31話 業火
「グレン……お前……」
イズマが、信じられないという顔で呟いた。血だらけの体で、なぜここに――。
「説明はいらねえ」
グレンは、拳から立ち上る炎を見つめながら、静かに言った。
「弟を、任せてきた。……今は、他にやることがある」
「な、なんで、私を……」
ローズラが、体を焼かれながら後ずさった。
「洗脳のクリスタル……それが目当てか」
「察しがいいな」
グレンの目に、昏い光が宿った。
「そのクリスタル、俺がもらう」
***
「くっ……! 舐めるんじゃないよ!」
ローズラが、薔薇の蔓を無数に展開した。
「私を誰だと――」
「知るかよ、そんなの」
グレンの拳が、蔓ごとローズラの体を打ち抜いた。
ドゴォンッ!!
「がはッ……!」
「お前の相手をしてる暇はねえんだよ」
グレンは、容赦なく炎を纏わせた拳を叩き込み続けた。
「や、やめ――」
「――終わりだ」
渾身の一撃が、ローズラの中心を貫いた。
***
ゴウッ!!
業火が、ローズラの体を一気に包み込んだ。
「あ、あああああああっ……!」
断末魔の叫びとともに、ローズラの体が崩れ落ちていく。
その体から、青白く輝く結晶が――洗脳のクリスタルが、宙に浮かび上がった。
グレンは、それを乱暴に掴み取った。
「……これで、一つ」
炎の光に照らされたその横顔に、感情の読めない影が差していた。
***
一方、その炎の余波が――マークとビビットの元にも届いていた。
「な……!」
ローズラの断末魔とともに、ビビットの体を縛っていた洗脳の力が、急速に緩んでいく。
「マーク……?」
ビビットの瞳に、はっきりとした光が戻った。
「俺、今……」
「気にすんな。戻ってきたなら、それでいい」
マークは、痛む体を押さえながら、笑ってみせた。
「うおおおおおおお!! ビビットが呟いた次の瞬間――
「――ビビ、ビビビッ!」(俺、お前を殴ったのか!?)
「気にすんなって言ってんだろ」
「ビビビーーーッ!!」(気にするに決まってんだろ!! ごめん!!)
その光景に、緊迫していた空気が、少しだけ緩んだ。
***
だが、緩む間もなかった。
「――逃げろ! 早く!」
グレンが叫んだ。
見ると、ローズラを燃やした炎が、部屋中の薔薇へと燃え広がっていた。
「な、なんだ、この火の回り方……!」
「この城全体が、薔薇で繋がってる。……もう、止められねえ」
グレンは、洗脳のクリスタルを懐にしまいながら、静かに告げた。
「早く出ろ。巻き込まれたくなけりゃな」
「お前は……!」
「俺は、いい」
マークの問いに、グレンは短く答えた。
「まだ、ここでやることがある」
***
「マミ!」
イズマが、気を失ったままのマミを背負い、駆け出す。
「マーク、ビビット、行くぞ!」
「ああ!」
炎が渦を巻く廊下を、四人は駆け抜けた。背後で、次々と天井が崩れ落ちていく。
「うわっ……!」
崩落を躱しながら、マークが叫んだ。
「グレン! お前も早く来い!」
だが、振り返っても、その姿はもう見えなかった。
***
燃え盛る王宮の中、グレンは一人、崩れゆく玉座の間に立っていた。
炎に照らされたその顔に、複雑な感情が浮かんでいた。
「……ブグン」
弟の名を、小さく呟く。
「お前の敵は……まだ、討ってねえ」
拳を握りしめ、グレンは静かに歩き出した。
燃え盛る炎の向こうへと、その姿が消えていった。
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