50話 今度は、俺が守る番だ


拳が、目前に迫っていた。


避ける力は、もう残っていない。


「――終わりだ」


マグルスの声が、遠くに聞こえた。


意識が、暗転する寸前――


「――マーク!!」


聞こえた気がした。


***


本当に届いた声なのか、それとも、消えかけた意識が見せた幻なのか。マークには、判別がつかなかった。


だが、その声は――確かに、聞き覚えのあるものだった。


――離れていても、一緒に戦ってる。


たとえ幻聴だとしても、その一言が、消えかけていた意識に、小さな炎を灯した。


「……俺は」


かすれた声で、マークは呟いた。


「絶対に、負けらんねえんだよ」


***


拳に、痺れが走った。


いや――違う。それは痺れではなく、確かな力の奔流だった。


「な――」


迫るマグルスの拳が、マークの体に触れる寸前――


パチッ、と小さな火花が、マークの拳の周りで弾けた。


「これは……!」


十年間、隣で電撃を放ち続けてきた相棒の力。


姿は見えず、本当に届いたのかも分からない。それでも――その想いだけは、確かにここに宿っていた。


***


「うおおおおおおおおおっ!!」


咆哮とともに、マークは体を捻り、迫る拳を紙一重で避けた。


「な――」


マグルスが、初めて驚愕を見せた。


「消えたはずの、力が……」


「まだ、終わってねえよ」


マークの拳に、電撃が纏わりついていく。


***


「ビビットのおかげで、俺は十年間、生き延びてきた」


拳を握りしめながら、マークは静かに、しかし確かな熱を込めて続けた。


「今度は――俺が、守る番だ」


「……たかが、想いだけで、力が変わるわけがないだろう」


マグルスが、拳を振りかぶった。


「なら、証明してやるよ」


マークは、真っ向からその拳を迎え撃った。


***


拳と拳が激突する。


だが、今度は――マークの拳が、マグルスを押し返した。


「な、なにっ……!」


電撃を纏った拳の威力は、これまでとは比べ物にならなかった。


「まだだ!」


連続で放たれる拳が、次々とマグルスを打ち据えていく。


「ぐ、があっ……! こんな、はずでは……!」


たじろぐマグルスに、マークは容赦なく踏み込んだ。


***


「これで――終わりだ!」


渾身の一撃に、これまで積み上げてきた全ての想いを込める。


十年間の絆。ベロニカとの修行で得た覚悟。そして――さっき聞こえた、あの声。


本物だったのか、それとも自分自身が生み出した支えだったのか。それでも構わない、とマークは思った。


電撃を纏った拳が、マグルスの顔面に炸裂した。


ドゴォォォォォォンッ!!!


***


轟音とともに、マグルスの巨体が大きく吹き飛び、瓦礫の山に叩きつけられた。


「……が……」


一度、震えるように体を起こそうとしたが、それきり動かなくなった。


「……勝った、のか」


マークは、荒い息を吐きながら、拳を見つめた。


そこに残る、微かな電撃の余韻。


「サンキューな、ビビット」


誰へともなく、そう呟いた。


本当に届いているかは、分からなかった。それでも――その言葉は、崩れた王宮の残骸の中に、静かに溶けていった。

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