51話 共存


崩れた庭園の一角、マミは一人、緊張した面持ちで立っていた。


先ほどの混乱の中で、いつの間にかイズマとはぐれてしまっていた。


「イズマ……無事かな」


不安を振り払うように、拳を握りしめる。


「――可愛いお嬢さん、独りぼっちかい?」


泡を纏った蛙のような怪物――バブルスが、ぬめった声で語りかけてきた。


「独りじゃ、心細いだろう?」


「……独りじゃない」


マミは、静かに答えた。


***


「へえ? じゃあ、その心強い誰かさんは、どこにいるんだい」


バブルスが、周囲を見渡しながら嘲るように笑った。


「――ここにいるよ」


マミは、自分の胸に手を当てた。


心の奥で、微かな気配が――ローズラが、答えるように蠢いた。


「あんた、私を消したいなら消してもいいって、前に言ったよね」


「……言ったねぇ」


胸の内から、気だるげな声が響いた。


「今、力を借りたい。手伝ってくれる?」


「……頼み方が、なってないねぇ」


呆れたような声が返ってきた。それでも、拒む気配はなかった。


***


「泡遊びは、もう終わりだよ」


マミの瞳の色が、僅かに変化した。


「な、なんだ、その目は……」


バブルスが、警戒するように後退る。


地面から、薔薇の蔓が一斉に這い出してきた。


「これは……!」


「安心しな。……殺しはしないよ」


蔓が、瞬く間にバブルスの体を絡め取っていく。


「ぐ、うわああっ!」


暴れようとするが、蔓の締め付けはびくともしなかった。


***


「な、なんで、そんな力を……」


バブルスが、動揺した声を漏らした。


「あんたの相手は、私だけじゃない」


マミの声に、僅かにローズラの響きが混じった。


「二人がかりだって、文句言われる筋合いはないだろ?」


蔓が、さらに強く締め付ける。


「参った……参りました……!」


観念したように、バブルスの体から力が抜けた。


***


蔓を緩め、マミはゆっくりと息を吐いた。


「……勝った」


「まあ、当然だろうねぇ」


胸の内から、素っ気ない声が返ってくる。


「ありがとう、ローズラ」


「礼はいらないよ。……あたしがいなきゃ、危なかっただけの話さ」


その憎まれ口にも、以前のような刺々しさはなかった。


***


「さて、と」


マミは、崩れた庭園を見渡した。


「イズマ、無事かな」


「気になるなら、探しに行けばいいだろう」


「……そうする」


マミは、瓦礫の隙間を縫うようにして歩き出した。


胸の奥では、ローズラの気配が、静かに寄り添い続けていた。


「――ふふ。案外、悪くない相棒じゃないか、あんた」


小さな呟きが、誰にも聞かれることなく、崩れた庭園に溶けていった。

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