妙案

@ookiichiro

妙案

とある国のリゾートホテルに、世界各国の首脳陣が集まり膝を突き合わせ、とある問題について話し合っていた。


開催地のリゾートホテルは特に大きい会議室を貸し出したが、それでもみなは入り切らず、外から眺めるだけの首脳も少なからずそこにいた。


「結局のところ、人種差別についての解決案はまた何も出ず、といったところかね」


「肌の色、こればっかりは生まれた時からどうしようもありませんからね」


「仕方がない、今回も何も成果は得られず解散、というところでしょうか」


「そうですね」


会議室のテーブルを囲むように座る首脳陣達が諦めたようにため息を付く。


そのため息を合図にしてか、周りで立ちながら成り行きを見守っていた首脳陣も、同じように、残念そうに息を吐いた。


「それならば」


帰り支度を始めようと、中央の首脳陣が席を立とうとしたところ、部屋の外から声がする事に気づき、みんな揃って出どころへと目線を移す。


「おっとすまん。ええと……そこの方。何か意見がおありかな」


首脳陣は改めて座り直し、周りの者たちも揃って腕を組み、再び悩む仕草に入る。


「せっかく発言の許可を頂いて、こんな話で恐縮なのですが、もういっそ、生まれた時点で赤ん坊を同じ色に染め上げるのはいかがでしょう。そうですね。せっかくですから緑色。平和の緑、世界のみんなが平和の色に染まるんです。何も争いなんて起きなくなります」


遠くから聞こえてくる声の中身に、立っている首脳陣が思わず吹き出しそうになったが、テーブルを囲む首脳陣の真剣な眼差しに、表情を直し、同じく真剣な眼差しで顎に手を当て考える仕草を取る。


「それはまさに、妙案だ」


テーブルの上座に座る首脳陣の一声に、少し遅れて立っている首脳陣も数度、頷いた。


世界は、緑色に染まることで決定した。


あのリゾートホテルでの鶴の一声から、各国は出産を必死に管理した。


我が子を緑色に染め、孫を緑色に染め、ひ孫を緑色に染め、一人目の緑色から雲孫が生まれる頃には、世界から人種差別は消えていた。


しかし、緑色で全てが解決したかといえばそうとも言えず、世界では新たな差別がいたる所で起きていた。


まずひとつが塗り斑差別。病院で塗られるスプレーも完璧ではなく、時折塗り斑が発生する。人々は、その斑を指差し嘲笑った。


次に褪色差別。スプレーの色も年月とともに色褪せてゆき、運が悪いと鮮やかな黄緑色へと変貌を遂げる。人々は、その黄緑に過剰なまでの憐憫を向けた。


他にも数えだしたらキリがないくらいに、小さな差別が世界中で巻き起こっていたが、一番大きい差別は、肌色差別と呼ばれるものだった。


国が病院を管理することで、生まれる赤ん坊を緑色に染め上げていたが、どうしても国の管理の外で子どもが産まれることもあった。その子は、自然の色のままに産声を上げる。その自然な色を指して、肌色がおかしい事から付いた名前が、肌色差別。


そうして生まれた我が子に対し、成長したら皆と同じ緑色になると親は揃って願いを込める。


しかし、肌色は肌色のまま。変わることはない。


学校では誰一人として肌色に話しかけてくることはなかった。周囲から聞こえるヒソヒソ声を聞きながら、一人、卒業するまで机に突っ伏するだけだった。


会社も同じく緑色でないことを理由にろくな仕事も任せてもらえず、デスクに座って液晶モニタを眺めるだけ。


そして最後は親から見放される。


肌色が辿る人生は全てが似たようなもので、みな、決まってどこかのタイミングで安息の地を求めて行く宛もなく飛び出してゆく。

自分を受け入れてくれる社会。そんな物を探して彷徨い始めるのがお決まりのパターンだった。


そして、彼らの求める安息の地、というのは意外なことにも存在はした。


社会から追い出された、肌色により形成されたコミュニティというのは、世界各国の至る所に点在していた。


そこに辿り着くことさえ出来れば、緑色の社会のように迫害を受けることなく、色に悩むこと無く幸せに暮らすことができた。


というわけでも、なかった。


とある場所の小さな小屋に、肌色コミュニティの人々が集まり膝を突き合わせ、とある問題について話し合っていた。


コミュニティの中で一番大きな小屋を会議の場にしたが、それでもみなは入り切らず、外から眺めるだけの肌色も少なからずそこにいた。


「結局のところ、食料問題の解決案はまた何も出ず、といったところかね」


「食料問題、こればっかりは生きていればどうしようもありませんからね」


「仕方がない、今回も何も成果は得られず解散、というところでしょうか」


「そうですね」


小屋の机を囲むように座る肌色達が諦めたようにため息を付く。


座るものは皆、同じ肌の色だった。


そのため息を合図にしてか、周りで立ちながら成り行きを見守っていた肌色も、同じように、残念そうに息を吐いた。


息を吐いた肌色は、座るものとは別の色で揃っていた。


帰り支度を始めようと、中央の肌色が席を立とうとしたところ、部屋の外から声がする事に気づき、みんな揃って出どころへと目線を移す。


部屋の中の全てと違う、肌色だった。


「おっとすまん。ええと……そこの方。何か意見がおありかな」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

妙案 @ookiichiro

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画