48話 合流


崩れた厨房区画で、イズマは氷の銃を構えていた。


「行くぜ、氷野郎」


蟹の甲殻を持つグラノダが、鋏を打ち鳴らしながら迫る。


「――マミ、そこにいろ」


背後に向かって、短く告げる。だが、返事はなかった。


混乱の中、いつの間にかはぐれてしまっていたことに、イズマはまだ気づいていなかった。


「……返事くらいしろよ」


小さく呟きながらも、目の前の敵に意識を戻す。


「効かねえよ、そんなもん!」


グラノダの分厚い甲殻が、氷弾を弾き返す。


「くっ……硬いな」


***


「なら――」


イズマは、幻術のクリスタルに意識を集中させた。


「ファントマ、力を貸せ」


――待ってたぜ。


頭の中で、あの薄い笑みが浮かぶ。視界が、僅かに歪んだ。


「な、なんだ、この銃口の数は……!」


グラノダの目の前に、無数の銃口の幻影が展開される。どれが本物か、判別がつかない。


「くそ、どこから……!」


しかし、それでもグラノダの甲殻は分厚く、決定打には至らなかった。


「……厄介だな」


イズマは、額の汗を拭いながら、次の一手を探っていた。


***


同じ頃、庭園の別区画では――


「――躱してばかりだな、赤い装束の男」


翼を持つブルーシーが、上空から急降下しながら鋭い爪を振るう。


「くっ……!」


グレンは炎の壁を展開し、その一撃を防いだ。


「悪いが、正面からやり合う気はねえ」


炎を纏った拳を握りながら、グレンは冷静に相手の動きを観察していた。


「――そこだ」


洗脳のクリスタルの力を、僅かに発動する。ブルーシーの視界に、一瞬の乱れを生じさせた。


「な……!?」


狙いが逸れ、ブルーシーの爪が、グレンではなく――足元の床に突き刺さった。


***


ズシャアアアッ!!


けたたましい音とともに、床が大きく崩れ落ちた。


「な、なんだ!?」


体勢を崩したグレンの足元が、真っ暗な奈落へと消えていく。


「うわっ……!」


落下する感覚とともに、視界が暗転した。


***


「――痛ってえ」


崩れた瓦礫の中、グレンが身を起こす。


「ここは……下の階層か」


埃を払いながら周囲を見渡すと――


「……グレン?」


聞き覚えのある声が、すぐ近くから聞こえた。


「イズマ……?」


同じく落下してきたのか、氷の銃を構えたイズマが、瓦礫の中から姿を現していた。


「マミ、無事――」


言いかけて、イズマは辺りを見回した。


「……いない」


背後に、当然あるはずの気配がなかった。


「――なんで、ここに」


***


「はぐれたのか」


グレンが、冷静に指摘した。


「崩落の時、後ろにいたはずなんだが……」


イズマの声に、僅かな焦りが滲んだ。だが、今は目の前の状況が優先だった。


「……クソ、今は目の前が先だ」


拳を握り直し、無理やり意識を戦闘に戻す。


「なんで、お前がここに……」


「そりゃ、こっちの台詞だ」


二人は、互いに警戒するように距離を取った。


だが、そんな緊張も長くは続かなかった。


「――邪魔が入ったな」


低い声とともに、崩れた天井の穴から、グラノダとブルーシーが同時に降りてきた。


「二対二、ってわけか」


「都合がいいじゃねえか」


グラノダとブルーシーが、示し合わせたように左右に展開する。


***


「……おい、イズマ」


グレンが、拳を構えながら静かに言った。


「弟の仇の話は、後回しだ」


「言われなくても分かってる」


イズマも、氷の銃を構え直した。マミのことは気がかりだった。だが、今は目の前の敵を片付けるしかない。


「今だけは、共闘してやる」


二人は背中合わせに立ち、それぞれの敵と対峙した。


炎と氷、二つの気配が、崩れた地下空間に静かに満ちていく。


「行くぞ」


「ああ」

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