28話 再会
グレンと分かれた廊下の奥、イズマは一人、歩みを進めていた。
血の匂いが薄れ、代わりに――甘い、花の香りが漂い始めていた。
「……この先か」
重厚な扉を押し開けると、そこは異様な空間だった。
天井から壁一面まで、赤い薔薇が絡みついている。中央には、玉座のような椅子。その周囲に、無数の花びらが舞っていた。
「クリスタルの気配は……ここだ」
一歩、また一歩と、イズマは奥へと進んだ。
***
「――イズマ?」
不意に、聞き覚えのある声がした。
「……マミ?」
振り返ると、花びらの舞う中に、彼女が立っていた。
「マミ、なんでここに……!」
驚きと共に、駆け寄ろうとした。
「危ねえだろ、こんな場所……!」
だが――
マミの目に、光がなかった。
「……マミ?」
違和感に、足が止まる。
「マミ、大丈夫か……?」
一歩、また一歩と近づく。マミは、まるで人形のように、その場に佇んだままだった。
***
「……何、してるんだ、こんな、ところで」
イズマの声が、震えを帯びる。
「マミ、返事してくれ」
もう一歩、距離を詰めた。
その瞬間――
マミの手に、いつの間にか、薔薇から作られた剣が握られていた。
「……え」
反応する間もなかった。
ズブッ。
冷たい感触が、腹部を貫いた。
「が……あ……」
***
「……マミ?」
信じられない、というふうに、イズマはその場に膝をついた。
見上げると、マミは相変わらず虚ろな目で、イズマを見下ろしていた。
――なんで。
――なんで、お前が。
言葉にならない疑問が、頭の中を渦巻いた。
「くく……」
嘲るような笑い声が、玉座の方から響いた。
「悪いね。マミちゃんは、私の言うことしか聞かないんだ」
薔薇の花びらが渦を巻き、その中から――植物型のモンスターが姿を現した。
「ローズラ……」
イズマは、痛みに顔を歪めながらも、そう呟いた。
***
「その子は、洗脳のクリスタルで、私が操っている」
ローズラは、愉快そうに告げた。
「花使いの才能があってね。……とても良い人形になってくれた」
「てめ……え……」
「そんな怖い顔しないでよ。……あの子、あんたのことは、ちゃんと覚えてるみたいだったのに」
その言葉に、イズマの胸が締め付けられた。
倒れたまま、マミを見上げる。
「マミ……聞こえるか」
マミの目に、僅かな揺れが走った。
「じいさんが……待ってるぞ」
その一言に、マミの体が、びくりと震えた。
***
「な――」
ローズラの表情が、初めて険しくなった。
「洗脳に、亀裂……?」
マミの瞳が、激しく揺れ動いていた。まるで、内側で何かがせめぎ合っているかのように。
「……いず、ま……?」
「マミ! そうだ、俺だ!」
「駄目だよ、それは」
ローズラが、苛立たしげに手をかざした。
「もう一度、眠りなさい」
薔薇の蔓が、マミの体を締め付けるように絡みつく。
「マミ!!」
イズマが叫んだ、その瞬間――
***
「――そこまでだ」
新たな声が、部屋に響いた。
振り向くと、扉の向こうから、マークとビビットが駆け込んできた。
「イズマ! 大丈夫か!」
「マーク……なんでここに……」
「ブグンとの戦い、片付けてきたところだ。……それより」
マークは、玉座の前に立つローズラを睨みつけた。
「お前が、黒幕か」
「……あら。また、増えたね」
ローズラは、僅かに眉をひそめた。
「賑やかなのは嫌いじゃないけど……欲張りすぎると、ろくなことにならないよ」
薔薇の蔓が、四方から広がり始めた。
「マーク、気をつけろ。あいつ、洗脳のクリスタルを――」
イズマが、痛みに顔を歪めながら警告した。
その言葉が終わる前に、部屋中の薔薇が、一斉にざわめき始めた。
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