幕間 僕にできる精一杯


崩れた王宮の裏庭で、クルットは一人、肩で息をしていた。


「はあ……はあ……」


隣で、ミアルもまた、傷だらけの体で羽ばたいていた。


「――もう、逃げ場はないぞ」


低い声とともに、鱗に覆われた爬虫類型のモンスターが、ゆっくりと近づいてきた。


***


「ジルバ……」


クルットは、震える拳を握りしめた。


「お前ごとき小僧が、アンクル5の相手になると思うなよ」


ジルバが、鋭い牙を剥き出しにしながら、嘲るように言った。


***


「――僕は、小僧じゃない」


クルットは、それでも真っ直ぐに、ジルバを見据えた。


「僕は……ビビット様の、民です」


***


「くだらん忠誠心だ」


ジルバの尾が、鋭くクルットを狙って振るわれた。


「うわっ……!」


かろうじて避けるが、体勢を崩す。


「ミアル、頼む!」


「――ピリィィッ!」


ミアルが、光の弾を放ちながら、クルットの前に割り込んだ。


***


戦いは、圧倒的な劣勢だった。


「くっ……!」


ミアルの光弾は、ジルバの分厚い鱗にほとんど通用しない。


一方、ジルバの牙と尾の連撃は、次第にクルットたちを追い詰めていった。


***


「まだまだ、これからだぜ」


ジルバの牙が、鋭く迫る。


「ミアル、避けろ!」


「ピリッ……!」


だが、既に限界だった。ミアルの体は、無数の傷を負い、羽ばたきすら、弱々しくなっていた。


***


「――そろそろ、終わりにするか」


ジルバの牙が、大きく開かれた。


その先に、クルットとミアルの姿が――逃げ場なく、追い詰められていた。


「くそ……! こんなところで……!」


***


――ビビット様は、今頃、王宮の奥で戦っているはずだ。


――マークさんたちも、命懸けで戦っている。


――なのに、僕は、こんなところで……。


その悔しさが、クルットの胸を締め付けた。


***


「こんな所で……!」


クルットは、震える体で、それでも顔を上げた。


「ビビット様が、大変な時に……! 僕が、折れるわけにはいかないんだぁぁ!!」


***


その叫びに応えるように――


ミアルの体から、これまでにない強い光が、一気に溢れ出した。


「な、なんだ……!」


眩い閃光が、ジルバの視界を、一瞬で覆い尽くした。


***


「――今だ!」


視界を奪われたジルバの隙を突き、クルットは、震える足で、渾身の力を込めて飛び込んだ。


「うおおおおおおおおっ!!」


恐怖を押し殺し、剥き出しの牙へと、真っ直ぐ突撃していく。


***


「な――」


ジルバが、反応するより早く、クルットの拳が、牙の根元に叩き込まれた。


パキィィィンッ!!


乾いた音とともに、牙が、根元から折れ砕けた。


***


「ぐああああああっ!!」


ジルバが、悲鳴を上げてよろめいた。


「く、くそ……! 武器を折られちゃ……!」


痛みに苦しみながら、ジルバは、身を翻した。


「ま、また来やがれ……!」


その姿は、瓦礫の向こうへと、逃げるように消えていった。


***


「……勝った、のか」


クルットは、震える足で、その場に立ち尽くしていた。


拳が、まだ震えている。恐怖は、完全には消えていなかった。


それでも――確かに、自分の力で、立ち向かうことができた。


***


「――ミアル」


振り返ると、傷だらけのミアルが、それでも、静かに舞い降りてくるところだった。


「よく、やってくれたな」


クルットは、震える拳を、そっと突き上げた。


***


「僕たち、やったよ」


ぎこちない、それでも精一杯のガッツポーズ。


ミアルは、その様子に――


小さく、微笑むように、優しく光を灯した。


「ピリ……」


その声には、確かな誇らしさが滲んでいた。


***


崩れた庭園に、二人だけの、小さな勝利の余韻が、静かに満ちていた。

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