32話 燃え尽きる城


 崩れ落ちる王宮を、四人は必死に駆け抜けていた。


「こっちだ! 出口が見える!」


先頭を走るマークが叫ぶ。


天井の破片が、次々と降り注いでくる。ビビットが電撃で瓦礫を弾き飛ばし、道を切り開いていく。


「もう少しだ……!」


イズマは、背負ったマミの体をしっかりと抱え直した。ぐったりとしたその重みが、腕に食い込む。


「頑張ってくれよ、マミ……」


小さく呟いた声は、崩落の轟音にかき消された。


***


「――そこだ!」


大きな亀裂の先に、外の光が見えた。


四人は、最後の力を振り絞って走り抜けた。


ドゴォォォンッ!!


背後で、巨大な音とともに王宮の一部が崩れ落ちる。振り返る間もなく、四人は外の草地へと転がり出た。


「はあ……はあ……」


肩で息をしながら、マークは仰向けに倒れ込んだ。


「……生きてる」


隣で、ビビットも同じように大の字になっていた。


「ビビ……」(死ぬかと思った……)


「同感だ」


***


「マミ……マミ、大丈夫か」


イズマは、背負っていたマミをそっと草の上に横たえた。


顔色は青白いが、呼吸は落ち着いている。


「……よかった」


安堵の息を吐いたその時――


「……ん……」


かすかに、マミの瞼が動いた。


「マミ!」


「……ここ、は……」


朦朧としながら、マミが目を開ける。


「イズマ……?」


「ああ、俺だ。もう大丈夫だ」


マミは、周囲を見回してから、ゆっくりと体を起こした。


「私……何が、あったんだっけ……」


記憶が曖昧なのか、困惑した表情を浮かべている。


「洗脳、されてたんだ。……もう、大丈夫だから」


イズマは、なるべく優しい声でそう告げた。


***


その時――


マミの瞳の奥に、ほんの一瞬。


赤い光が、微かに揺らめいた。


「……マミ?」


「……ん? どうしたの?」


すぐに、いつもの穏やかな瞳に戻っていた。


「……いや、なんでもない」


イズマは、その一瞬の違和感を、気のせいだと自分に言い聞かせた。


――今は、それどころじゃない。


「立てるか?」


「うん……多分」


マミは、イズマの手を借りて立ち上がった。


***


崩れゆく王宮を、四人はしばらく黙って見つめていた。


赤々と燃える炎が、夜空を焦がしている。


「……グレンは」


マークが、ぽつりと呟いた。


「戻ってこなかった、な」


「あいつなら、大丈夫だろ」


イズマが、努めて軽い調子で言った。だが、その声にも、拭いきれない不安が滲んでいた。


「行こう」


マミが、静かに言った。


「おじいちゃんの家、近くだから。……みんな、休んだ方がいい」


四人は、燃え盛る城に背を向け、花畑の奥へと歩き出した。


***


老人の家に辿り着いたのは、夜が明ける少し前だった。


「おお……無事だったか」


戸口で、老人がほっとした表情を浮かべた。


「ひどい怪我だな……。さあ、みんな中に入れ」


温かい灯りの中、四人はようやく、体を休めることができた。


囲炉裏の火を眺めながら、マークはビビットの隣で、静かに目を閉じた。


長い、長い一日だった。

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