。
ソウルが剣を抜く。剣風。
果実が、宙を舞う。
キン、と剣が鳴る。
つばぜり合い。
ソウル「ったぁ~。小僧のくせに……」
偉須火の鋭い瞳。
ソウルの力強い瞳。
二人、後方に飛んで離れる。
偉須火、ヒュッと口笛を吹きながら剣を振る。
ソウルの剣が飛ぶ。
ソウル「(驚いて)なっ!?」
ソウルの服が、斬られ、ハラリと落ちる。
ソウル「(右腕を押さえ)うそだろ……。女みてぇな顔しやがって、鬼のように強えぇじゃねーか」
偉須火「(剣をつきつけ)敗北は赦さない。あいつを護りたければ、何が何でも勝って生き残れ」
ソウル「偉須火……」
偉須火「剣を拾え。女は、実力で奪うものだろう?」
ソウル「(ニヤッと笑う)上等」
ソウル、後ろにトンボを切り、剣を拾って斬りかかる。
剣が鳴る。
■ 教会、屋根裏部屋
偉須火、左腕に包帯のような布を巻き、口を使って縛る。
亜斗璃、屋根裏部屋に入ってくる。
亜斗璃「(驚いて)どうしたの? 偉須火」
偉須火「(優しい笑顔)心配ないよ」
亜斗璃「でも……」
偉須火「あいつは……どんなヤツだい? 亜斗璃」
亜斗璃「あいつって……ソウルのこと?」
偉須火「ああ」
亜斗璃「(クスッと笑う)あのね、彼、わたしの一番嫌いなアレを、やっつけてくれたの」
偉須火「(笑う)そいつは、頼もしいな」
亜斗璃「で、いつも、会うと食べ物くれるの」
亜斗璃、最高に可愛い恋する乙女の笑顔。
偉須火(M)「亜斗璃……」
亜斗璃「彼って、もの凄い食いしん坊なの。もう、びっくりするくらい。だからね、今度、何か作ってあげたいな、って……(幸せな笑顔)」
偉須火(M)「(目を細め)亜斗璃……」
亜斗璃「護ってやるって、なんかあったら呼べって言ってくれたけど、どう言う意味かなぁ?」
偉須火、ふう、と息をついて目を伏せる。
■ 祈りの神殿
バルコニーで、亜斗璃が唄っている。
円形劇場の広場にいる偉須火のもとに、茄都が来る。
茄都「偉須火、白麓山に光りが……」
偉須火の瞳に緊張が走る。すぐに、にこやかな表情に戻る。唄う亜斗璃を見、広場に跪いて祈る人々を見る。
隅の方に、ソウルの姿を確認する。
偉須火(M)「亜斗璃を頼むぞ、王子様」
偉須火「(茄都に笑顔で)老師を集めろ」
偉須火、神殿の円形劇場を走り出る。
茄都、続く。
■ レンガの家が並んだ路地
駆け抜ける偉須火と茄都。
突然、地面がグラグラと揺れる。
茄都「地震?」
家の側に摘んであった荷物などが崩れる。
偉須火、茄都の首根っこを掴んで伏せさせる。
偉須火「伏せろ」
空に赤い煙が上がる。
茄都「もしかして、白麓山が……噴火したのか?」
側のレンガの家が崩れ始める。
偉須火(M)「亜斗璃……!」
■ 祈りの神殿
突然の地震に、皆が慌てる。
彌杏「亜斗璃様!(亜斗璃を庇う)」
崩れかかる神殿。
客席の人が逃げまどう。
■ 路地
偉須火、神殿を振り返り、走り出す。
茄都「偉須火っ!」
偉須火「(茄都に)おまえは、みんなを、誘導しろ!」
偉須火(M)「(走りながら)亜斗璃! 亜斗璃!」
■ 祈りの神殿
神殿が崩れ出す。
彌杏「亜斗璃! 早く外にっ!」
彌杏、ドアを開け、階段を目指して亜斗璃を先導する。
天井が崩れてくる。
立ちすくむ亜斗璃。
亜斗璃「きゃぁ……!」
亜斗璃(M)「偉須火!(目を閉じる)」
轟音とともに、暗転。
■ 祈りの神殿・表
人々が、逃げまどっている。
たどり着いた偉須火の耳に、亜斗璃の声が響く。共鳴。
亜斗璃(OFF)「偉須火!」
偉須火「(青ざめる)亜斗璃!」
崩れ落ちようとする神殿に突っ込んでいく偉須火。
砂塵の中から、ソウルが現れる。
腕に亜斗璃を抱いている。
傍らに、彌杏。
偉須火「(駆け寄る)亜斗璃っ!」
偉須火、ソウルを睨む。
ソウル、ニッと笑う。
ソウル「心配すんなって。気を失ってるだけだ」
偉須火、彌杏を見る。
彌杏、黙って頷く。
偉須火「おまえを、信じていいんだな?」
ソウル「オニイチャンに内緒でさらっていくような真似はしねぇって」
偉須火「(彌杏に)亜斗璃を頼みます(身を翻す)」
ソウル「おい、おめぇはどこに?」
偉須火「(振返る)俺には、やることがある」
偉須火、噴火する白麓山に向かって走って行く。
つづく
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