53話 託されたもの


「父上……! しっかりしてください……!」


ビビットが、崩れ落ちる父の体を抱きとめた。腹部に、深い傷跡が刻まれている。


「ボルテック……! お前、何を……!」


「――当然のことをしたまでだ」


ボルテックが、剣を握りしめたまま、冷たく言い放った。


「継承式の前に、邪魔者を排除する。それだけのことだ」


***


「なんで……なんで、こんな……!」


ビビットの声が、震えていた。


ライトラは、朦朧としながらも、必死に息子を見上げていた。


「……ビビット」


「父上、喋らないでください……! 今、治療を――」


「聞いてくれ」


ライトラの声は弱々しかったが、確かな意志が込められていた。


「お前に、伝えなければならないことがある」


***


「お前を王にしなかったのは……お前が、嫌いだったからじゃない」


「父上……」


「ボルテック。お前なら……いつか、自分の力で、国を支配しようとすると思った」


ライトラの視線が、静かにボルテックへと向けられた。


「その野心が、いつか国を傷つけると……分かっていたからだ」


ボルテックの表情が、僅かに揺れた。


***


「ビビット。……お前なら」


ライトラの手が、震えながらビビットの手を握った。


「人を、守れる王になれると……そう、思ったんだ」


「父上……!」


「すまなかった、な……お前に、何も、話さないまま……」


その声が、次第に小さくなっていく。


「父上! 父上!!」


呼びかけても、その目は、二度と開かなかった。


***


玉座の間に、重い沈黙が満ちた。


「……」


ビビットは、父の体を抱いたまま、しばらく動かなかった。


やがて、ゆっくりと顔を上げる。


その目には――これまで見せたことのない、静かな怒りが宿っていた。


「ボルテック」


「……なんだ」


「父上は……最初から、俺を信じてくれてたのか」


「知るか、そんなこと!」


ボルテックが、声を荒げた。


「俺が、この国を救ったんだ! 財政難を解消したのも、俺だ! なのに、なぜ――」


「――お前が」


***


ビビットが、静かに立ち上がった。


「なぜ選ばれなかったのか、その答えを……今、父上が教えてくれただろ」


「黙れ!」


ボルテックが、剣を構えた。


「お前になんて、絶対に負けない! この国は、俺のものだ!」


「マーク」


ビビットが、静かに振り返った。


「これは……俺の戦いだ。手を出すな」


***


マークは、拳を握りしめたまま、静かに頷いた。


「……分かった」


「イズマ、グレン、お前らも」


「言われなくても」


イズマが、短く答えた。


「見届けてやるよ」


グレンも、腕を組んで壁際に下がった。


***


ビビットの体に、電撃が纏わりついていく。


これまでにない、静かで、深い力だった。


「ボルテック」


「……ビビット」


「父上の想いを……お前に、分からせてやる」


その言葉とともに、ビビットが地を蹴った。


玉座の間に、二つの電光が交錯した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る