33話 三つ巴
翌朝、マークが目を覚ますと、隣で眠っていたはずのビビットの姿がなかった。
「……ビビット?」
体を起こし、老人の家の外に出る。朝靄の中、ビビットが一人、花畑を眺めて立っていた。
「なんだ、こんな朝早くから」
「ん……マーク」
振り返ったビビットの顔に、いつもの調子が戻っていた。
「なんか、目が覚めちまってさ」
「昨日は、大変だったもんな」
マークは、ビビットの隣に並んで立った。
朝日に照らされた花畑が、静かに揺れている。
***
「なあ、ビビット」
「ん?」
「昨日……悪かったな。お前を、洗脳させたままにしちまって」
「気にすんなって、もう言っただろ」
ビビットは、軽く笑いながら答えた。
「それより、お前こそ大丈夫かよ。あんだけ殴られたんだぞ」
「へっちゃらだ」
マークは拳を握って見せた。実際、痛みはまだ全身に残っていたが、それを表に出すつもりはなかった。
二人はしばらく、無言でその場に立っていた。何を話すでもなく、ただ穏やかな朝の空気を味わっていた。
***
「――やっぱり、それは俺がもらう」
不意に、聞き覚えのある声が響いた。
振り返ると、イズマがマイルなき今、一人で立っていた。手には、氷の銃が構えられている。
「イズマ……お前」
「マーク、悪いが、そのクリスタル」
イズマの視線が、マークの懐に注がれていた。
「またかよ!」
マークは、うんざりしたように声を上げた。
「昨日、あんだけ一緒に戦ったのに、まだそれ言うのか」
「一緒に戦ったのと、クリスタルの話は別だ」
イズマの目に、揺るぎない意志が浮かんでいた。
「俺には、俺の目的がある」
「……本気か」
「本気だ」
***
「――弟の仇」
低い声が、三人目の位置から響いた。
振り向くと、満身創痍のグレンが、ゆっくりと歩み寄ってくる。
「グレン……!」
「お前は、生きてたのか」
イズマが、驚いたように目を見開いた。
「まだ、死んでねえよ」
グレンは、拳を握りしめながらマークを睨んだ。
「マーク。……お前と、決着をつける」
「おいおい……」
マークは、思わず苦笑いを浮かべた。
「今度は、二人がかりかよ」
「勘違いするな」
グレンが、静かに言った。
「俺の狙いは、お前だけだ。……そっちの二人は、巻き込まれるだけだろうな」
***
三者三様の視線が、朝の花畑の中で交錯した。
イズマは、クリスタルを狙って。
グレンは、弟の仇を討つために。
マークは――ただ、目の前の二人と向き合うために。
「ビビット、下がってろ」
「マーク……」
「大丈夫だ。何とかする」
拳を構えながら、マークは静かに息を吐いた。
――厄介なことになった。
だが、退くわけにはいかない。
「行くぞ」
三人が、同時に動き出そうとした――その瞬間。
花畑の空気が、急激に変わった。
「……ビビ……?」
ビビットの体が、小刻みに震え始めていた。
「ビビット、どうした」
マークが振り返ると、ビビットの視線は、花畑の向こうの一点に釘付けになっていた。
そこに――
ゆっくりと、一人の男が姿を現した。
「――プラズマ国王より、命を受けた」
冷たい声が、朝の静けさを切り裂いた。
「ビビット王子を、連れ戻しに来た」
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